レジなし無人スーパー?

24時間営業による拘束時間の長さなどに不満が多い―。

セブン-イレブン・ジャパンやファミリーマート、ローソンなど、8社の経営トップが集まった会合で世耕経産相はコンビニをめぐる問題点を指摘し、「IT導入による省人化」など、自主的な取り組みを盛り込んだ行動計画を作るよう異例の要請を行なった。

人手不足をテクノロジーで何とかできないか。そのヒントとして注目されているのが、シアトルに一号店が誕生した「Amazon Go」だ。

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「レジなし無人スーパー」などと紹介されることも多いAmazon Go。スマホの専用アプリをインストールして入り口でかざせば、あとは棚から好きな商品を取って、そのまま店外に出るだけ。レジに並んだり、機械でバーコードをスキャンしたりという手間は一切いらない。

「ゲートを通って出るときに音がする」といったようなことも何もないので、初めて利用した時は、誰かに呼び止められたりしないのかとドキドキしてしまうくらいだ。

スマホを持って店に入り、好きな商品を取って出るだけ(画像は一部加工)
スマホを持って店に入り、好きな商品を取って出るだけ(画像は一部加工)

この仕組み、商品にタグなどをつけて読み取っているわけでもない。

天井などに設置されたカメラや商品棚のセンサーが、利用者の行動と商品の動きを追跡。どの利用者がどの商品をいくつ店の外に持ち出したかをAIが判断し、事前に登録したクレジットカードで決済する。

天井から客の行動を追跡
天井から客の行動を追跡

お土産用のチョコレートを大量に買ってみたり、商品を何度か棚に戻してみたりと、何度か買い物をしてみたが、決済を間違えることは一度もなかった。

この技術で、確かに店にレジ係はいなかったが、実際には「無人スーパー」ではない。入り口ではいつも案内係が笑顔を振りまいているし、酒の販売コーナーに近づくと年齢確認のため店員が寄ってくる。また、商品の回転率がいいので、いつ訪れても商品補充担当者がせわしなく動いていた。

そのため、「レジ廃止で浮いたマンパワーを他に振り分けている」という表現の方が正しい。むしろ忙しくなっているのではとの印象も受ける。

そもそも、Amazon Goは夜中や早朝は店舗が閉まっているので、この技術を導入したとしても日本のコンビニで24時間営業を続けるヒントにはならない。

店員が慌ただしく動く店内
店員が慌ただしく動く店内
人気商品の棚は補充しないと、すぐに空になる
人気商品の棚は補充しないと、すぐに空になる

Amazon Goの本質

Amazon Goの本質は「人件費の削減」ではない。それどころか、「キャッシュレス」でも、「レジなし」でもなさそうだ。

いくら「利便性が高い」と言っても、あくまでスマートフォンやクレジットカードを持っている客が前提だ。そうではない人たちにとっては店に入ることすらできず、そうした店舗が増える社会は不便でしかない。

米では「キャッシュレス店は、スマホなどを持っていない人への差別に当たる」という声が強まり、キャッシュレスを規制する動きが出ている。
4月10日には、米CNBCが「Amazon Goで現金による支払いができるようになる」と報じた。

具体的な時期や方法はわかっていないが、CNBCは「先月、フィラデルフィアがキャッシュレス店舗を禁止するアメリカで最初の主要都市となり、ニュージャージー州や、ニューヨーク、サンフランシスコ、シカゴといった都市も同様の法律を検討している」ことが背景との見方を示している。

スマホがない客への差別?
スマホがない客への差別?

Amazon Goにとって望んでいた環境変化ではないだろうが、必ずしもビジネスを脅かすような事態ではなさそうだ。

入店する客を何人も眺めていると、アマゾンが様々な客のニーズにこたえられるよう対応していることが強く感じられる。

来店客には、大きく分けると2つのタイプがいる。

私のように物珍しそうに時間をかけて店内をくまなく回る観光客風の人と、何度もリピートしていると思われる客だ。後者は、早い人では来店から10秒で、欲しい商品だけを持って立ち去っていく。

どの棚に何があるのかわかっているのはもちろんだが、店内のレイアウトを見ればわかる通り、飲み物やサンドイッチなど「それだけが目当て」となりやすい商品は入り口近くに配置されている。

一方、観光客が大量に買っていくオリジナル商品は、目につきやすい位置に置かれている。

そうした「すべての客に満足のいく動線」を作り上げているのがデータの収集分析だ。

Amazon GOの技術では、「誰が何を買った」というだけでなく、「どういう順番で手に取ったのか」ということまですべて把握できる。それどころか、一度手に取った商品をどういうタイミングで返したのかという行動まで徹底的に分析できるため、今後店舗を拡大していくときには、消費者体験をもとにした品揃えや動線が可能となる。

確かに、レジができれば会計待ちの列ができるなどのパフォーマンスの低下が懸念される。しかし、カメラですべての客を追跡しているので、「キャッシュレス客」と「現金客」を入店時に判別し、“現金客”が支払わずに店を出ていった場合は警告するということも可能だ。

「キャッシュレス」以上に大切にされているデータ分析で、現金客の利便性も合わせた店舗設計に変更されていくのだろう。

現金客も気軽にGO?
現金客も気軽にGO?

アマゾンはこれまでも実店舗にも強い意識を向けている。2017年にはオーガニック食料品で人気の高級スーパー、ホールフーズ・マーケットを買収した。

品揃えやサービスは、Amazon Goと全く競合しない巨大スーパーだ。

店内に入ると、アマゾン・プライム会員は割引となると表示された商品が目立つ。また、スマートスピーカー「アマゾン・エコー」などアマゾン関連の商品がいくつも置かれていた。

アマゾンでオンライン注文した商品を受け取れるロッカーもあり、ネット通販と実店舗をうまく組み合わせてビジネスの拡大を狙っていることがわかる。

様々な環境変化にも適応していくアマゾン。今後、どのような一手を打つのだろうか。

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清水俊宏
清水俊宏

世の中には「伝えたい」と思っている人がたくさんいて、「知りたい」と思っている人がたくさんいる。その間にいるメディアは何をすべきか。現場に足を運んで声を聴く。そして、自分の頭で考える。その内容が一人でも多くの人に届けられるなら、テレビでもネットでも構わない。メディアのあり方そのものも変えていきたい。
2002年フジテレビ入社。政治部で小泉首相番など担当。新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選、14年衆院選)、ニュースJAPANプロデューサーなどを経て、2016年から「ニュースコンテンツプロジェクトリーダー」。『ホウドウキョク』などニュースメディア戦略の構築を手掛けている。