新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い普及した“テレワーク(リモートワーク)”の実施率が、2020年5月の調査開始以来、過去最低となったことが明らかになった。

公益財団法人日本生産性本部が7月4日、5日に日本の企業・団体に雇用されている20歳以上の1100人を対象にインターネットで調査したもの。テレワークの実施率が16.2%と、3カ月前となる4月の調査に比べ3.8ポイント低く、過去最低となったのだ。

テレワークの実施率(画像提供:日本生産性本部)
テレワークの実施率(画像提供:日本生産性本部)
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年代別では20代が12.0%(前回26.8%)、30代が15.5%(同24.3%)と、若い世代の減少が目立った。一方で、40代以上の実施率は17.4%(同17.0%)で前回と大きな変化は見られなかった。

年代別・テレワークの実施率(画像提供:日本生産性本部)
年代別・テレワークの実施率(画像提供:日本生産性本部)

また、テレワーカーで週のうち3日以上出勤する人は、前回の52.7%から50.5%とわずかに減少。自宅での勤務の満足度については、「満足している」「どちらかと言えば満足している」の合計は、前回4月調査が過去最多の84.4%を記録したものの、今回は75.0%となった。

「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか?」という質問については、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」の合計は73.0%だった。

コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか(画像提供:日本生産性本部)
コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか(画像提供:日本生産性本部)

7月初旬の調査ではこのようにテレワークの実施率が下がっていたわけだが、現在は感染が急拡大して第7波の真っただ中にある。この実施率は増えていくのだろうか?

コロナ前の働き方に回帰するのではないかという見通しも

今後のテレワーク実施率がどうなっていくのか、日本生産性本部生産性総合研究センターの長田亮主任研究員に詳しく話を聞いてみた。


――今回の調査の「テレワーク実施率が過去最低」という結果をどう思う?

調査時(7月4、5日)は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの行動制限がすべて解除されており、感染者数が急拡大する第7波の直前だったため、全体として感染状況が落ち着くとオフィスに回帰する傾向にあることを確認しました。また、コロナ禍収束後にテレワークが普及するという回答も減少しており、雇用者も、コロナ前の働き方や生活様式に回帰するのではないかという見通しを強めていると感じられます。


――テレワーク実施率が全体的に下がっている理由は?

やはり、すべての行動制限が解除された影響が大きいと思います。そもそも、テレワークの実施に関する方針は経営者が決めることであり、雇用者は定められた方針・制度の中でどの程度活用するかを考えます。基本的に、雇用者は決められたルールを超えてテレワークを活用することはできません。

現時点では、政府から新たな行動制限はしないとの方針が出されており、経営者も積極的にテレワークを指示する理由があまりない状態です。多くの企業は、物理的なオフィスをできる限り有効活用したいはずですし、行動制限がないのであれば、従業員に出社を指示するのは自然な流れです。今回の過去最低という結果は、そうした事情を反映しているのではないかと考えています。


――特に20〜30代の実施率が下がっている理由は?

大きく二つの理由が考えられます。

一つは、会社の方針が変わり、20代・30代にテレワークの実施が認められなくなった可能性です。これまで全年代でテレワークを認めていた企業の方針が変更になり、積極的に活用していた20代・30代の実施率が大きく低下したと考えられます。

もう一つは、職位や役割等級によって実施率の差が生じた可能性です。20代・30代が多く含まれる職務等級の人たちは、会社から積極的な出社を奨励もしくは指示されてテレワーク実施率が低下した一方、40代以上が多くを占める職務等級の人たちは、会社から「ある程度自立性があって自分をコントロールできる」と判断され、そのままテレワークを実施していいという意思決定がなされている可能性があります。

※イメージ
※イメージ

――「上司が出社するから若手も行かなければらない」といったことも考えられる?

この調査結果からはそこまでの推測は難しいです。一般的に上司の年齢層の方が高いと考えると、40代以上のテレワーク実施率は大きく変わっていないため、「上司が出社するから」という理由が今回に限って影響するとはあまり思えません。どちらかと言えば、前述の通り、制度の変更によって出社の機会が増えたのではないかと思います。

政府が行動制限をしないと経営者も意思決定しづらい

――全年代でコロナに「不安を感じる」割合が減少したというデータもある。これもテレワーク実施率の低下に関係している?

無関係ではないと思います。あわせて調査した「不要・不急の外出」についても「できるだけ避けるようにしている」人の割合が徐々に減少しており、外出への警戒感の希薄化が見られます。
ただ、テレワークの実施については、新型コロナ感染への不安や外出に対する警戒感よりも、会社の方針によって決められるところが大きいと考えられます。

自身がコロナに感染する不安(画像提供:日本生産性本部)
自身がコロナに感染する不安(画像提供:日本生産性本部)
不要・不急の外出(画像提供:日本生産性本部)
不要・不急の外出(画像提供:日本生産性本部)

――現在、コロナの感染者が増えている状況だが、今後テレワーク実施率は増えていく?

現時点では、政府が新たな行動制限をしないと明言しており、経営者としてテレワークを推進する意思決定はしづらいと思われます。政府の意思決定の背景には、重症者数の推移や医療の逼迫度があると思われるため、今後重症者が増え、医療が逼迫すると、政府が行動制限を呼びかけ、それに伴い企業も従業員にテレワークを呼びかける可能性はあります。


――テレワークを実施することで、生産性は上がった?下がった?

テレワークの実施によって、生産性が上がった、または下がったと一概に答えることはできません。企業のテレワークに対する姿勢や取り組みによっても異なると思います。テレワークを、コロナ禍に対する緊急避難的な対策として取り入れた企業の場合、既存の業務プロセスを変えずに働き方だけが変わり、テレワーク用に最適化された業務プロセスになっていないため、どうしても生産性は低下する傾向にあります。

一方で、テレワークを新しい働き方として積極的に取り入れ、従来の業務で生じていた無駄や不合理を解決することで、生産性を高めている企業も見受けられます。今回の調査でも、生産性に関連する設問として、テレワークをしている雇用者の6割程度が「自宅での勤務で効率が上がった」と回答しています。

自宅での勤務で効率が上がったか(画像提供:日本生産性本部)
自宅での勤務で効率が上がったか(画像提供:日本生産性本部)

調査では、テレワークをしている雇用者の約7割が「コロナ禍収束後もテレワークを行いたい」と回答しており、雇用者の希望と経営者の考えにギャップがあるようにも感じられます。もちろん業種や従業員規模によってテレワーク継続のハードルは大きく異なるとは思いますが、こういった雇用者の声を受け止め、コロナ禍に対する一時的な対策としてだけではなく、多様な働き方の選択肢の一つとして、今後もテレワークを活用してはどうかと考えます。



今回のテレワークの実施率の低下は、調査したのが第7波の直前で政府の行動制限が解除されていることが影響しているようだ。しかし現在、新型コロナウイルスの感染者の数は増加しており、7月28日には東京都の新規感染者が初めて4万人を超え、状況が変わってきている。
テレワークが緊急避難的なものなのか、新たな働き方なのか、経営者の考え方など今後も注目だ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。