世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin English」。今回は6月25日、ブルームバーグのツイート。



モーリー:

日本のニュースでもっと取り上げるのかと思ったら、ゾウが巨大すぎるためか、誰も触れようとしないのですね。

大手メディアが報道しないからこそ、詳しくお話ししようと思います。

Trump sees Japan postwar defense treaty as too one-sided because it promises U.S aid if Japan is ever attacked but doesn’t oblige Japan’s military to come to America’s defense, sources say

トランプ大統領は、戦後の日米安保が一方的なものであると見ている。なぜなら、日本が攻撃されたらアメリカは援助することを約束しながら、日本の自衛隊はアメリカを守ろうとしないからだ、と情報筋が語った。


最後の「sources say」は「~と情報源(が伝えた)」という意味。この件を報じたのがブルームバーグだけなので、その情報源が嘘をついていたら、記事の内容は崩れます。しかしこの人物は、どうやらトランプ大統領の側近のようです。

沖縄の米軍基地移転は「土地の収奪」

G20の来日直前に日米安全保障条約破棄に言及したと報じられ、本人も強く火消ししていないということは、やはり日本に対してメッセージを放っているということです。

追加の思いやり予算なり、自動車輸出自主規制なり、アメリカの農作物の規制緩和なりを引き出すためのもの。トランプ大統領は、“殴っておいて握手する”ように仕掛ける人なのです。

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この発言について、日本の専門家はさまざまな記事を書きましたが、だいたいのコンセンサスは「これは案ずるに及ばない。トランプ大統領はこういうことを言う人なんだ」というものでした。

ところが、この記事には日本のメディアがあまり報じなかった部分があるんです。それは、普天間基地移転に関する内容。詳しく見ていきましょう。

Trump regards Japan’s repeated efforts to move a large U.S. military base in Okinawa as a sort of land-grab, the people said, and has raised the idea of seeking financial compensation for American forces to relocate. Trump’s focus on the U.S. defense pact with Japan may foreshadow broader scrutiny of American treaty obligations across the world, two people familiar with the matter said.

トランプ大統領は、沖縄の米軍基地を移転させる日本の取り組みについて、土地の収奪だと考えており、米軍移転について金銭的補償を求める考えにも言及したという。

「land-grab」とありますが、これは不動産業で“乗っ取り屋”とか“立ち退き屋”がやって来た、というような場面で使う表現です。

日本政府はこれまで「世界で一番危険な飛行機発着場と言われる普天間は、地元住民に危険性があり、また米兵による事件もあるので、米軍基地を返します」と、沈黙し続けるアメリカ政府にかわって代弁してきました。

日本政府は沖縄の人々に「アメリカも悪いようにするとは言っていないから、信じてください」と言い続けていた訳ですが、この記事にあるトランプ大統領の発言は、それをひっくり返しているんです。

「日本側は地元住民が危険だとか、米兵が事件を起こしたとか言うが、みんなでグルになって、アメリカの土地である普天間を奪おうとしているんだ」というトランプ大統領の放言が、この部分に見えます。

日米安保をビジネスの取り引きに

さらなる放言がこちら。

Abe reached a deal in 2013 with Obama to move the base out of Okinawa as early as 2022 if a replacement could be constructed. But Trump believes the land underneath the base is valuable for development, and has told confidants the real estate could be worth about $10 billion, the people said.

2013年、安倍首相は代替となる施設の建設が完了すれば、2022年までに基地を沖縄から県外に移転することに、オバマ大統領と合意した。

しかし、関係者らによれば、トランプ大統領は当該基地のある場所には開発の余地があると考えており、100億ドル相当の不動産的価値があると話したという。

100億ドル=1兆円です。トランプ大統領は、普天間にトランプホテルを建てたいと考えているのかもしれません。

だから、身内に対して「基地の返還といった外交用語で丸めるものではない。日本の考えは分かっているんだぞ」と気持ちよく喋っているんでしょう。

この部分が翻訳されなかったのは、恐らくブルームバーグの日本支局が配慮したのではないかと思います。トランプ大統領の一方的な見方をG20の直前に伝えることを避けたのでしょう。

