五輪直前の北京に「オミクロン」侵入

ついに―。1月15日、北京市海淀区の女性がオミクロン株に感染していたことが判明した。通勤など人の行き来も多い隣の天津市ではすでにオミクロンの市中感染が広がっていたため、北京での確認も時間の問題とみられていたが、五輪開幕まで1カ月を切ったタイミングで、改めて首都に緊張が走った。

ところが「北京オミクロン第一号」はその後意外な展開を見せる。

犯人は『カナダからの手紙』?

「海外からの物品経由でウイルスに感染した可能性を排除しない」。17日に北京市が発表したのは驚きの見解だった。女性は14日間北京の外に出ておらず、感染していたウイルスの遺伝子変異を調べたところ、天津など中国国内で確認されているものとは異なることがわかった。遺伝子の変異は、北米やシンガポールで確認されたウイルスに近く、女性が受け取っていたカナダからの小包から採取されたサンプルに陽性反応が出たことから、オミクロンはこの小包に付着して北京に入り、感染につながった可能性があるのだという。

「犯人」として名指しされた形のカナダ。カナダメディアによるとデュクロ保健相は会見で、「異常な考え方だ。私たちが国際的にも国内的にもやってきたことに一致しない」と反発したが、中国国内ではすでに「国際郵便感染説」が確定したかのようなムードだ。

当局は海外からの商品の購入を控えるよう呼びかけ、中国国営テレビでは、国際郵便を受け取るときには手袋をし、消毒をするようにという専門家の解説が放送された。FNN北京支局に届いた国際郵便にも、外側は消毒済みであり、開封時には中身を消毒するよう勧めるシールが貼られていた。

北京支局に届いた国際郵便には感染リスクを強調するシールが
北京支局に届いた国際郵便には感染リスクを強調するシールが
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なりふりかまわず“ゼロコロナ”死守

当局にとって不都合な国内での感染拡大を外国のせいにしているのでは―?そんな疑念がわくかもしれないが、中国で取材・生活している立場からすると、それは少し違うのではないかと感じる。

中国の「ゼロコロナ」政策、厳しい水際対策は日本とはケタ違いで、ひとたび感染者が見つかれば「濃厚接触者の濃厚接触者」や「その都市に滞在歴がある人」まで隔離し、人口1000万人規模の都市のロックダウンも躊躇しない。また、カナダからの小包が「陽性」とされたように、モノや環境から取ったサンプルまでも日々PCR検査にかけている。

中国以外の国からすれば無視していい、無視した方がよいと思えるほどの極めて特殊な感染例を必死になって究明しようとし、あくまで大真面目に国際郵便にリスクがあると結論づけているのではないか。

天津市の全市民を対象にしたPCR検査
天津市の全市民を対象にしたPCR検査

冷凍食品・ハムスターにも“感染リスク”?

冷凍食品売り場のQRコード 流通ルートを確認できる
冷凍食品売り場のQRコード 流通ルートを確認できる

突拍子もなく見える感染ルートが中国で指摘されるのはこれが初めてではない。2020年秋には、ウイルスが低温に強いという研究結果とともに「輸入冷凍食品」由来の感染がさかんに指摘された。店頭のQRコードで流通ルートを確認できる専用のシステムが作られるなど、輸入冷凍食品はすでにリスクのある商品としての認識が定着している。

また本土同様のゼロコロナ政策をとる香港でも1月18日、輸入されたハムスターからペットショップ店員の女性への感染が起こった可能性があると発表。予防的措置としつつ2000匹のハムスターを殺処分する方針が示されたばかりだ。

ハムスターからの感染が指摘された香港のペットショップ
ハムスターからの感染が指摘された香港のペットショップ

“世界最大リスク”抱える中国

アメリカの調査会社ユーラシア・グループは2022年の世界最大のリスクとして「中国のゼロコロナ政策の失敗」を挙げ、「より厳しいロックダウンが必要となり、サプライチェーンの混乱が続くおそれがある」などと指摘している。北京五輪、そして秋の共産党大会に向けてゼロコロナ路線の変更は難しく、習近平指導部は感染力の強いオミクロン株を相手にますます厳しい戦いを迫られるだろう。薄氷のゼロコロナ維持のための徹底した対策のなかで、今後もしばらく驚きの感染ルートの“発見”が続くかもしれない。

【執筆:FNN北京支局 岩佐雄人】

岩佐 雄人
岩佐 雄人

FNN北京支局特派員。東海テレビ報道部で行政担当(名古屋市・愛知県)、経済担当(トヨタ自動車など)、岐阜支局駐在。2019年8月~現職。