「おいしい国」日本

2020年東京五輪で世界に伝えたい日本の魅力は?と聞かれたら、何を思い浮かべるだろう?

都市と下町が共存する町並み、ほぼ時刻通りに到着する列車、治安の良さ...
さまざま考えられるが、食文化の豊かさは間違いなく候補に入ってくるはずだ。

日本原産のわさびが海外で栽培されるケースも(画像はイメージ)
日本原産のわさびが海外で栽培されるケースも(画像はイメージ)
この記事の画像(8枚)

ユネスコの世界無形文化遺産に選ばれた「和食」をはじめ、「食のおもてなし」も是非、外国人観光客に堪能してもらいたい。

最近では、日本原産の食材が海外に広まることもあり、例えばワサビは、豊かな風味に着目した外国人たちが、イギリスやオーストラリアでも栽培するようになった。緑茶も好調で、財務省貿易統計によると、2018年の輸出額は過去最高の約153億円にのぼっている。

カレーやラーメンはどこの料理?

それでは、外国人は“日本の食”に何を求めているのだろうか。

和食はもちろん美味だが、日本の「おいしいもの」は他国の食文化が発展した料理も多い。
その筆頭が、私たちの国民食と言っても過言ではない「カレー」と「ラーメン」。

日本のカレーはコメだが、インドカレーはナンを食べる(画像はイメージ)
日本のカレーはコメだが、インドカレーはナンを食べる(画像はイメージ)

本場インドのカレーはサラッとしてスパイシーだが、日本のカレーはドロッとしてやや甘めだ。
ラーメンにおいても、中国は細麺でスープもあっさりなのが特徴。一方で日本のラーメンは、縮れ麺や濃厚なスープを売りとするお店が多い。似ているようで違う。

これらの料理を日本食と見るかは意見の分かれるところだが、寿司がアメリカで発展した「カリフォルニアロール」のように、他国でも同じような例はある。この記事では、日本でしか味わえない食文化を「ジャパニーズフード」と定義したい。

カリフォルニアロールはノリを内巻きにするのが特徴(画像はイメージ)
カリフォルニアロールはノリを内巻きにするのが特徴(画像はイメージ)

そんなジャパニーズフードの魅力を東京五輪期間中に伝えるためには、どうすれば良いのだろうか。そして、外国人に受け入れられやすい料理はどんなジャンルなのか。

今回は欧州・北米・アジアなど、30ヶ国以上を訪れたことがあり、海外向けの料理番組も持つ、料理研究家・行正り香さんに取材。海外での経験や関係者からの評価を踏まえ、日本の食文化を分析してもらった。

日本料理のイメージが変わってきた

――海外におけるジャパニーズフードの評価は?

日本料理と言えば「寿司」でしたが、ここ数年で多彩なメニューが認知されるようになりました。居酒屋の小料理や麺料理なども好まれるようになり、日本料理のイメージが変わったと思います。

私はこの変化を、インバウンドが増えた影響と考えています。
外国人も初来日のときは、日本的な料理を好みますが、何回も訪れるようになると「別の料理にもトライしよう」となるものです。そんな人が増えているのではないでしょうか。私も海外向けの料理番組に出演していますが、日本の食文化が発信される場所が増えたように感じます。

料理のバリエーションの多さ、安さには驚く人が多いですね。「日本は日本食だけじゃない」「イタリアの次にイタリアンがうまいのは日本」という声を聞いたこともあります。


――外国人は日本での食事に何を求めている?

一番は「ヘルシーで洗練されている」ことでしょうか。海外で日本食を表現するときは「sophisticated(=洗練された)」という言葉がよく使われます。

例を挙げるなら、お椀やご飯茶碗。日本では、料理に合わせて形・色・素材が異なる食器を使い、小鉢料理やふた付きのお吸い物もありますよね。これらは海外ではめずらしく、洗練されていると感じるそうです。

また、コンビニのおにぎりやお弁当ひとつとっても「繊細で驚く」という声も聞きます。


食器の多彩さに洗練を感じるという(画像はイメージ)
食器の多彩さに洗練を感じるという(画像はイメージ)

――日本と海外の食文化はどう違う?

