ブレグジッドの混乱は留学生にも影響

100万人規模のデモが行われるなど、EU=ヨーロッパ連合からの離脱、いわゆるブレグジットで混乱が続くイギリス。市民からの政治への不信が募る中、不安感は現地在住のイギリス人以外にも及んでいます。

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「漫画バカリ読ンデイルケド、モット色々ナ本ヲ読ンダ方ガイイ」
教室からこんな日本語が聞こえてきた。大英博物館のすぐそば、ロンドン大学SOAS(School of Oriental and Africa Studies)校での授業風景だ。SOAS校は1916年創立で、ヨーロッパの中でも特にアジア・アフリカの研究が進んでいる大学である。世界各国から多くの学生が集まってきており、日本語だけでもおよそ20ヵ国200人以上の学生がこの大学で学んでいる。

この日取材したのは日本語の中級クラス。イギリス人5人、イタリア人4人、フランス人1人、アジアから3人と計13人のクラスである。

イタリアから来たシモーネさん(21)は、「子供の時に日本のテレビを見て、日本に興味をもった。将来は日本語の先生になりたい!」と日本語で話してくれた。彼らにも離脱混迷の影響が及んできている。

EU離脱で授業料が高騰?!

フランス人のマリー・バランジャさん(21)は、「イギリスがEUを離脱すると、私たちEU域内からの学生は授業料が高くなる。多くの学生はイギリスで勉強できなくなるだろう」と不安を吐露した。

今、EUからの学生はイギリス人と同じ待遇で授業を受けているが、離脱後は、待遇が変わり、授業料が倍に跳ね上がる可能性がある。

現在の授業料は、
イギリス、EU域内の学生:£9250/年(約135万円)
日本などのEU域外の学生:£17750/年(約260万円)
とその差は大きい。

大学は今いる学生が卒業するまでと、離脱後の激変緩和のために設けられる、いわゆる「移行期間」中の2020年末までに入学する学生は、イギリス人と同じ待遇にする方針だが、それ以降や、在校生が卒業後大学院に進学する場合はどうなるのかまだ決まっていない。

このクラスで日本語を教えるジョーンズ・佳子講師は、「学生が減り、日本語のクラスが縮小される可能性がある。実はこれは日本人留学生にも影響がある。学生全体の数が減れば、クラスを維持するためには全員の授業料を上げなくてはいけない。日本から留学を予定している学生たちにとっても対岸の火事ではない」と日本人への影響も指摘している。

研究費削減でイギリスの学術界の未来は・・・

留学生だけでなくイギリスで研究している日本人研究者にも影響が出てきている。このSOAS校で経営学を研究している篠沢義勝准教授は ・・・「EUからの研究費補助がなくなる。この費用は研究者にとってかなり大きい」と言う。イギリス全体の研究費はおよそ£79億(およそ1兆円)。その11%にあたる£8億(およそ1000億円)がEUからの基金から拠出されるが、それが「0」になる。

もう一つ、大きな問題があると篠沢准教授は指摘する。
「EUからの先生が浮足立ってきている。イギリスでこのまま研究していていいのかなと思い始めており、明日いきなりフランスやイタリアに帰る可能性がどんどん大きくなってきた。私も共同研究者である先生が転職を考えている相手だと、真剣に討議できなくなってきており、研究が難しい状況になってきている」

また、日本から来ている再生医療の研究者も、「イギリスからの人材流出が一番の問題。教えてもらえる先生も、教える生徒もいなくなる。間違いなく研究の停滞をまねく」と警鐘ならした。

EU域内の自由な人の行き来が制限され、EU基金などもなくなり、研究費が削減されていくイギリスの学術界の未来はどうなるのか。篠沢准教授は「目先のことで言えば明るい兆しは見られない。これからどれだけ暗くなるのかということだけが関心なのではないか」と、EU離脱が何も良い影響を及ぼさないとの見解を示している。

実際にノルウェー政府は混乱が続き、授業料がどうなるのかなど先が見えないイギリスへの留学を避けた方がよいとの方針を打ち出した。

イギリスは今、学ぶ環境において分岐点を迎えている。

【執筆:FNNロンドン支局 小堀孝政】
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小堀 孝政
小堀 孝政

取材&中継の報道カメラマン。
元ロンドン支局特派員 ヨーロッパ、アフリカ各国の取材を経験