内閣府は3月29日、40~64歳のひきこもりの人が全国で61万3000人いるとの推計値を公表した。

中高年対象の調査は今回が初めてで、2015年度の調査で推計した15~39歳の54万1000人を上回った。

調査は去年12月に実施。
40~64歳を対象に、全国の男女5000人のうち3248人から回答を得た。

内閣府は、「自室からほとんど出ない」や「趣味の用事の時だけ外出する」などの状態が半年以上続いている人を広い意味での「ひきこもり」と定義した結果、これに該当する人の割合は1.45%。

これにより、40歳から64歳でひきこもりの人は、推計で61万3000人に上ることが分かった。

きっかけは「退職」が最多

調査では「年齢」や「ひきこもりになったきっかけ」などを尋ねていて、年齢の内訳は、「40代」が38%、「50代」が36%、「60代」が26%。

ひきこもりになった年齢は、「25~29歳」が最多で14.9%。
40歳を区切りとしてみると、39歳以下の人は4割程度で、40歳以上が6割だった。

ひきこもり期間は「3~5年」が21%で最多。
7年以上となる人が合計で46.7%に上り、このうち「30年以上」も6%いて、ひきこもりが長期化していることが分かる。

性別は「男性」76.6%、「女性」23.4%で、男性が4分の3を占めている。

ひきこもりになったきっかけは「退職」が最多で36.2%。「人間関係」(21.3%)、「病気」(21.3%)、「職場になじめなかった」(19.1%)が続いた。

非常に興味深い調査だが、そもそもなぜ今回初めて、中高年を対象にした、ひきこもりの調査を行ったのか?
内閣府の担当者に話を聞いた。

ひきこもりの長期化を確認するために実施

――今回初めて、中高年を対象にした調査を行った理由は?

内閣府ではこれまで、2009年度と2015年度に15~39歳までの方を対象に、同様の手法でひきこもりの方の調査を実施してきました。

その調査の結果、7年以上の長期間にわたって、ひきこもり状態にある方の割合が2009年度の調査では16.9%だったのが、2015年度の調査では34.7%に増加しています。

このことから、ひきこもりの長期化の傾向が認められると考え、今回、40~64歳の方の調査を実施しました。


――中高年のひきこもりが約61万人。この背景として考えられることは?

今回の調査によって、ひきこもり状態になったきっかけとして様々なものが明らかになりました。

そのため、背景を一つ断定することは難しく、様々な原因があって、ひきこもりになったと考えられます。

家族会「人は、どの世代でも、どの世代からでもひきこもる」

それでは、「中高年ひきこもり61万人」という今回の結果を、ひきこもりを抱えた当事者はどのように受け止めているのか?
「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の伊藤正俊理事長に話を聞いた。


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――今回の推計値を、家族会としてどう受け止めた?

今回の内閣府調査で、初めて40歳代以上のひきこもり当事者が61万人という数値化が表されました。

ひきこもり当事者・家族を取り巻く状況について、「若者層の問題」ではなく「中高年の社会問題」という一石を投じた調査結果であったと受け止めております。

「ひきこもり=若者」という誤解や偏見を脱却し、「人は、どの世代でも、どの世代からでもひきこもる」という前提を、啓発していく必要があると受け止めております。

KHJ全国ひきこもり家族会連合会(以下「家族会」)でも、40歳代のひきこもり当事者について実態調査を行い、数多くいることはわかってはいたものの、「若年ひきこもり」を上回る数字が国のエビデンスとして初めて示されたことは、ひきこもりが全世代を通して、誰がいつなってもおかしくはない状態であることが顕在化したと思います。

――背景として考えられることは?

ひきこもり状態になったきっかけで最も多かったのは「退職したこと」です。

これについては、派遣切りやリストラ、人間関係など、何らかの理由で職場から離れた人が、社会復帰が困難となり、ひきこもる状態になっているということです。

この現実を見ても、昨今、職場環境や社会状況が劇的に変わってしまったことが考えられます。

第一次産業が減り、第三次産業の割合が非常に高いIT社会がもたらした社会状況は、コミュニケーションスキルを求められる職業が優先される社会と言えます。

また、個人商店などの自営業や、職人の技が、組織や企業などに接収され、就職先は集団に合わせることが前提となっています。
ひとりひとりの個人や特性が認められにくい職場環境の変化も要因となっているのではないかと思います。

さらに、幼少期や思春期に家庭や学校で正規職員・終身雇用の価値観を植え付けられながら、社会に出ると非常勤雇用すらままならないのが実際のところで、高度成長期の価値観との格差に疲弊してゆく実態もあります。

今の社会構造では、一度レールから外れてしまうと、なかなか元のレールに戻ることができない。
社会復帰や社会参画を希望しても、自分の望む機会・タイミングを尊重する選択肢がなく、画一的な就労支援しか用意されていない。

45%が「誰にも相談しない」という結果があり、この結果からも、このような画一的な支援があると思います。

実際、ひきこもりが長期化している要因や背景については、年齢や障害の有無と言った制度の狭間におかれ、支援対象からこぼれ落ちる人がいることが、家族会に多数、寄せられております。

就労を急かされ、働くことをゴール目標にされ、限られた時間の中で訓練を強いられる。そんな支援に傷つき、再度社会や他者と断絶していくような構造も見受けられます。


「若年ひきこもり」とは全く違った支援が必要

――こうした状況を受け、今、必要な対策は?

今回、明らかになった「中高年ひきこもり」に対しては、「若年ひきこもり」とは全く違った支援体制が求められます。

雇用されることが前提でつくられた従来の制度設計を見直し、福祉や教育も含め、人それぞれが生きていくために必要な仕組みづくりを皆で考えていくことが必要です。
多様な支援、多様な職場環境の「創造」です。

また、「誰にも相談しない」という方が4割いたにもかかわらず、「関係機関に相談したい」と回答した人も約半数に上っています。

この葛藤状況をどう捉え、中高年の当事者が、相談しやすい仕組みとは何なのかをとらえることが急務です。

中高年になればなるほど、相談への引け目や負い目、恥ずかしさがあると思われます。
特に行政への「相談」はハードルが高いという声もあります。

従来のひきこもり支援は、長く制度と制度の狭間におかれ、支援を求められてもどう対応したらよいか分からずに、自己責任を追及されて本人や家族の問題とされてきました。

中高年のひきこもり当事者の声、ニーズをくみ取って考えることが喫緊の課題です。

関係省庁を始め各自治体につきましては、障害の有無や年齢に左右されない相談機関や支援機関の見直し、当事者や経験者が緩やかに地域で集まることのできる居場所を全国につくることが必要です。 


――ひきこもりの期間が長期化すると社会復帰が難しくなる。これにはどんな対策が必要?

今後、中高年の「再チャレンジ」の仕組みを考えるとき、「本人が自分のこれまでの経験や得意なこと、強み」を活かせる「場づくり」や、ひきこもりなどのブランクが問題にならない価値観が担保される「場づくり」が必要になってくると思います。

「支援⇒被支援」という一方通行の関係ではなく、「共に支え合う関係」として、誰もが必要とされ、社会的役割を持ち、一緒にこの地域を支えていく。

「ひきこもり者」から、「地域の担い手」として、世代や分野を超えてつながっていく「地域共生型」の場づくりが、「再チャレンジできる仕組みづくり」に必要ではないかと考えます。


若者のひきこもりも問題だが、今回明らかになった中高年のひきこもりも根が深い。長期化を防ぎ、社会復帰するための支援策は現状ではミスマッチなのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。