韓国のCMに日本人が登場

しみけんさんが出演するオンラインゲーム「アルカ」のCM
しみけんさんが出演するオンラインゲーム「アルカ」のCM
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「형알지(ヒョンアルジ?)」=アニキを知っているだろ?

青い半ズボンのスーツに黄色い蝶ネクタイという奇抜なスタイルで、自らを형(ヒョン/兄貴という意味)と呼び、「知っているだろう?」と呼び掛けながら踊る男。これはあるモバイルゲームのCM動画で、今年5月から韓国のテレビやインターネットで流れている。相当インパクトが強く、最初は「誰だろう?」と思ったが、よく見てみるとビックリした。

日本のAV俳優しみけんさんなのだ。

反日的な雰囲気のある韓国では、CMに日本人が登場する事はあまりない。ましてや、AV俳優となると初めての事だ。そもそも韓国では、日本に比べてAVなどのアダルト動画の規制が極めて厳しく、基本的に販売も制作も法律で禁じられている。当局に「有害サイト」と指定されているアダルトサイトを閲覧しようとしても、ブロックされて見る事は出来ない。そんな韓国で一体なぜ、しみけんさんはCMで踊り狂っているのか?

本人にメールで聞いたところ、快く取材に応じてくれた。

韓国で声を掛けられる不思議

ーーなぜ韓国でYOUTUBEやCMデビューされたのですか?経緯と思いを教えてください。

しみけんさん:
今年の1月に奥さんと友達と韓国旅行に行って観光を楽しんでいたらやたらと声をかけられたんです。その時に不思議に思って韓国の友達に聞いたら、ここ10年インターネットの抜け道によってしみけんを知っている人が多いということを聞きました。

実はしみけんさんは韓国で大変な有名人なのだ。韓国の人たちは、当局の規制にもめげることなく、あの手この手で世界のアダルト動画をインターネットで閲覧している。中でも、同じアジア人である日本の動画は人気がある。そこに反日感情は存在しない。そのため、1万本近くのAV出演を誇るしみけんさんは、韓国人(特に男性)にとって「どこかで見た事のある」有名俳優なのだ。しみけんさん本人は全く気が付かないうちに、いつのまにか有名人になっていた形だ。そしてしみけんさんは、この知名度を活かして、韓国での活動をスタートさせた。

ーー反響も大きいですね。

しみけんさん:
韓国で2月にYouTubeを始めました。それが開設してすぐ10万人登録者数を超えて、正直僕もびっくりしています。CMに関しては僕がYouTubeを初めてすぐにご連絡をいただきました。

CMは大反響だった。「テレビで見て俺の目を疑ったよ」「兄貴を知らないわけないじゃない」「巨匠しみけん先生」「兄貴のためにゲームをダウンロードした」「兄貴を信じる、事前予約するから」などと、熱烈なメッセージがダウンロードサイトなどに寄せられた。その結果、しみけんさんがCM出演しているモバイルゲーム「アルカ」は大ヒット。Googleやアップルのダウンロードサイトのゲーム部門で1位となり、累計ダウンロード数は50万を超えた。

同様に、CM出演のきっかけとなったYouTubeチャンネル「しみけんTV」も大ヒットしている。7月2日現在チャンネル登録者数が約47万人に達するほどだ。ここで発信している情報は、AV俳優ならではの性経験談と性知識の発信だけでなく、東京のグルメ紹介や自身の日常生活なども。妻のはあちゅうさんも登場している。総閲覧数は1600万PV以上。中でも人気があったのは「男性の体に良い食材ベスト10」という動画だ。韓国人も(特に男性は)しみけんさんのような強い体に憧れがあるのか、PVはなんと160万回以上だ。動画視聴者からは「性を学び健康を学び日本語を学び文化を学ぶ、一石四鳥だ」との声もあった。

YouTuberとしても大成功しているしみけんさんだが、始めたきっかけは、至極真面目なものだった。

しみけんさんが韓国でやりたかった事

ーーしみけんさんが韓国で本当に伝えたいことは何ですか?

しみけんさん:
韓国では性教育の役割を果たす人がいないということを聞いて、韓国向けに性教育のコンテンツを始めたらみんな喜ぶんじゃないかと思い、YouTubeを始めました。正直思ってもいなかった反応だったので、びっくりしました。それと同時に本当にありがたい気持ちでいっぱいです。

韓国の学校には小・中・高とも年間15時間は性教育すべきとのガイドラインがある。しかし受験戦争などの影響もあり、徹底されていない。子供がインターネットから誤った性知識を得る事も多く、心配した親が1回4000~5000円の授業料を支払って性教育専門の塾に通わせる事もあるという。

そんな韓国の現状を聞いたしみけんさんは「正しい性教育」をYouTubeで繰り広げている。しみけんさんがアップしたクリップ「赤ちゃんはどうやってできるの」を見てみた。しみけんさんは日本で、医師や助産師と組んで性教育の普及活動を行っていると紹介した上で、子供から「赤ちゃんはどこから来るの?」と聞かれた時の対応の仕方を熱く語っていた。AV俳優しみけんとは、また別の顔がそこにはあった。

賛否両論あるが・・・

そんな「巨匠しみけん先生」だが、韓国人のファンは多い一方で「青少年が遊ぶゲームのCMにAV俳優が登場するのはけしからん」という批判もあった。韓国大統領府のHPにも「CMを放映禁止すべき」との要望が寄せられた。しかし、今日までにこの要望に賛同した人はわずか10人。しみけんさんの人気は、批判をものともしなかった。最後に、韓国のファンへの思いをしみけんさんに聞いた。

ーーーー韓国のファンに伝えたいことはどんなことですか?

しみけんさん:
韓国での活動を支持してくれているファンの皆さん、本当にありがとうございます。これからも今の自分の立場を精一杯生かして、一人でも多くの方の性の悩みを解決できたらいいなと思っています。

日韓関係は今、いわゆる徴用工問題、日本政府による半導体素材の輸出管理強化などにより、最悪の状態だ。だが、政治や安全保障、経済とは全く別の「性」という人間の根源に関わる分野で、しみけんさんは日韓の懸け橋となり、奮闘していた。

【執筆:FNNソウル支局 裴誠准(ベ・ソンジュン)】

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裴誠准(ベ・ソンジュン)
裴誠准(ベ・ソンジュン)

2001年3月からフジテレビソウル支局勤務