日本学術会議をめぐる議論の第2弾として、今回の放送では先週と同じキーマンを迎えた。大きな論点は、学術会議がこれまで抑制してきたとも見える軍事研究。日本の安全保障環境が厳しさを増し、米中対立という新しい要素も出てくる中で、日本の科学研究が向かうべき道は。学術会議のあり方を掘り下げ、徹底討論を行った。

所信表明で触れないのは”逃げ”か”当然”か

大西隆 元日本学術会議会長 東京大学名誉教授
大西隆 元日本学術会議会長 東京大学名誉教授
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竹内友佳キャスター:
日本学術会議をめぐる問題は、臨時国会で与野党攻防の大きな焦点。しかし菅総理の所信表明演説では言及なし。この姿勢については。

大西隆 元日本学術会議会長 東京大学名誉教授:
世論調査では国民は納得しておらず、非常に残念。同時に、学術会議から逃げることが所信表明全体を歪めてしまった。総理の言うデジタル化や温室効果ガスをゼロにという政策は、研究・開発なしに実現できない。

竹内友佳キャスター:
今回任命を拒否された岡田さん。

岡田正則 早稲田大学大学院法務研究科教授:
肩透かしで大変残念。演説で触れられた脱炭素社会化、デジタル化、不妊治療などには学術会議からの提言があり、総理にはきちんと学んで政策化していただきたい。

猪口邦子 自民党参議院議員:
2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると具体的な数値目標を挙げた点が大きなポイント。

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏:
総理の姿勢は当然。野党が文句をつけたいならば、各委員会でこれから議論になっていくのでは。

選考制度からみて、会員に思想的な同質性はあるのか

竹内友佳キャスター:
日本学術会議は終戦4年後の1949年に設立された総理所轄の機関で、科学者が戦争に協力したことを強く反省し、日本の平和的復興などに貢献する旨の決意を表明しています。大西さん、この理念が果たしてきた役割は。

大西隆 元日本学術会議会長:
戦後日本の平和的復興は、歴史的にはもう成し遂げられた。次に人類社会の福祉への貢献や、世界の学会と提携して学術の進歩に寄与するという使命が、職務として具体化して書かれている。
日本学術会議は政策を議論する場ではない。科学を基礎にものを考えることに存在意義があり、「学者の国会」と言われるが政党とは違う

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏:
日本学術会議のできた昭和24年には、多くの学者も含む20万人の公職追放がGHQの支配下で行われた。「敗戦利得者」という敗戦によって利益を得た人を指す言葉があるが、日本学術会議にはその集団という色もあった。政治的に非常に偏った人たち。民主国家にふさわしくないと、元号廃止についての申し入れまで行っている。

岡田正則 早稲田大学大学院法務研究科教授:
学術会議はそもそも国会で作られた。また、昭和25年に共産主義関係者を追放するレッドパージになり、直後に追放された人たちが復職している。すると学術会議も戻ってきた人たちが占領し、レッドパージではじかれた人が出ていくとなりませんか。

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏
作家・ジャーナリスト 門田隆将氏

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏:
日本の共産主義化を防ぐため、GHQが昭和25年からレッドパージに入った。しかし敗戦利得を得た人たちが任命を繰り返してこれを維持してきているのが、日本学術会議という組織。そこに今回の問題の本質がある。

猪口邦子 自民党参議院議員:
戦後当時の学術は後回しにと考えても不思議ではない状況の中、学術の再構築が必要と思った人がいた。学術を大事にという流れが、学術会議の起源の少なくとも一部。

大西隆 元日本学術会議会長:
学術会議法は2度改正されている。1983年には選挙から推薦制に。それから2004年には現会員が次の会員を選ぶ現在の方法に。メンバー構成は大きく変わった。

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏:
選考の形式は変わったとしても、同質集団の再生産が行われている。まったく違う考えの人間を連れてくるということはない。

猪口邦子 自民党参議院議員:
私は会員だったが、運営は精密なプロセスでフェアに行われ、思想的な同質性はなかった。議論が良い共同作業となり、思想のアンバランスさはほとんどないと実感している。

2017年に「軍事的安全保障研究に関する声明」

竹内友佳キャスター:
日本学術会議のあり方を考える上で注目されるのが、2017年に日本学術会議が出した声明。戦争・軍事目的の科学研究を行わないという過去2度の声明を継承し、各研究機関は審査制度やガイドラインなどを設定するという内容。会長時代に50年ぶりのこの声明を出された理由は。

大西隆 元日本学術会議会長:
当時、防衛装備庁が安全保障技術研究推進制度という新しい制度を設けた。当初は3億円、現在も100億円規模。研究者の取るべき態度について議論があり、1年弱をかけて声明をまとめた。

