【女性(78)】「(年金5~6万円)足りないな。どうしたらええやろう」
人生100年時代と言われる今、老後の長くなる中で、避けては通れないのがお金の問題です。
2019年に世間を騒がせた「老後2000万円問題」は、多くの人に不安をもたらしましたが、実際のところ、老後を安心して暮らすにはいくらあればいいのでしょうか。
■切実な声「年金だけでは暮らせない」
東京都北区の都営住宅で一人暮らしをする89歳の佐藤さんは、国民年金が月7万円だけでギリギリの生活を送っています。妻は10年ほど前から介護施設に入っており、その費用約10万円を妻の年金などと合わせて何とか支払っている状況です。
【都営住宅に住む 佐藤さん(89)】「国民年金だからね、7万円ぐらいだったら厳しいよね。年金だけじゃ厳しい」
最低限の食費と家賃を払ったら、ほとんど手元に残らない生活です。
【都営住宅に住む 佐藤さん(89)】「食べるのになんとかしてさ、ほとんどコンビニばっかり。ガスもほとんど使わないし、1人で生きてくほかない。頑張って節約して生きていくだけ」
佐藤さんは「もう少しお金があったら何を買いたいか」という問いに、「少しぶらぶら遊びに行ってみたりとか、赤羽の方に行って、ちょっと飲んでみたいとか思う」と答えました。
■シルバー人材センターに集まる高齢者たち
「年金だけに頼れない」という厳しい現実から、60歳以上を対象としたシルバー人材センターの説明会には多くの高齢者が集まっていました。
ビルの清掃や福祉施設での調理・洗濯など、高齢者向けの仕事を紹介してくれるこの場に、この日は16人が参加。登録者の平均年齢は70歳を超え、中には90歳で働く人もいるそうです。
参加者からは「(生活するために)必要に迫られてるから、しんどいとは言ってられない。働くのは嫌いじゃない。働けるうちは働きたい」という声が聞かれました。
■プロが解説する「老後の資金計画」
これまで3000人以上の相談を受けているファイナンシャルプランナーの塚越菜々子さんは、まず「老後2000万円問題」※について次のように語ります。
【塚越菜々子さん】「もう忘れていいです、この数字は。2000万円という数字は“誰か”のお金ですよね。“自分にとっていくら必要なのか”を考えなければいけないので、2000万円という数字にとらわれる必要は実はない」
※2019年に金融庁が「夫婦が老後の30年間で2000万円不足するとした試算を報告。
■老後の生活費はいくら必要?シミュレーションしてみよう
塚越さんによれば、老後に必要な金額を知るには、まず2つの要素を把握する必要があります。
1. まずもらえる年金の試算
もらえる年金については、「ねんきん定期便」で確認することができます。毎年誕生月に送られてきます。50歳からは将来受け取る見込み額が記載されます。
2. 次に老後生活費を見積もる
塚越さん監修のもと、55歳夫婦と高校生1人の3人暮らしを例に、現在の月々の生活費を算出しました。
・住宅費用(ローン):10万円
・食費:9万3000円
・光熱・水道費:2万5000円
・家具・家事用品:1万3000円
・被服及び履物:1万3000円
・保健医療:1万3000円
・交通・通信:5万5000円
・教育:3万4000円
・教養娯楽:3万1000円
・その他消費支出:6万8000円
合計:44万5000円/月
■10年後(65歳)の必要生活費は?
続いて、この家族が10年後(65歳)に必要となる生活費をシミュレーションしました。高校生の子どもが独立し、住宅ローンも終わったと仮定した場合です。
・住宅費用:2万円(固定資産税・管理費など)
・食費:6万円(1人減った分減少)
・光熱・水道費:2万円
・家具・家事用品:1万円
・被服及び履物:1万5000円
・保健医療:2万円(年齢とともに増加)
・交通・通信:3万5000円
・教育:0円(子ども独立)
・教養娯楽:3万円
・その他消費支出:6万円
合計:27万円/月
この試算から、現役時代と比べると老後は生活費が約17万円減少することが分かります。
塚越さんは「老後の生活は、今の自分の家の延長線上にあるもの。よその家を見るのではなく、自分の家がどうかを考えることが大切です」と指摘します。
■老後の準備、いつから始めるべき?
「老後の資金準備をいつから始めるべきか」という質問に、塚越さんは「もちろん早いにこしたことはないですが、家族構成が確定したら考え始めるとよい」と回答。「子どもの数や、教育期間がある程度見えてくる50代頃から、具体的に計画を立てると良い」とアドバイスしています。
ただし、60代になってから相談に来る方も多いといいます。「物価高でお金の使い方に悩んだり、年金の中で足りるのか不安だったり、60代からでも投資を始めていいのかなど相談を受けます」と塚越さん。
また、夫婦でお金の話ができていないケースも多いようで、「自分の資産はわかるけど、パートナーの総資産がわからない」というケースも少なくないとのこと。「まずは家計の全体を見直すことから始めましょう」とアドバイスしています。
■年金はいつからもらうのがお得?
年金の受給開始年齢についても解説がありました。
65歳を基準に比較した場合:
・60歳で受給開始:月々の受給額が24%減少。79歳までならお得だが、それ以降長生きすると損をする計算に。
・70歳で受給開始:月々の受給額が42%増加。81歳以降長生きするとお得に。
・75歳で受給開始:月々の受給額が84%増加。86歳以降長生きするとお得に。
塚越さんは「トータルで一番多くもらうという考え方だと、何歳まで生きるかによって変わってきますが、それは誰にも分かりません。いつどのくらいのお金があると安心か、どのくらいもらえたら安心かを基準に決める方が、より豊かに使えると考えた方がいいですね」とアドバイスします。
■老後の投資はいつまで?
投資についても質問がありました。
塚越さんは「投資で何とかしようと思うのは、50代までにしておいてほしい」と注意を促します。
【塚越菜々子さん】「60代で投資をやるべきではないという話ではなくて、使えなくなったら困るお金を、無理に投資で何とかしようというのはやめてください。物価高と戦うために、お金を守るために投資をするのは引き続き行っていいですが、必要なお金まで投資に回すと、トラブルに巻き込まれやすくなるので、余剰の資金、なくなっても暮らせないわけではないお金で、投資をすることが大切です」
30代、40代の人については、「時間という資産がありますので、投資をうまく活用して少し有利にお金を増やしていくのも大切です」と締めくくりました。
老後の資金計画は、年齢や家族構成、ライフスタイルなど、人それぞれの状況によって異なります。
「2000万円」という一律の数字にとらわれるのではなく、自分自身の生活に合わせた計画を立てることが大切です。
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2025年12月1日放送)