【独自入手】「羽田は緩い」高級腕時計・密輸手引書の全貌 “脱税で報酬”のはずが想定外の事態で大損害 全国で新たな詐欺の疑い

カテゴリ:国内

  • 交通・宿泊費、現地での移動費も全額会社負担で給料あり
  • パワポ40枚分の「手引書」で密輸をレクチャー
  • 腕時計代は「自分のクレジットカードで支払い」が落とし穴に

大手バイト情報誌に「密輸」の人員募集

都内在住・30代のある男性は、2018年春、某有名アイドルグループが歌って踊るコマーシャルでおなじみの大手バイト情報サイトで、ある魅力的な“仕事”を見つけた。“短期”“高収入”で検索したら、まさに自分が望んでいた仕事がそこにあったのだ

その会社は「海外旅行が好きな方大歓迎」としたうえで、海外からの「商品仕入れをサポート」する仕事の募集をしていたのだが、「交通・宿泊費は全額会社負担」、さらに、仕事のあとは「現地解散」で、その後「ショッピングするもよし、観光するもよし。自由です」とあったのだ。

つまり、なにかしらの“商品仕入れサポート”をするだけで、タダで海外旅行ができ、さらに給料も支払われる、と。

さすがに幾分の怪しさを感じながらも、まずは話を聞いてみようと、指定されたとおりに履歴書を持参し都内の店舗に面接に出かけたのが地獄の入り口だった。

都内の店舗 ※画像は加工しています

全て自分の都合のいいように解釈

要は脱税の手伝いだった。東南アジアの国々で、指定された高額のロレックスを購入したのち、日本の税関で申告せず入国(合計20万円以上の品を海外で購入し帰国した場合、課税価格に対して8%の消費税を納めなくてはならない)、空港の外で待つ人物にロレックスを手渡しし、購入代金は後日受け取る、というもの。

報酬は現地で受け取る「免税額」。たとえばシンガポールの場合、海外旅行者は帰国の際、現地の空港で免税手続きをしたら、支払い金額の7%分がその場で還付される。それがまるまる報酬になるというのだ。例えば500万円の腕時計を購入し密輸すれば、35万円の報酬。さらに、飛行機代、宿泊費は無料。現地での移動代などの経費も使い放題だという。

※一部画像を加工しています

しかし、ロレックスを購入する際に使用を指示されたのは自分のクレジットカードだった。

本当に購入代金は支払われるのか?そもそも犯罪ではないのか?との疑問が沸いたのだが…都内に店舗が実在する…大手バイト情報サイトが募集している…ばれなかったらいいのではないか…自分に都合のいいように事態を解釈し、彼は「まずは1回だけ」と、翌月3泊4日の“タダのシンガポール旅行”に参加することにした。

パワポ40枚分の「手引書」で羽田レクチャー

出国日の朝、羽田空港のカフェで男らから1時間30分にわたり、ロレックスの選別方法、商品の取り扱い方、入国時の注意点など詳細にわたる“レクチャー”を受けた。

手渡された40枚のパワポは「買い付けのコツ」「購入と仕分け」、さらに「シンガポールの手引き」に分かれていた。

「買い付けのコツ」には99本のロレックスの品名、たとえば「コスモグラフ デイトナ」「エクスプローラー」や、その品番が写真付きで記されていた。この中の商品の買い付けを指示された。

ご丁寧に「高い時計を買えばよいということではない」として、どのようなレア品を狙えばいいのかも記されていた

「購入と仕分け」には購入後の取り扱い方が記されていた。保証書やタグは、財布や雑誌にはさむこと。通関時は腕時計のバンド等に貼られたビニールシールがはがれないように、腕にはめた時計をバンダナやリストバンドではさむこと。 

羽田は「成田より緩い」が、成田は「規制が厳しい」から注意すること。さらに「万が一あっても他の者の名前を出さない。まず買った痕跡がないから堂々と出る(※原文ママ)」とのアドバイス。

