天皇皇后両陛下は4月23日、熊本市で開催された「第4回 アジア・太平洋 水サミット」の開会式に、お住まいの御所からオンラインで出席されました。

日本で2度目の開催となる「アジア・太平洋 水サミット」

このサミットには岸田総理をはじめ、アジア・太平洋地域30か国の首脳らが直接対面ならびにオンラインなどで参加。水資源の確保や水害対策など、水をめぐる幅広い問題について、2日間にわたり議論し、メインの首脳級会合で水問題の解決へ連携を強化し、持続可能で災害に強い「質の高い社会」の実現を目指すとした「熊本宣言」が採択されました。

平成19年(2007年)に大分県で開かれた第1回大会以来、15年ぶりに出席された陛下。開会式で、英語でお言葉を述べられました。

〈天皇陛下のお言葉(英語)〉
水は、地球上のあらゆる生命の源であり、多くの恵みを与えてくれる一方で、時には洪水などで災害をもたらす脅威となります。また、水問題は、貧困、教育、ジェンダーなど、持続可能な開発目標(SDGs)の他の課題とも密接に関連した問題として捉えられます。

熊本市・熊本城ホールで開催された「第4回 アジア・太平洋 水サミット」
熊本市・熊本城ホールで開催された「第4回 アジア・太平洋 水サミット」
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天皇陛下記念講演「人の心と水―信仰の中の水に触れる―」

この後、陛下は「人の心と水 ―信仰の中の水に触れる―」と題して日本語でご講演。

〈天皇陛下のご講演から〉
世界の文明、文化を眺めると、水は人々の生活を支えるだけでなく、人と自然の関係や、人々の自然観、世界観にも大きな影響を及ぼしてきました。

リアルタイムで行われた陛下の記念講演(主催者提供)
リアルタイムで行われた陛下の記念講演(主催者提供)

陛下はスライドを使い、アジア太平洋地域における水と信仰の関わりを水の神、蛇と龍を例に紹介されました。その一例として挙げられたのはヒンドゥー教の蛇の神・ナーガです。

陛下が講演の際に実際に使用されたスライドから(主催者提供)
陛下が講演の際に実際に使用されたスライドから(主催者提供)

スライドで示されたのは、平成24年(2012年)6月、カンボジアご訪問の際にアンコールワットで撮影された写真です。講演ではご自身撮影の写真を随所に使いながら話を進められました。
陛下は人々の水への思い、感謝や畏れは、蛇や龍の形で、アジア太平洋各地域をつなぐ文化の一部になったと述べられました。

〈天皇陛下のご講演から〉
水は人々の生活を支えながら、人々の心に安らぎを与え、地域と地域を超えた共感と連帯をもたらします。この会議を通じて、出席される全ての皆さんが人と水との関わりを様々な角度から話し合い、水をめぐる課題とその解決にむけた具体的な方向性を見出し、水に関する国際社会共通の目標達成に向けた決意を新たに行動していかれることを期待します。

平成24年6月 アンコールワットを撮影される陛下 今回の講演で、陛下が自ら撮影した6枚の写真を含む、31枚のスライドが使われた
平成24年6月 アンコールワットを撮影される陛下 今回の講演で、陛下が自ら撮影した6枚の写真を含む、31枚のスライドが使われた

陛下が水問題の研究に取り組まれるようになった経緯

陛下はこれまで、水に関する問題について長年にわたり研究を重ねてこられました。
学習院大学文学部史学科で日本史を専攻し「水上交通」を研究された陛下。卒業論文は「中世瀬戸内海水運の一考察」と題し、瀬戸内海の海上交通史をまとめられました。イギリス・オックスフォード大学に留学した際には、テムズ川の交通史を研究されています。

昭和57年(1982年)3月 卒業旅行を兼ね、糸山展望台から瀬戸内海をご視察(愛媛・今治市)
昭和57年(1982年)3月 卒業旅行を兼ね、糸山展望台から瀬戸内海をご視察(愛媛・今治市)

平成15年(2003年)3月、国際会議「第3回 世界水フォーラム」に皇后さまと共にご出席。この会議で名誉総裁を務めた陛下は、以来、第8回大会まで毎回講演を行ったりビデオメッセージを寄せるなど力を注いでこられました。

平成19年(2007年)12月に開催された「第1回 アジア・太平洋 水サミット」。陛下は、水問題に本格的に取り組むようになったきっかけについて、1枚の写真を紹介し、明かされました。

〈天皇陛下の講演から〉
これは、私が1987年にネパールのポカラを訪れた際、サランコットの丘付近で撮影したものです。

平成19年12月「第1回 アジア・太平洋水サミット」(大分・別府市)
平成19年12月「第1回 アジア・太平洋水サミット」(大分・別府市)

ネパール訪問の際、山間部でわずかしか出ない水を汲むため待ち続ける人々をご覧になり、その様子をカメラに収められた陛下。「水くみをするのにいったいどのくらいの時間が掛かるのだろうか。女性や子どもが多いな。本当に大変だな。」と素朴な感想を抱いたことが、水問題に関心を抱くきっかけだと振り返られました。

〈天皇陛下の講演から〉
私は、水が、従来自分が研究してきた水運だけでなく、水供給や洪水対策、更には環境、衛生、教育など様々な面で人間の社会や生活と密接につながっているのだという認識を持ち、関心を深めていったのです。

国連の事務総長から依頼を受け、平成19年(2007年)から平成27年(2015年)まで「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁を務め、平成25年(2013年)にはアメリカ・ニューヨークの国連本部で、日本の皇族として初めて講演を行われました。

平成25年3月「第1回 国連 水と災害に関する特別会合」(アメリカ・ニューヨーク)
平成25年3月「第1回 国連 水と災害に関する特別会合」(アメリカ・ニューヨーク)

日本や海外の史跡に実際に足を運び、人と水との関わりについて、歴史的な観点からも研究を重ねられている陛下。即位後も、皇后さまと共に国際会議やシンポジウムに出席し、講演やおことばでの発信を続けるなど、ライフワークとして取り組まれています。

平成28年(2016年)10月 戦国時代に作られた、三方に水を分配する治水施設「三分一湧水」をご覧になる陛下(山梨・北杜市)
平成28年(2016年)10月 戦国時代に作られた、三方に水を分配する治水施設「三分一湧水」をご覧になる陛下(山梨・北杜市)

水サミットに携わった高校生らとご懇談

開会式終了後、両陛下は、今回の水サミットに携わった6人の高校生らとご懇談。
陛下は、「一人一人が問題意識を持って、水の問題に取り組むことは大切だと思います。」と声を掛けられ、皇后さまは、熊本の阿蘇地域に住む生徒に「地震の時は大変でしたよね。」などと気遣われていました。

高校生と懇談し「若い方たちの力を感じてうれしく思いました。」と感想を述べられた両陛下。水を通じた全世界の人々の幸福を願っていらっしゃいました。

水サミットにユース代表として参加した熊本・長崎・沖縄の高校生とオンラインで懇談される両陛下
水サミットにユース代表として参加した熊本・長崎・沖縄の高校生とオンラインで懇談される両陛下

(皇室ご一家 5月8日放送)