夫婦で営む農家民宿「遊雲の里」

原発事故から8年余り。今も農産物などへの風評が続く中、農家民宿を営みながら多くの人に福島の今を伝え続ける夫婦がいる。
福島県二本松市東和地区。菅野正寿さんと妻のまゆみさんが切り盛りするのは農家民宿「遊雲の里」。農業の傍ら、3年前から始めた。

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民宿を訪れたのは首都圏の大学生たち。手作業での田植えはほとんどが初めてだ。

菅野正寿さん:
土にどのくらい放射能があるのか、それを吸った稲とか茎とか藁とかにどのくらいあるのか調査してきました。2年目、3年目から99.9%放射能が出なくなったというのが福島の状況です。

本当は安全なのに 今も残る風評被害

震災の翌年、2012年から始まった米の全量全袋検査。市場に出回るすべての県産米は安全性が確認されているが農産物への風評は今も残っている。

農家民宿を訪れた学生:
福島の農産物についてちゃんとした知識が得られていないがために避けている人がいるというのは残念なことだと思う。安全だということを、今回学んだことを伝えていければいいなと思う。

農家民宿「遊雲の里」の料金1泊2食付き6500円。農業体験は1人1000円だ。田植えの後は菅野さんが作るもち米を使って餅つきを体験する。

福島の今を伝えたい

テーブルには畑で採れた野菜が並び、みんなで食卓を囲んだ。その時に菅野さんが語ったのは…

菅野正寿さん:
福島にはまだ故郷に帰れない人がいっぱいいる。自分に何ができるかを皆さんも考えて、これからの学生を過ごして、社会人になっても福島に向き合ってもらえればありがたい。

つきたての餅や新鮮な野菜を味わった大学生たち。学生たちは7月に沖縄で行われる発表会で海外の留学生などに福島の現状を伝えるということだ。

学生:
自分が知らないところで苦しんでいる人がいるんだなということを知った。誰かに同じように考えなおすきっかけを与えられるように自分ももっともっと学んでいきたいと感じた。

3年前に一念発起して農家民宿を始めた菅野さん夫婦。震災後県外からの支援者や大学の研究者などが滞在先の確保に困っていることを知り協力したのが農家民宿を始めたきっかけだったという。

菅野正寿さん:
ここを拠点にして飯館村、南相馬、浪江に行こうという人もいたので、農家民宿を立ち上げようかという話になった。

もう一つの目的は震災後の福島を伝えること。

妻のまゆみさん:
言葉で復興・復興・復興していますというけど、実際まだ負の部分がいっぱいあって規制が解除になっていない部分や家に帰れない人がいるというのを見たり聞いたりしてほしい。

「遊雲の里」にはこれまでに国の内外から約1000人が訪れた。宿帳には多くの宿泊客から「また来たい」とメッセージが綴られていた。

農産物の取引先は今も震災前の8割ほど。それでも…

菅野正寿さん:
震災によってお客さんがかなり減った。それが農家民宿とか顔の見える交流を通して、減った分がひとつひとつ新しいお客さんになってもらって、新しい顧客になって。

農家民宿が新たな顧客や販路の拡大につながる。

妻のまゆみさん:
いろんな福島の情報が県外にいるとあまり伝わらないという話をきくので、いま福島どうなっているのかなと思ったら、見にいらしてくださいと。

菅野正寿さん:
いまの福島の課題。全部が大丈夫だ、全部がだめではない、メリハリのあることを伝えていくことが非常に大事だと思っている。その課題に一緒に向き合ってもらいたいという私はそこの伝え方が一番大切じゃないかと思う。

多くの人に福島のありのままを伝えたい。農家民宿を営む夫婦の日々はこれからも続く。

(福島テレビ)

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