日本の食事は「五味五感」で変化を楽しむものが多いですね。盛り付けや香り、調理音まで特徴になります。また、季節感も大切にしていると思います。節分の「恵方巻き」など、慣習に沿ったメニューもあります。

海外からの評価では、「日本は食事の食べ合わせの知恵が面白い」と言われますね。
例えば揚げ物でも、とんかつの付け合わせにキャベツを添えるように、食べ合わせや健康に気を遣った食べ方をします。小さなころから給食に触れ、食育を学ぶからかもしれません。

日本と海外の違いを挙げるとすれば、料理店に求めるものは違います。
日本人は「料理の味」がお店の評価に直結する傾向にありますが、海外は食事に「エンターテイメント」を求めます。もちろん味も影響しますが、あくまで要素の一つ。店員のサービス、店内のインテリア、音楽、照明などで総合的に評価されます。


東京五輪では「粉もん」に注目!?

――東京五輪で人気を集めそうな、食事・食文化はある?

海外では旅行計画を決めるとき、「トリップアドバイザー」など、口コミサイトの評価を参考にします。
東京五輪で日本を訪れる人たちも、高評価のお店を片っ端から食べていくのではないでしょうか。評価が高いお店に、観光客が集中してしまうことも考えられます。

料理のジャンルであれば、お好み焼きなどの「粉もん」やB級グルメが人気になるかもしれません。米を使う「ナシゴレン」が日本人に親しみやすいように、小麦粉料理をよく食べる外国人には受け入れられやすいはずです。比較的安く、お好みソースを使うなど、日本らしさもありますね。

あとは、お酒でしょうか。日本で醸造されるウイスキー、ピルスナービール、日本酒などは、もともと世界的な評価を得ていますが、居酒屋文化が認知され、興味を持つ人が増えています。


お好み焼きのおいしさが外国人に広まるかも!?(画像はイメージ)
お好み焼きのおいしさが外国人に広まるかも!?(画像はイメージ)

――五輪開催に関連した、食文化などの課題はある?

海外には、宗教的な理由で肉類などを食べられない人もいるので、お店の選択肢に困ることは考えられます。直接口にしないだけではなく、一緒に調理してはいけない料理もあるので難しい問題です。

全ての飲食店が対応する必要はないですが、対応店の情報を分かりやすく伝える必要があるでしょう。日本は他のアジア諸国に比べても、英語が通じにくいお店が多い印象です。

日本文化全体に言えますが、素晴らしいものを持っているのに伝達できないところがあります。日本人はシャイで「主張しないことが美学」と考えがちですが、海外では、外国人が日本食を発信していることもあります。この点では、非常に損をしていると思います。


SNSでの動画配信なども必要

――世界にジャパニーズフードを売り込むには?

いくらおいしい料理を作っても、接触がなければ魅力は広まりません。
SNSでの動画配信など、世界中の人々が見るプラットフォームでPRすることが必要でしょう。魅力を知った外国人がお店を利用すれば、一つの高評価が10、100と拡散します。

お店側ができることでは、世界共通語である英語に対応することが、第一歩ではないでしょうか。何も、店員が英語を完璧に話さなければ...という訳ではありません。英語表記のメニューが用意されていたり、「おいしいメニューは何?」という質問に答えられるくらいでも良いのです。

外国人にとっては、英語で対応してくれるだけでうれしいものです。自分たちの素晴らしさを「恥ずかしい」と思わず、きちんと伝えることが必要でしょう。



飲食店を利用していると、いざお店に入ったはいいものの、注文方法やメニューの内容が分からず、困惑する外国人観光客を見ることも多い。ジャパニーズフードの魅力を知ってもらうためには、食の戒律である「ハラル」や「ベジタリアン」などの多様性に配慮しつつ、自らを積極的に売り込んでいく姿勢も必要なのかもしれない。
是非、食文化のアピールの場としても東京五輪を活用して欲しい。

行正り香(ゆきまさりか)
料理研究家。福岡市出身。高校時代にアメリカに留学後、帰国して大手広告代理店に勤務しながら料理本を出版。退職後は料理研究家となり、和食を世界にプロモートする番組などで活躍中。現在は英会話学習にも力を入れ、英会話アプリ「カラオケEnglish」なども手がける。『19時から作るごはん』『行正り香のインテリア』(ともに講談社)など、著書は50冊以上。2020年にはアメリカで和食本が出版される。

「ミッション東京2020」特集をすべて見る!
プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。