2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、懸念されている宿泊施設不足問題。需要を満たす対策の一つとして国が動き出したのが、ホテルシップの導入だ。

ホテルシップとは、クルーズ船を港湾に停泊させ、宿泊施設として活用するもので、過去のオリンピックでも活用されてきた。

ホテルシップには、宿泊施設不足の解消以外にもメリットがあるというが、それは何なのか。ホテルや旅行の専門家に、ホテルシップの利点について聞いた。

ホテルシップが横浜の地域活性化にも貢献

画像提供:プリンセス・クルーズ
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東京2020オフィシャルパートナーであるJTBは豪華客船をチャーターし、7月15日まで「観戦チケット付ホテルシップ宿泊プラン」購入権の抽選申し込みを受け付けている。

これは、1011の客室を備えたクルーズ船「サン・プリンセス」での2泊の宿泊と、オリンピック観戦チケット1枚がセットになったプランで、旅行代金は客室やチケットの種類によって異なるが、1人18万3000円から用意されている。

また、船内のレストランやスパ、プール、シアターの利用料は、基本的に旅行代金に含まれているため、単なる宿泊施設としてだけでなく、さまざまなエンターテインメントを含む複合施設として楽しめるという。

そこで、JTB Tokyo2020プロジェクト推進室事業推進担当マネージャーの鳴尾仁秀さんに、「ホテルシップ」に関するさまざまな質問をぶつけてみた。

「オリンピック観戦という共通の目的を持った人達が、同じ船に泊まり、同じレストランやプールを利用することになるので、初対面でもみんなが意気投合して、船全体がオリンピックを応援する雰囲気に包まれると思います。新たなコミュニケーションの場にもなるところが、ホテルシップの魅力です」
「オリンピック観戦という共通の目的を持った人達が、同じ船に泊まり、同じレストランやプールを利用することになるので、初対面でもみんなが意気投合して、船全体がオリンピックを応援する雰囲気に包まれると思います。新たなコミュニケーションの場にもなるところが、ホテルシップの魅力です」

――現在は観戦チケット付きのプランだけが発表されていますが、宿泊のみのプランも出る予定ですか?

現時点では、「観戦チケット付ホテルシップ宿泊プラン」の購入権の抽選受付のみとなります。

――今回のホテルシップは横浜港の山下ふ頭に停泊するとのことですが、なぜ横浜に?

観戦にいらっしゃるお客様にとって利便性の高い立地であることが、第一義でした。また、当然ながら2000名の乗客を乗せる船が停泊できるサイズの港でないといけません。

諸条件と合致した場所が、4隻以上の大型客船が同時寄港できる横浜港でした。

横浜市は、「日本におけるクルーズ振興の牽引」というビジョンを掲げていることもあり、私達との連携を引き受けてくださいました。JTBとしても、ホテルシップが停泊することで、地域活性化や横浜の魅力発信のお手伝いができるのではないかと考えています。

横浜国際総合競技場ではサッカー、横浜スタジアムでは野球・ソフトボールの試合も行われますので、会期中に特に盛り上がる地域の1つになるのではないでしょうか。

規制緩和によって災害時のホテルシップ活用も可能に…

――ホテルシップ導入の最大のメリットは、やはり宿泊施設の補完なのでしょうか?

そうですね。超大型の国際イベントに向けて、瞬間的に宿泊施設を確保するためには、1000~2000室を用意しているクルーズ船が活用しやすいと思います。

オリンピック・パラリンピックを含めた国際イベントの観光客の増加は、一時的なもの。そこを目指してホテルが増えると、会期後に需要と供給のバランスに不安が残ります。

その点、ホテルシップは会期が終われば本来のクルーズ船に戻るだけですので、影響は小さくなります。

これまで日本では、旅館業法や入管法の規制があり、クルーズ船を宿泊施設として長期停泊させることができませんでした。しかし、国が規制緩和を進め、会期中のホテルシップ導入が可能になりました。

法律以外にも、越えなければならないハードルはまだたくさんありますが、現在1つ1つ対応しているところです。

――さまざまな課題を乗り越えてホテルシップを推し進めるほど、宿泊施設不足は深刻ということですか?

