参院選まっただ中なのに出番がない選挙カーたち

参院選まっただ中にもかかわらず、駐車場にならぶ看板が真っ白な5台の選挙カー。本来、選挙カーはフル稼働ですべて出払っているはずの時期なのに、この車たちに出番はない。しかし、この5台にこそ、この会社の作る選挙カーに全国の候補者から予約が殺到し、“早い者勝ち状態”になる理由のひとつがある。

出番のなかった選挙カー
この記事の画像(11枚)

選挙カーの制作・レンタルを取り扱う、株式会社・グリーンオート(神奈川県足柄上郡)の取締役、若狭侍郎(32)さんは、元参院議員秘書。2年間秘書を務めたのち、6年前にこの会社に入社、選挙カー事業部の責任者となった。彼は、秘書時代の経験、そして秘書仲間たちの声を拾い上げ、試行錯誤を繰り返し“至れり尽くせり”の選挙カーを制作した。

株式会社グリーンオート 若狭侍郎・取締役(32)

その選挙カーは選挙の度にメディアに取り上げられ、評判が広がり、いまでは全国の候補者が愛用している。しかし、人気の根底にあるのはその車の“性能”だけではない。

今年の選挙は衆参Wになるのではないかとの憶測が一時流れた。となると、衆院の分も確保しておかなければならない。彼は、予約を参院候補者で埋めようと思えばできるのに、いつも愛用してくれる常連の衆院候補者のために、全部で40台ある選挙カーのうち、一定数を参院の予約で埋めずに置いておいたのだ。結果は御存知の通り、参院選挙のみ。だから、この5台は若狭さんが大事にしている“情”のために、出番がなくなったのだ。

政治は“情”の世界。こうして、またこの会社への信頼が増し、常連も増えていく。しかし、車そのものが使えなければ意味がない。元議員秘書が作る選挙カーは“至れり尽くせり”なのだ。

ガラス張り選挙カーが市場を独占できる理由

町中でよくみる選挙カーは、候補者が左右どちらかに座っているため、沿道のひとたちも一方の人しか候補者を見ることが出来ない。しかし、一番人気の「ガラス張り選挙カー」の最後部席はひとつで、左右に遮るものはない。しかも窓は全開可能。左右どちらに有権者がいても、顔を見せることが出来る。

一番人気の「ガラス張り選挙カー」

天井には四方にLEDが設置され、夜間でもバッチリ。車体には高さがあり揺れやすいため、窓枠には手すりを設置した。

天井にはLED 窓枠には体が揺れないように手すり

特に力をいれているのは音響だ。500人の聴衆がいても、きちんと全員に声が届くように高性能のスピーカーを前後左右、4つ設置。そのすべてが聴衆のいる方向に向けられるように操作可能だ。

スピーカーを外にせり出し左右に振ることが可能

なにより、音質がすごい。スマホなどとつなげて音楽を流すこともできるのだが、まるでライブ会場にいるかのような高音質。性能のいいスピーカーなら、たとえば住宅地を走るときなど音量をしぼっても音がクリアに聞こえるのだそうだ。「性能では他社には絶対に負けない」と若狭さんは胸を張る。

屋上の足下には滑り止めが設置され、四方には夜間用のライトも設置可能。さらに、すぐ下に降りられるように後部の壁は開閉式にし、ハシゴをかけられるようにした。

屋上の後部壁は開閉式 ハシゴをかけられる

ちなみに、候補者が乗り降りするガラス張りの後部ドアはジャバラ式になっているのだが、一昔前までは、候補者が襲われることがないように、外からは開けられなくなっていたという。しかし、昨今そのような事態はほぼなくなり、むしろ“不便”との声が届いたため、いまでは外からも開けられるようにした。

昔は外から開けられないようにしていた

この「ガラス張り選挙カー」、なぜ同業他社はマネをしないのだろうか・・・そこにはマネをしたくてもできないからくりがあった。

車のベースは中古の日産・エルグランドなのだが、フレーム強度などすべて国の定めた基準に従い、選挙カーとしてつかえる3ナンバーの“新車種”として型式を登録。だから、まったくおなじこの車ならば、選挙カーとして利用できるのだが、その制作ノウハウはこの会社にしかない。だから、市場を独占できるのだ。
ちなみに現在「ガラス張り」は10台保有していて、改造費用は1台あたり約1000万円。そのうち、300万円ほどが音響設備にあてられている。