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏:
研究資金の出所等に「慎重な判断」を求めるとして、その研究推進制度をターゲットとした声明。しかし現在、北朝鮮が弾道ミサイルの実験を行っている。自衛の能力のための研究が必要。国民の命を守るための防衛省のこの制度がなぜいけないのか。

岡田正則 早稲田大学大学院法務研究科教授:
こうした自衛のための能力に技術を動員しようというのは時代遅れ。

猪口邦子 自民党参議院議員
猪口邦子 自民党参議院議員

猪口邦子 自民党参議院議員:
現在の多くの先端技術はデュアルユース、軍事・民生どちらにも使われ得る技術。新たな安全保障のテーマについての研究が遅れれば、軍縮のための国際法制定に貢献できなくなる。

大西隆 元日本学術会議会長:
例えば学術会議では細菌の問題について連綿と研究をしている。シンポジウムも開き、軍事的な転用の危険性と対応の議論について公表もしている。防衛省側の方と学術会議のメンバーが一緒に議論している。防衛装備庁に対して学術会議は良し悪しを言わず、非常に警戒的な論調だが、研究機関に審査する制度を設けるよう求めている

軍事技術と民生技術の線引きは可能なのか

竹内友佳キャスター(左)、反町理キャスター(中)、大西隆 元日本学術会議会長(右)
竹内友佳キャスター(左)、反町理キャスター(中)、大西隆 元日本学術会議会長(右)

大西隆 元日本学術会議会長:
私が学長だった豊橋技術科学大学では、防毒マスクの研究というテーマで、民生的にも転用できる幅を持つものとして防衛省の制度の研究費を認めた。2年目が終わったときに先ほど言った2017年の声明ができ、これに対応して10項目のチェックポイントによる学内ルールを定めた。

反町理キャスター:
敵基地攻撃論など、先制攻撃もあり得るのではという現代の議論。2017年の声明時点の時代背景からすでにずれてはいないか。

大西隆 元日本学術会議会長:
今その議論がされており、いずれ国会で線引きがされると思う。国会議員のシビリアンコントロールによる歯止め。

岡田正則 早稲田大学大学院法務研究科教授
岡田正則 早稲田大学大学院法務研究科教授

岡田正則 早稲田大学大学院法務研究科教授:
防衛装備庁の進める研究は防衛装備庁の人が来て誘導し、兵器製造に結びつく仕組み。そして国際共同研究や留学生を入れた研究ができなくなる。現代の先端科学技術の研究ではあり得ない。大学の研究や教育を破壊するもの。

猪口邦子 自民党参議院議員:
ルールの厳格な適用を、どこまでも科学研究に当てはめることは難しい。重要なのは個々の研究者の良心。

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏:
民生用の技術と軍事用の技術の線引きはできない。

大西隆 元日本学術会議会長:
豊橋技術科学大学では条件を設定した。研究成果がすべて論文や特許として公開され、防衛秘密を使ったり防衛秘密を生み出さないこと。留学生が研究に参加できること。防衛装備庁の人が研究誘導しないこと。防衛装備庁が受け入れ、募集要項上に載せた。

中国の軍事研究に寄与している懸念は?

竹内友佳キャスター:
日本学術会議は、中国の民間研究機関である中国科学技術協会と協力の覚書を締結しています。この協会は中国政府直属の学術機関である中国工程院と戦略的に提携。日本学術会議が結果として中国の軍事研究に寄与している懸念はないでしょうか。

大西隆 元日本学術会議会長:
こういった科学アカデミー同士の付き合いは善隣友好関係。中国の軍事技術の向上には関わっていません。

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏:
中国は軍民融合の軍事大国。経産省による大量破壊兵器の開発等の懸念が払拭されない外国諸団体のリストを見ると、中国の複数の大学が入っており、ミサイル研究などを行っている。そこに日本の研究者が行って彼らを指導しているというのが実態

大西隆 元日本学術会議会長 東京大学名誉教授:
仮にそれが事実だとしても、学術会議とは一切関係ありません。

作家・ジャーナリスト 門田隆将氏:
関係ないことはありません。それは違う。

大西隆 元日本学術会議会長 :
中国と日本は敵対関係にはない。日本人にとって中国で心配なことはたくさんあるが、しかし友好関係を結んでいるわけですから、科学者の交流は一定の範囲であってもいいと。しかし実際にはこの協定に基づいた交流はゼロ。

猪口邦子 自民党参議院議員:
交流は必要だが、やはり知的財産の問題や経済安全保障について日本の大学はもっと防備をしなければならない。学術会議はその司令塔になればよいのでは。

BSフジLIVE「プライムニュース」10月26日放送

(前の週に同じメンバーによる討論記事はこちら:「学者の傲慢」か、「総理の闇討ち」か…キーマンが日本学術会議会員の任命拒否問題を激論