多いか少ないかということよりも、もちろん東京五輪がきっかけではありますが、JTBはその先も見据えて考えました。規制緩和により、クルーズ船のホテルシップとしての利用がよりスムーズにできるようになれば、今後大型イベントが開催される時や災害などに見舞われた際に、速やかな宿泊施設提供の可能性が広がると思っています。

万が一災害が起きて、避難を余儀なくされた時に、「前にホテルシップってあったよね」「JTBに聞いてみようか」と、さまざまな選択肢の1つになるかもしれないですよね。

今後の日本を盛り上げ、支えていくためにも、「今やらなきゃダメだ」という使命感を持って、ホテルシップの導入に取り組んでいます。

オリンピック会期中はクルーズ船が身近になる期間

「世界的に海外旅行をする人は増えていて、東京五輪後も訪日外国人旅行者の数は増えていくと見られています。一方、首都圏全体でいえば、宿泊施設の供給数は足りてくると考えています」
「世界的に海外旅行をする人は増えていて、東京五輪後も訪日外国人旅行者の数は増えていくと見られています。一方、首都圏全体でいえば、宿泊施設の供給数は足りてくると考えています」

五輪期間中は横浜港以外にも、東京港や川崎港でもホテルシップの実現に向け、協議が進められている。

一時的に人が集まる時にホテルシップを導入することで、その後、利用客が減ってもホテルが経営難に陥ることはないというが、では、利用客側からするとどのようなメリットがあるのだろうか。

ホテル業界を知り尽くすホテル評論家・瀧澤信秋さんにも話を聞いた。

――利用客から見た場合に、ホテルシップのメリットはありますか?

宿泊施設というより、観光スポットとしての要素が強いところですね。ただ泊まるだけならビジネスホテルでいいけど、ホテルシップなら、食事もスパもエンターテインメントも楽しめる。船にステイすること自体が旅になります。

高級ホテルと比べても料金は高めですが、宿泊+αの価値があるので、観戦だけでなく旅そのものを楽しみたい人は満足できるでしょう。

また、2泊3日のプランなど、利用しやすいところも魅力です。一般的なクルーズ船は短くても1週間は航海するので、長期休暇が取れないと厳しいですし、外国発着のプランであれば、現地までの交通費もかかる。ハードルが高いですよね。

でも、日本に停泊している船に2泊3日なら、現実的。オリンピック観戦のための企画ですが、利用客にとってはクルーズ船を体験する貴重な機会にもなります。

――最後になりますが、やはり五輪会期中はホテルが不足するのでしょうか?

オリンピック会期17日間に必要なホテルの数は、1日10万室という試算もあります。

東京近隣県のホテル、その他にもカプセルホテルや民泊、一般ユース向けのラブホテルなども含めれば、供給できる可能性は高くなるかもしれません。高級ホテルやビジネスホテルだけで賄おうとすると、難しいでしょうね。


オリンピック会期中の宿泊施設不足を解消する策として、導入されるホテルシップ。しかし、社会全体から見ても旅行者個人から見ても、さらに先の未来に向けた第一歩といえそうだ。



JTB ホテルシップ
https://www.jtb.co.jp/hotelship/
JTB「東京2020オリンピック観戦チケット付ホテルシップ宿泊プラン」購入権エントリーページ
https://www.jtb.co.jp/form/myjtb/hotelship/index.asp

瀧澤信秋
ホテル評論家、旅行作家。利用者目線でホテル・旅館を評論。そのフィールドはホテルステイ、グルメ、ホテルにまつわる社会問題までの幅広い。著書に『最強のホテル100』『辛口評論家、星野リゾートに泊まってみた』など多数。
http://www.takizawa-nobuaki.net/hotel/

取材・文=有竹亮介(verb)

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。