しかし、なぜ大人気の選挙カーが1台、選挙期間中なのにここにあるのか・・・
「不慮の事態のときのための代車です」
この会社が信頼され、愛用される理由がまたひとつ、垣間見えた気がした。

「シートベルトは必要なし」選挙カーの基本ルール

ちなみに、選挙カーには細かい規定が公選法で定められていて、個人が選挙戦で使う場合、トラックやオープンカーは使用できない。3、4,5ナンバーのみ。いわゆる「大型」の車は使用できないことになっている。もちろん、看板の大きさも決まっている。

活動が許されているのは午前8時から午後8時まで。学校や病院の周辺では「静穏を保持するよう努めなければならない」と定められているが、具体的な音量などはなく、罰則もない。また、走行中は“連呼行為”しか許されておらず、政策を訴えたりすることはできない。だから、名前の連呼ばかりを私たちは耳にするのだ。停車していれば、政策を訴えたりするのは自由。ちなみに、選挙カーの進行の邪魔をすると、選挙妨害にあたる。

選挙カーは午前8時から午後8時まで使用可

公選法ができたのは昭和25年と戦後間もない。政治家が襲われることも度々あったため、万が一の際は車に乗る人たちがすぐに逃げ出すことができるように、全員シートベルトの着用は義務ではない。とはいえ、シートベルトをしていないと「イメージ」が悪いため、多くの候補者や乗員はシートベルトをしているが。

選挙カーは「政治家のためではない」

その昔、若狭さんはまったく選挙に関心がなく、投票所がどこにあるのかさえ知らなかった。秘書時代、議員には「必ず選挙に行ってました」と嘘をついていた。
しかし、ある政治家から聞いたことばが胸に刺さった。
講演会の手伝いにいくと、いるのは高齢者ばかり。「若い人にもきてもらうべきではないか」との彼の訴えに対し、その政治家は「若い人は投票に来ないから票にならない」と言ったという。自身も投票に行っていなかったのだから、説得力はあるのだが、そこに本来あるべき政治と選挙の矛盾、温度差を感じた。

最新の大型選挙カー

そして、彼はもっと有権者に興味を持ってもらえる選挙カーを作ろうと思い、今に至る。

選挙カーは政治家のためにつくっているのではないんです。有権者のためなんです。この車が通ることで、お?なんだ?と有権者が足を止める。そのきっかけを作りたいんです。そこから先、どのような話をするか、政策を訴えるかは、政治家次第。選挙に行こう、という気持ちにさせてほしい」

このような思いが、ガラス張り選挙カーに込められている。

ちなみに予約殺到、ということは首長選、もしくは同一選挙区の候補者同士など、対立候補双方が同じ車を予約することも考えられるのだが、基本早い者勝ち。もし、かぶった場合は、必ず、先約の相手候補に許可をとるという。
「仁義なき戦い」のイメージが強い選挙。さすがに先約の候補者は断るだろう、思いきや・・・「そうでもないですよ。“わかった。正々堂々とやろう”と許可をだすひともいます」という。許可を出すのは全体の3割ほどということだが・・・

このようなドラマと候補者を乗せ、きょうもガラス張り選挙カーは全国を走る。
選挙にいきたくなりませんか?

(執筆:フジテレビ プライムオンラインデスク 森下知哉)

「参院選2019」特集をすべて見る!

7月21日の投開票日の夜は、【Live選挙サンデー 令和の大問題追跡SP(よる7時56分~)】
MCの宮根誠司・加藤綾子が、古市憲寿・石原良純ら手加減なしの痛快ゲスト陣と共に
令和の主役たちの素顔や、私たちに身近な新時代の大問題を徹底取材。
怒濤の開票速報を展開しながら、各党首や候補者に「今聞きたいこと」を本音生直撃する。
プライムオンラインでも、開票や全国の候補の当落の最新情報をリアルタイムでお伝えする。