アカウント作成には厳格な本人確認

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日本でも徐々に普及してきたスマホ決済。“スマホ決済先進国”の中国において、大都市ではもはや現金払いは過去のものとなりつつある。その代わりに必要なのが決済アプリAli pay(支付宝)とWeChat Pay(微信支付)だ。特にWeChatは中国版LINEとも言われる国民的アプリであり、メッセージ感覚で送金も行えることから、友人と食事した際の割り勘の精算など個人間のお金のやり取りにもよく使われる。便利であると同時にこうした送金機能は犯罪者にとって悪用し易いものであり、賭博や詐欺、マネーロンダリングなど違法行為にも使われてしまう。

このためAli payもWeChat Payも、アカウントを作る際には厳格な本人確認を行っている。中国で携帯電話は実名登録制で、それぞれの送金アカウントは携帯番号と紐づけられている。また、中国人であれば国民一人一人の「背番号」である身分証番号と顔写真、外国人であればパスポート番号や顔写真などによって、本人確認が行われ、匿名アカウントは作れないことになっている。

ネット検索するとアカウント売買業者がズラリ
ネット検索するとアカウント売買業者がズラリ

しかし、ネットで検索すればアカウントを売買する業者がいくつも出てくる。警察によれば、これらのアカウントは赤の他人名義で作られものを転売しているのだと言う。もちろん違法だ。

転売価格も様々…高値なのは?

転売アカウント値段表 「国内・長期使用」のモノが高値で取引される
転売アカウント値段表 「国内・長期使用」のモノが高値で取引される

そして写真は業者から送られてきたというアカウントの値段表だ。本来は無料で登録できるものである。「国外」と書かれているのが海外の携帯電話番号で作られたアカウント。「新号」は新しいアカウントの意味だ。使用期間が長いほど値段が高いことがわかる。また、「国内」というのは中国の携帯電話番号で作られたアカウント。これも使用期間が長いほど値段が上がることがわかる。

外国の携帯番号に紐づけられて作られたアカウントは、本人確認が甘い国の携帯番号で作られていることが多く、警察から目をつけられやすいのだ。一方で、中国国内携帯に紐づけられ、長期間使われている、友達の数が多い、LINEのタイムラインに当たるモーメンツへの投稿があるなど、正常に使われていた「実績」が多ければ多いほど疑われづらいため、値段も高くなるということのようだ。

アカウント転売価格は12元(約190円)から390元(約6200円)まで様々
アカウント転売価格は12元(約190円)から390元(約6200円)まで様々

これは別の業者の値段表。実際に「海外番号・新アカウント」の場合、“卸値”で12元(約190円)なのに対し、「国内番号・3か月使用・実名登録・支払いパスワードあり:110元(約1700円)」、「国内番号・2年以上使用・モーメンツあり・銀行口座紐づき:390元(約6200円)」などといった具合に値段がついていた。

詐欺などの犯罪者にとっても、ある程度使用実績のあるアカウントの方が、足がつきづらく、転売業者にとってもカネになるということである。こうしたニーズから、更なる産業が形成されていたことが警察の捜査で明らかになった。

警察もあ然…これが「アカウント養殖」

スマホ数百台がズラリ これが「アカウント養殖」
スマホ数百台がズラリ これが「アカウント養殖」

ズラリと並ぶ数百台のスマートフォン。警察が摘発したアジトではこれらスマホがWeChatに登録され、それぞれ無人で操作が行われていた。プリセットプログラムによって自動的にQRコードをスキャンして友達を追加したり、自動的にモーメンツをアップすることもできるようになっていた。長期にわたって人間が普通に使っているよう見せかけ、アカウントが高く売れるよう「育てる」、いわば「アカウント養殖」が行われていたのである。

人が使っているかのように一台一台が自動的に稼働
人が使っているかのように一台一台が自動的に稼働

容疑者の男によると、スマホに専用のソフトを入れると、コンピューターから自動操作が可能になるということで「1か月以上使われたアカウントは封鎖されづらい」などと供述していた。

こうした実態を受け、WeChatを運営する中国IT大手テンセントも対策を強化すると表明した。身近なアプリをめぐる意外な手口。利用者一人一人が被害者にならないよう気をつけなければならない。

【執筆:FNN北京支局 高橋宏朋】

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高橋宏朋
高橋宏朋

フジテレビ政治部デスク。大学卒業後、山一証券に入社。米国債ディーラーになるも入社1年目で経営破綻。フジテレビ入社後は、社会部記者、政治部記者、ニュースJAPANプログラムディレクター、FNN北京支局長などを経て現職。