また、菅官房長官はこの報道を「事実無根だ」と否定しましたが、トランプ大統領は、FOXニュースでも同様の発言をしています。

日米安保には、いくつかの側面があります。

その1つが「米軍のプレゼンスがあることで、中国・ロシア・北朝鮮などの国が進軍してこない。そこにいることが大事」という考え方ですが、いざ事が起きた時、米兵は本当に戦ってくれるのか?と日本の右派・左派はずっと考えてきました。

そこに、トランプ大統領が「日本がアメリカを助けてくれない以上、なぜアメリカだけが助ける必要があるんだ?」と言い出したということは、アメリカは警備保障会社でしかないから、アメリカの言い値で日本は都度、予算を支払い、場合によっては値段が上がることもあり得るとして、日米安保をビジネスの取り引きに落としてしまっているのです。

在日米軍の撤退が招く? 沖縄と本州の“分断”

仮に、このままトランプ大統領が選挙シーズンに突入し、「お金をもらえないなら在日米軍を引き上げる」と公約にしてしまったとすると、“うっかり漏らした本音”が次第に“正式な本音”になっていきます。

というのも、トランプ大統領は「ロシアと良好な関係を築けば問題ない」として、NATO(北大西洋条約機構)などのヨーロッパとの集団的自衛権からは撤退したいという発言をしています。

これに返す刀で、アメリカと中国の関係が修復されれば、東アジアの問題は解決するという方向に持って行ったとしたらどうなるか?

これは私の予想ですが、まず第1段階で、沖縄の人々は動揺するでしょう。加えて、アメリカの基地が米政府の方針転換で縮小されるということは、普天間の人々や沖縄タイムス、琉球新報からは歓迎されるでしょう。

しかし、仮にトランプ大統領が在日米軍の撤退を掲げ、米軍が継続的に撤退することになれば、それは中国から見ると「テストのし甲斐がある」ということになります。

つまり、領海または領空を侵犯するテストをする余地ができるということです。恐らく、八重山諸島や石垣島、尖閣諸島などが標的になるのではないでしょうか。

ここを頻繁に中国が侵犯するようになると、地元住民は危機感を持ち、米軍に留まってほしいと考えます。

しかし、普天間の人々は基地移転問題で困っているという被害者意識があり、そこに新たに生まれた八重山諸島や石垣島の被害者意識と対立して、沖縄が分断されます。

第2ステージでは、アメリカが本格的に軍の撤退準備を進める雰囲気になった時、中国・ロシア・北朝鮮の脅威から守ってくれるものがなくなるため「改憲しかない」と世論が高まり、本州も分断されるでしょう。

プチ鹿島:
今回のトランプ大統領の発言は興味深いですが、最初に聞いた時、僕はこの発言を選挙前の安倍首相へのパスなのかなと思いました。

モーリー:
そう報じているメディアもあります。「つるんでいるのではないか」と。

プチ鹿島:
だってアメリカに「自分で守れ」と言われたら、「やはり憲法改正が必要」となるでしょう。お膳立てしているように感じます。

モーリー:
表面的には、自民党改憲派にとっての棚ぼたのように見えるかもしれませんが、1つ大きな問題があります。

もし、この流れで改憲となったとしても、それは自主制定憲法ではなく、外圧による改憲です。「他者外圧憲法」とでもいうのでしょうか。

仮に本当にアメリカ軍が撤退した場合、そこに生じた1ミリの空白に中国が1ミリ近づいてきます。そうすると、日本の自衛隊改め「国防軍」的なものが、それを抑止しなければなりませんが、人員が不足します。その時、どうするか?アメリカ式に貧しい人や学歴の低い人から順に徴兵しますか?

アメリカとも中国とも等距離を置くような、主にリベラル系の人々が主張してきた「非武装ではない中立」ということになると、かなりの重武装が必要になります。
アメリカも中国も潜在的に仮想敵と見なすことになるわけですから、国民へのGDPなどの負担も重くのしかかります。

だからお金を払ってアメリカ軍に駐留してもらっているのですが、これを「自分たちでやるんだ」とした場合、日本が戦後考えてこなかったこの問題をどう解決していくのでしょうか?

改憲論議に突入する日本社会が果たして冷静でいられるのか、私は大いに疑問です。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 7/3 OA モーリーの『Twittin English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。