「イノベーティブな町」
「近くに大きなマウントレーニアという山があって、それに近づきながら運転していく感覚になるんです」
初フライトを終えて、JALの田村敬機長はほっとした表情で私に語りかけた。
「私たちが就航しているところでは、都市のすぐ横に大きな山がある光景はなかなかないんです。私自身は初めての感覚で操縦していたので必死で、景色を楽しむ余裕もなかったんですが、お客様に見てもらっているかなという気持ちでした」
JALが3月31日から新たに就航したのは、成田と米・シアトルを結ぶ路線。JALのシアトル線は60年前の1959年に開設されたものの、1992年に運休。27年ぶりの再開となった。
シアトルと言えば、イチロー選手の引退や菊池雄星投手の移籍など、メジャーリーグ・シアトルマリナーズのイメージが日本では強いが、Amazonやマイクロソフト、スターバックス、コストコなどの巨大企業を生んだ「イノベーティブな町」として知られている。
JALによると、シアトルはロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコ、ラスベガスに次いで5番目に需要が大きな都市だという。
多くの企業が拠点を構え、スポーツ観戦などの観光資源が豊富な都市ではあるが、すでに全日空やデルタ航空など数社が日本からのフライトを運航している。そんな中、なぜ競争にあえて参入したのだろうか?日本航空の取締役専務執行役員の菊山英樹路線統括本部長は、シアトルでの記念式典のあと勝算についてこう説明した。
「当初の想定よりも予約入りは良いと思います。特にエコノミークラスがいいですね。正直言って、競争は楽な路線ではないですけど、我々のバックにアラスカ航空がついてくれている影響は計り知れないです」
アラスカ航空とは、名前は「アラスカ」だが、ワシントン州シアトルをハブ空港として使うアメリカの航空会社。JALとはこれまでも共同運航便を飛ばしていたが、コードシェア路線を拡大し、シアトル到着日に北米55都市へ乗り継げるようにしたという。
アメリカ西海岸の大都市はいくつかあるが、緯度の違いから「東京から最も近いアメリカ本土」がシアトルで、飛行時間も短い。そのため、乗り継ぎ需要もかなり期待できるのだ。
実際、満席となった日本からの初フライトで客室乗務員に声をかけたところ、「乗り継ぎの外国人のお客様が多いように感じます。お休みできる時間が短いので、手早くサービスすることを心掛けています」と話していた。
シアトルという都市そのもののビジネスや観光の魅力だけでなく、乗り継ぎの利便性から、日米での往来がさらに活発になりそうだ。
【米シアトル特集】
1.JALが27年ぶりにシアトル線を就航した意外な理由(この記事)
2.Amazon GoがSTOP?「現金やめた」をやめます(5月3日公開)
3.スタバ生誕の地・シアトルで見えた新潮流!「次の時代のコーヒー」はこれが主流に?(5月6日公開)