アメリカで遺伝子組み換えサーモン養殖が解禁 スーパーに並ぶ日も近いが・・・

大手スーパーは反発の動き

カテゴリ:ワールド

  • 2倍の速さで成長する遺伝子組み換えサーモン
  • 安全性、自然界への影響を心配する声
  • 世界のサーモン需要をみたす養殖界の救世主になれるのか?

「アメリカ規制当局が遺伝子組み換えサーモンへの道を切り開いた。」

 3月8日のAP通信のある記事に目がとまった。FDA(アメリカ食品医薬品局)が遺伝子組み換えサーモンの輸入制限を解除したのだ。これまで遺伝子組み換えサーモンの販売表示のガイドラインが制定されてないとして輸入を制限してきたのだが、この解除により近い将来アメリカのスーパーで「遺伝子組み換え」というラベルのついたサーモンが鮮魚売り場にならぶ可能性がでてきた。遺伝子組み換えの大豆やとうもろこしは聞いたことがあったが、遺伝子組み換えの魚とは?「口に入れるものは人工のものよりも自然にあるものの方がいい」と育てられた私にとって「遺伝子組み換え」はとても気になる分野だ。

遺伝子組み換えサーモンとは?

3月7日、アメリカのバイオテクノロジー企業アクアバウンティー・テクノロジー (以下AT社) は会計報告書の中で、この会社の開発した遺伝子組み換えサーモンの切り身5トンを昨年カナダで販売したと発表した。

遺伝子組み換えサーモンの開発を説明した図。オーシャンパウト(左上)とキングサーモン(右上)の遺伝子が組み込まれたアクアドバンテージサーモン(下)香港食品安全センターHPより

アクアドバンテージサーモン(以下AAサーモン)と名付けられたこの遺伝子組み換えサーモンは、アトランティックサーモンにキングサーモン(別名:チノークサーモン)の遺伝子とオーシャンパウトとよばれるゲンゲ科の魚の遺伝子を組み込んで開発された魚だ。通常のアトランティックサーモンが市場出荷サイズに育つまで約30か月かかるのに対し、AAサーモンは半分ほどの期間で成長するという。

同時期に生まれたアクアドバンテージサーモン(後ろ)通常のアトランティックサーモン(手前)では成長に差がみられる アクアバウンティー・テクノロジー社HPより

アメリカとカナダでの販売状況

アメリカでは2015年にFDA が「 AAサーモンは 遺伝子組み換えではないサーモンと同じく食品として安全で、栄養価も通常の養殖サーモンとあまり変わらない」とし、AAサーモンの養殖、販売を承認した。しかし数か月後、FDAは突如、販売時の表示ラベルのガイドラインが制定されるまでAAサーモンの輸入を禁止した。昨年4月にインディアナ州の施設での養殖が許可されたが、人工授精が行われるカナダの施設から受精卵を輸入することが禁止されていた為、アメリカ国内で養殖することができなかった。今回、販売表示ラベルのガイドラインが制定されたことにより輸入制限が解除され、制度的にはアメリカ国内での養殖が可能になったのだ。

AT社のCEOシルビア・ウルフ氏は3月8日に発表された声明の中で「インディアナ州で養殖を始めるため、カナダからAAサーモンの卵を輸入する手続きをすぐに始めるつもりだ」とアメリカ国内での養殖への意欲を示した。

カナダ保健省は2016年に「安全で、栄養価の面でも違いはない」として販売を許可した。さらに、審査結果でも健康を害する可能性は見つからず、消費者に警告をするための特別な表示をする必要はないと判断した。これによりカナダ国内ではAAサーモンが「遺伝子組み換え」の表示なく販売されることになった。

実際の販売状況を調べたカナダの遺伝子組み換え食品を監視する団体によると、AT社のパナマ施設で養殖されたAAサーモンは2017年6月にケベック州に出荷され、ほとんどがレストランなどの飲食店へ売られたが、一部スーパーで販売されたものもあったという。

安全性を問う声

遺伝子組み換えサーモンの販売が始まる中、専門家の中には、FDAの審査は不十分で、健康面に害がないとする判断を疑問視する声もあがっている。

アメリカの消費者団体「コンシューマーズ・ユニオン」のマイケル・ハンセン博士は「FDAの審査は不十分で、追加調査を行わずに販売許可を出すべきではなかった」と批判している。
また2016年には環境保護団体、漁業組合らが万が一自然界に逃げた場合に自然環境に及ぼす影響を審査しきれていなかったとし、AT社に販売許可を出したFDAを相手取り訴訟を起こしている。 AAサーモンには養殖施設外で繁殖した場合の拡散を防ぐために生殖機能のコントロールを行っている。まずメスにオスホルモンを混ぜたエサを与て「偽オス」をつくり、その「偽オス」から精子を採取し、人工授精させることにより必ずメスが生まれるように操作する。そしてこの受精卵に圧力をかけ刺激を与えることにより、生殖機能を持たないメスを誕生させるのだ。 さらにAAサーモンは陸上施設で養殖されるため、自然界に逃げ出す可能性もほぼないとしている。

環境保護団体「フレンド・オブ・ジ・アース」によると、ウォルマート、ホールフーズなどの大手スーパーなど80社は遺伝子組み換えサーモンは販売しないと発表している。また環境保護団体、水産業者らは「遺伝子組み換え」の食品表示なく販売されているのは透明性に欠け、消費者からの信頼を失う恐れだけでなく、海外マーケットへの悪影響が考えられるとし、カナダ政府に対し販売時の遺伝子組み換え動物の表示ガイドラインの制定を求めている。

アメリカで売られているサーモンの缶詰の中には第三者機関による非遺伝子組み替え食品の認定マーク「NON GMO Project Verified」(右上)が付いているものもある

今後どうなる?

国連の報告書では世界人口は2050年までに98億人に達すると予測されている。 また2026年には全世界の魚の消費量は1億7700万トンに達し、2015年から2017年の基準期間数値1億5300万トンに比べ2400万トンの増加となり、今後魚の需要が増えるとみられる。

アメリカ海洋大気庁によると生息地の環境破壊や乱獲が原因で、野生のアトランティックサーモンの数は18世紀後半から減り始め、現在では絶滅危惧種に指定されるまでになっている。 
遺伝子組み換えサーモンが自然環境に及ぼす影響や安全性を問う声が根強い中、養殖期間が短く、台風や赤潮など自然界からの影響を受けにくい遺伝子組み換えサーモンは、サーモン需要増加の救世主として、アメリカそして世界で受け入れられる日は 来るのだろうか? 注目していきたい。

【執筆:FNNニューヨーク支局 柳川晶子】

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