失言からわずか2時間後の辞任劇
「被災者の皆さんの気持ちを傷つけるような発言をしてしまって申し訳ない」。
10日夜、桜田義孝東京オリンピック・パラリンピック担当相が突如、辞任した。
辞任の引き金となったのは、同日夜、岩手県選出で自民党所属、高橋比奈子衆院議員のパーティーでの発言。
桜田五輪相は「東日本大震災ということは、岩手も入っている」などとした上で、「復興以上に大事なのは高橋さんでございます」と述べたのだ。
東日本大震災の被災地・被災者の軽視と捉われかねないスピーチに、与野党から批判が集中。
桜田五輪相はこの問題発言からわずか2時間後、安倍首相に辞表を提出。急転直下の辞任劇となった。
振り返れば失言だらけ...
桜田五輪相は閣僚に就任して以降、相次ぐ失言で批判にさらされてきた。
他の議員名や五輪関係の大会名を間違えたほか、スポーツ選手の病気公表をめぐり「がっかりしている」と発言したこともある。直近では、参議院内閣委員会で宮城・石巻市を「いしまきし」と3回にわたり言い間違えた。
また、東日本大震災については、3月に「国道交通網と高速道路が健全に動いていた」と述べ、その後に発言を撤回したこともある。
失言の中には、発言全体を聞けば印象が変わるものもあるが、それでも不用意な言動が目立つ。
しかし、桜田五輪相のような失言をしてしまう人は、私たちの周りにもいる。思いがけない発言で他者を傷つけた、傷つけられた人もいるのではないだろうか。
それでは、失言を重ねてしまう人には特徴や傾向があるのだろうか。そして、当てはまった場合、SNSの普及で1回の失言のダメージが大きくなる昨今、どのように対策をすれば良いのだろうか。
コミュニケーションを研究する「株式会社 話し方研究所」の福田賢司代表取締役に話を伺った。
要因の一つは表現力の乏しさ
――失言をする・しやすい人にはどんな特徴・傾向がある?
桜田さんにも当てはまりますが、失言をしやすい方は表現力が乏しい傾向にあります。自分が言いたいこと、伝えたいこと、思いついたことをそのままの言葉で話してしまうためです。また、「面白いことを言ってやろう」「場を盛り上げてやろう」となりがちな、目立ちたがり屋も失言しやすいと言えます。
このほか、自分を客観的に評価できない方も失言しやすい傾向にあると思われます。仕事で業績を上げた方が「自分なら何を言っても大丈夫」と自意識過剰になり、失言することもあります。
このような方は政治家に限らず、職場など私たちの身の周りにもいます。桜田さんのように、ニュースにはなりませんが「あの人は失言が多い」とレッテルを貼られるかもしれません。
――失言が起こりやすい状況や環境などはある?
パーティーやお酒の席など、注目が集まる機会がある場では注意が必要でしょう。ここなら「許されるだろう」「通じるだろう」と思い、不用意な発言をしてしまうことがあります。
また、自分の意見を主張するときや反論をされたときにも注意が必要です。「君の考えはどうでもいい」などと乱暴な言葉を返してしまう可能性もあります。自分が反論しなければならないときは、より慎重になるべきでしょう。
――桜田大臣は失言が多かったが、どんなタイプに当てはまる?
表現力の乏しさ、目立ちたがり屋なところが当てはまるのではないでしょうか。
私の出身は千葉・柏市で桜田さんと同郷ですが、「桜田さんは口下手な方」という話を聞いたことがあります。「場を盛り上げよう」というサービス精神がマイナスに作用し、度重なる失言につながったのではないでしょうか。
政治家のようにスピーチする機会が多い方は、発言が相手にどう伝わるかを意識し、慎重に発言する傾向が強いです。
桜田さんはそうした意識があまり高くなかったのではないでしょうか。
言葉を“表現用のメッセージ”に変換する
――失言しないためにはどんな対応をすれば良い?
失言が少ない方は、思いついた言葉を“表現用のメッセージ”に変換している方が多いです。頭に浮かんだ言葉を「場を凍らせるのでは」「不愉快にさせるのでは」と振り返り、1、2秒で修正してから口に出すのです。
インタビューや答弁などを見た限り、桜田さんはこの変換が苦手という印象を受けます。
ですがこの“表現用メッセージ”の変換、慣れていないと結構難しいものです。多くの方は、自分が「何をどう話すか」ばかりで「どう聞かれるか」までは意識が及んでいません。思いついたことをそのまま伝えるのではなく、ためて表現用に変換する癖を付けることをお勧めします。
――現実ではどんな点に気を付ければ良い??
自分の言葉が、相手にどう伝わり、どう評価されるかを考えることが第一歩です。
例えば、残業する同僚に「まだ帰らないの?」と話しかけた場合、仕事に余裕がある相手は答えてくれるかもしれませんが、余裕がないといら立たせてしまうかもしれません。この場合は「結構仕事を抱えているの?」と変換すると、相手に思いやりの気持ちが伝わります。
また、言葉が辞書的な意味通りに伝わるわけではないことも知っておく必要があります。
会社から帰った夫がリビングでくつろぐ妻に「きょう何してたの?」と聞いた場合、妻には「きょう一日だらだらしていたの?」という意味で伝わる可能性もあるのです。言葉が相手にどう伝わるか意識しなければ、不意に発した言葉が相手を傷つける可能性もあります。
どのような状況でも、場の空気や相手の心理状態を観察して、“表現用のメッセージ”を伝えることをお勧めします。
否定的な側面を強調する癖がある人は、ポジティブな表現を心がけた方が良いでしょう。
――もしも失言したら、どんな対応を取れば良い?
政治家など立場のある人が失言した場合、「不愉快にさせてしまった、自分が悪かった」と素直に謝ることです。
謝らなかったり言い訳をしたりすると、立場のある人ほど制裁を受けることになります。
一般の方の場合、謝罪に加えて「失言した人」とは別のイメージを持ってもらうことも大切です。
相手側は「もういいよ」と言ってくれるかもしれませんが、そのままでは想像以上にわだかまりが残ります。 仕事を手伝ったり、ランチに誘ったりするなど、関係を修復するフォローが必要となるでしょう。
レッテルが貼られやすくなった
――現在は発言がすぐ拡散する時代。心がけるべき意識などはある?
現在はツイッターなどのSNSが広がり、ちょっとした一言が記録に残る時代となりました。
それと同時に、個々の発言に対してレッテルが貼られやすくなったとも思います。今回のように許されない失言もありますが、発言を控え、考えていることを口に出せない時代になってほしくはありません。
情報が拡散することをプラスに捉え、自分の表現力を鍛えることが必要ではないでしょうか。
インフルエンサーなど、メッセージを分かりやすく届けている方もたくさんいます。
――失言しやすい人に対してのアドバイスは?
失言はあなたが思う以上に、あなた自身の価値を下げているということに気付いてほしいです。若い世代は経験不足などから失言することもあると思いますが、その失言をきっかけに思いやりや配慮を学んでいただければと願います。
「口は災いの元」と言うが、この場だけだから大丈夫と思って話しても、今はその場にいる人がSNSでつぶやいたりスマホで動画を撮っていたりと、失言がわずかな時間で拡散してしまう環境にあるから、より注意が必要だ。
失言しやすいタイプに当てはまってしまった人は、考えたことや思いを言葉にする前に、今一度、その発言が適切かどうか踏みとどまることを特に意識しよう。