「上座(かみざ)」に座るのはどっち? 米中貿易協議の“座り位置”で競うメンツと国益

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  • 国内向けの「見え方」に苦慮

「座り位置」に異変

「合意が出来れば首脳会談を行う。4週間程度でわかるだろう」
アメリカのトランプ大統領はこのように語り、隣に座る中国の劉鶴副首相とガッチリ握手を交わした。

米中の交渉団はここ数か月、ワシントンと北京を往復して、米中貿易戦争終結に向けた協議を重ねており、トランプ大統領の発言は今回の協議で、合意に向けた進展があったことをにじませるものだ。中国代表団を率いる劉副首相は2月にワシントンで行われた米中協議の際も、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談しているが、今回とは明らかに様子が異なる点がある。

「“玉座”のトランプ大統領に報告」

2019年2月 米中協議の際、劉氏はトランプ大統領の真向かいに座っていた

2月と今回の会談での劉副首相の座り位置の違いに注目してほしい。
2月の時は、トランプ大統領と向かい合う形で、アメリカのライトハイザー通商代表や、ムニューシン財務長官ら他の交渉担当者と同列に座っているのだ。

トランプ大統領は日本で言うところの「上座」に座り、劉副首相らはトランプ大統領の部下と同列の「下座」という構図になり、ウェイボなど中国ネット世論では、「トランプが玉座に座って、劉鶴の報告を聞いている。明らかに下級と上級の会見だ」「力がある者が上座に座る」などと批判の声が上がった。

さらにネット上には日清戦争で対日講和条約の全権を務めた李鴻章の写真と並べ、「劉鶴は李鴻章に及ばない」と揶揄した書き込みも広まっている。意味するところは、敗軍の将とはいえ、テーブルを挟んで相手と対等に交渉した李鴻章に比べ、劉副首相は下座に甘んじ、アメリカに譲歩しすぎているという批判である。

清王朝の政治家 李鴻章 日清戦争の講和条約「下関条約」をめぐり伊藤博文らとの交渉にあたった

「見え方」にも苦慮

 外交儀礼上、トランプ大統領は国家元首なのだから、格上の立場で劉副首相を迎え入れることはいわば通常のことである。相手がもしアメリカ以外の元首であれば、中国でもこれほど世論が沸騰しなかったであろう。
それだけ中国にとって対米関係はデリケートで扱いが難しい。力関係で言えば譲歩せざるを得ない相手だが、国内からは「圧力に屈した」とは見られたくない。

アメリカ産大豆を大量購入したり、外国企業の権益保護強化をうたった「外商投資法」を異例の速さで成立させるなど、実質的には譲歩を重ねながらも、中国政府は「相互利益とウィンウィン」を強調している。メンツを重んじる中国としては、それだけ「見え方」にも細心の注意を払っていることが伺え、「座り位置」もその一環とみられる。

今回のトランプ大統領と劉副首相の会談について、中国の主要メディアは文字ベースでは伝えているが、写真や映像を掲載した報道はほとんど見当たらない。それどころか、ネットに掲載された記事に対するコメントも削除されている可能性がある。わかりやすすぎる変化にかえって世論からのツッコミを受けるのを警戒しているのかもしれない。

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 首脳会談によって最終決着を目指す米中だが、習近平国家主席にとっては、譲歩批判がくすぶる中、中途半端な状態で訪米し、2月の米朝首脳会談のように失敗で終われば、それこそメンツに大きく関わる。

膠着が続いた場合、お互いのメンツに関係なく自然と米中首脳が顔を合わせることが出来るのは6月下旬に開かれるG20サミットの場、つまり日本の大阪が舞台になる可能性があるのだ。

【執筆:FNN北京支局長 高橋宏朋】

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