「ロシアのウクライナ侵略は、他人事ではなく、“侵略”という行為に対して世界がどこまで本気で対処できるのか試されている」(政府関係者)

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって5カ月。戦火を避けるため、ウクライナからの避難民は自らの安全を求めてポーランドやルーマニア、ハンガリーなどの周辺諸国に避難を続けている。日本も受け入れ体制を強化して、積極的に避難民の支援に尽力している。

これまでに1600人超の避難民が来日

日本国内へのウクライナ避難民受け入れは今年の3月から始まり、同月18日に松野官房長官が受け入れ拡大に向けて「日本への避難を希望するウクライナの方々について本日以降いつでも受け入れ、必要な支援を行っていくことを確認した」と表明。その後、政府の借り上げた隣国ポーランドからの直行便の座席を利用するなどして受け入れが進み、7月24日までに1614人のウクライナからの避難民を受け入れている。

政府専用機で、羽田空港に到着したウクライナからの避難民(今年4月)
政府専用機で、羽田空港に到着したウクライナからの避難民(今年4月)
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政府は避難民が入国を希望した場合に手続きを素早く行えるよう、まずは90日間の在留資格の「短期滞在」で入国を認め、その後も日本に滞在した場合は、就労が1年間可能になる在留資格「特定活動」に変更することができる措置をとった。

政府関係者は「特定活動では国民健康保険に加入することもでき、医療費等の避難民の負担を大幅に減らすことができる」と強調するが、別の政府関係者は「入国後に病気などを心配する避難民は多い。実費負担についても状況によっては国が可能な範囲で負担するべきだ」と更なる支援の必要性を指摘する。

16万円の一時金も 避難民への生活支援は

親族や知人のいない避難民が日本に到着してまず困るのは、当面の生活費や住居だ。

政府は入国後に見ず知らずの土地で何をしたら良いか分からない避難民に対し、一時滞在先としてホテルを提供している。そして、ホテルに滞在中の避難民に対して、12歳以上に一日1000円、11歳までは一日500円を支給し、食事は国が提供。自治体などの受け入れ先が決まった避難民は12歳以上で一日2400円、11歳までは一日1200円を支給する。

さらに一時滞在施設を出る人を対象に生活していく上で必要になる物資の購入資金として16歳以上で16万円、15歳までに8万円を一時金として支給することとしている。

ウクライナからの避難民に対する訪問調査の様子
ウクライナからの避難民に対する訪問調査の様子

受け入れ先が決まった後のフォロー体制について、政府関係者は「入国の際だけケアするのではなく、どのような制度が整っていれば、避難民の人が生活しやすくなるのか考えることが重要だ」「入国後も定期的にコミュニケーションをとれる場を作って、困っていることなどを把握していきたい」と話す。現在、47全ての都道府県の出張所に、全国で合わせて100名以上の支援担当員を配置している。そして支援担当員は、受け入れが決まった避難民への訪問調査を行い、日本に暮らしてみて困っていることなどを聞き取り、改善策を提案するなどしている。

そのほか政府は、自治体や企業などが避難民に対して行っている食料や洋服などの物資の支援の申し出と避難民とのマッチングをするための専用サイトである「ウクライナ避難民支援サイト」を開設。政府関係者は「支援を申し出ているがどうやって避難民と連絡を取ったら良いか分からないという自治体や企業等とのマッチングとして活用できれば」と強調する。

一日4時間・週5回の日本語教育も

「ロシアによるウクライナ侵略問題は長期化する可能性がある。その場合に備えて、日本で言語の壁で不自由される方を少しでも減らしたい」(政府関係者)との指摘があるように、避難民の長期滞在に向けては「日本語教育」も重要な支援の一つとなる。

一時滞在先のホテルに滞在する避難民について、政府は希望者を募り、1日4時間の日本語の対面指導を週5日、計2週間実施することにしている。そして受け入れ先が決まった避難民に対しては、全国の都道府県にある日本語教室を紹介。サービスは無償で提供され、その地域に日本語教室が存在しない場合は、政府が提供するオンライン日本語教育プログラムに参加することもできる。さらに独学で日本語を勉強したい避難民に向けては、生活場面の動画を中心にウクライナ語の字幕をつけるオンライン日本語教材も提供している。

イリーナさんは、一時滞在先のホテルから茨城県に移住。アメリカ人女性とルームシェアしている。
イリーナさんは、一時滞在先のホテルから茨城県に移住。アメリカ人女性とルームシェアしている。

神戸市のNPO法人「神戸定住外国人支援センター」では、10代から50代の男女計10名の避難民に対して、毎週水曜日と木曜日の午後1時から3時までの2時間、日本語教室を無償で開催している。講師1名とボランティア5名程度で運営される日本語教室の関係者は「日本語になじみのない避難民が多いため、基本的な挨拶などからスタートしている」「ボランティアでウクライナ語のサポートをしてくれる方もいる。分からないことがあればウクライナ語で説明を聞くこともできるので、皆さんが参加しやすい環境を目指したい」と話す。

またこの教室では、企業や団体と連絡をとり「トイレットペーパーやアルコール、マスク、レトルトの食品、お菓子やお米などの消耗品や支援物資などが届く仕組みを作っている」「単に日本語を勉強するのではなく、帰りに支援物資を持ち帰ったり、ウクライナ避難民同士の情報共有などができる居場所として機能すれば良い」と話す。

避難民受け入れで岸田政権の手腕は

政府は難民条約での保護の対象外にあたる一部の避難民を「補完的保護対象者」として認定し保護できる仕組みを検討している。「難民条約」では人種や宗教や国籍さらに政治的な立場を理由に迫害を受ける恐れがある人などを対象としている。

一方、ウクライナでは政治的な立場や人種に関わらず攻撃を受けているため、国外に避難するものの、「難民」とは認定されず、漏れてしまう。

そのため政府が検討する仕組みでは、ウクライナからの避難民を「難民」ではなく「補完的保護対象者」とすることで、「定住資格」を与えるほか、国民健康保険にも加入できるようにするなど、手厚い保護が受けられるようにする。

”避難民受け入れ”で岸田政権の手腕は・・・
”避難民受け入れ”で岸田政権の手腕は・・・

岸田首相は4月16日に行われた車座の対話で紛争地からの避難民の受け入れについて「条約上、難民にあたらないが、人道的な見地から受け入れなければならない方々に対しては、難民に準ずる形で受け入れようということで、法務省が仕組みについて検討を進めている」と説明し、法整備に意欲を示している。

ロシアによる侵攻から5ヶ月。戦争や紛争で海外から避難する外国人の受け入れに一石を投じることができるのか、岸田首相の手腕が問われている。

(フジテレビ政治部・宮司隆史)

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