「シンガポールの手引き」には現地に数多くあるロレックス取扱店の案内、移動方法などが載っていた。
資料の表紙には「流出禁止」「自己の責任で管理」との注意書き、さらに全ページにわたり「使用後破棄」の文字。一部ページには受け取った人物の名前とともに「自己責任・流出防止」のすかしが入っていた。

抜け出せない「おいしい」ループから一転 

密輸は成功した。一緒にいた複数のアルバイトとともに密輸したのは「サブマリーナ」等、合計6本・約1500万円分。彼は約300万円を負担した。その免税額分はきちんと手元に残り、さらに羽田で待っていた男らに手渡したロレックス購入代分も、後日支払われた。

彼は同様の手口で、その後複数回シンガポールに行き報酬を得た。1回限りだったはずなのに「あまりに簡単でおいしかった」ため「続く限りはやろう」と心境が変化していた。

しかし、2018年暮れの“東南アジア旅行”で事態は暗転した。
いつも通り負担した約400万円分のロレックス代のうち、200万円分が支払われなかったのだ。ロレックスは羽田で手渡しているから手元にない。男らにメールしても無視、連絡が一切とれなくなった。

都内の店舗に赴いても、「自分も騙された」と主張する女性事務員がいるのみで埒があかなかった。

その後、同様の事態に巻き込まれている人たちが、ほかにも数多くいることを知った。

※一部画像を加工しています

税関に発覚 1000万円分以上のロレックス没収 

同じ手口を繰り返していたバイヤーが2018年冬、成田の税関に捕まった。購入した1000万円分以上のロレックスが没収され、会社から購入代金は支払われなかったという。

税関の取り調べを受けたこの人物は、後日「嘘をつけばつくほど苦しくなるから、はやく本当のことを言ったほうがいい」と彼を諭したそうだ。その中で、税関職員による説諭の内容を聞き、彼もようやく自らが犯していた罪の重さに気が付いた。

「当然、悪いことをしているという認識は、はじめからあったわけですよね」という問いに対し、彼はか細い声で「確かにあったが…一回やると簡単なものだとおもってしまった」と答えた。そして「捕まった彼女から税関職員による話を聞いて、初めて税関の仕事の意味、意義の深さに気づかされた。それを欺き、納税という義務を果たさなかった。あまりに気軽に愚かなことをしてしまった」と今にも泣きそうな面持ちで語った。

ロレックスを購入した東南アジアの店舗のひとつ ※一部画像を加工しています

“報酬”が過去に何度か支払われていたため、結果的に彼が受けた“損害”は100万円ほどだ。ただ、男らが持っていた「バイヤーリスト」をこっそり見た際、そこには300人ほどの名前が載っていたという。このうち、一体何人のひとたちが「持ち逃げ」されたのかは不明だが、彼は「100人以上が持ち逃げされ、その額は数億を優に超えている」と主張している。

この事案に横たわる闇は深い。

密輸を指示・実行した彼ら登場人物全員が悪いのは言うまでもない。しかも「脱税」であることは認識していた。

しかし、甘い汁で誘い、バイトたちを「共犯者」に仕立てあげることで、その後「持ち逃げ」されたとしても、バイトらに「犯罪に加担している」との認識があることで、警察に駆け込みづらくさせる、とも受け取れる男らの筋書き。仮に警察に駆け込んだとしても、バイトらも「密輸グループの一味」と捉えられかねないので、そう簡単に「被害」として受理はされないであろう構図。
仮に本当に「持ち逃げ」だった場合、泣き寝入りをせざるを得ない状況を作り出し、男らがすべてを持ち去る…クレジットカードでの購入履歴、出入国など、犯罪の足跡が残っているのはバイト達で男らではない。

巧みに加担者らの心理をついた構図だった。

首謀者が諸悪の根源であることは間違いないだろうが、彼がした密輸は懲役10年以下もしくは1000万円の罰金、またはその両方が科せられる犯罪であることも忘れてはならない。

(執筆:フジテレビ プライムオンラインデスク 森下知哉)