4人が死傷した、おたるドリームビーチの飲酒ひき逃げ事件から、7月13日で5年が経った。
飲酒運転の根絶を誰もが願う一方、飲酒運転による事件・事故は後を絶たない。
そんな中、5年前に悲惨な事件が起きた北海道小樽市の「ドリームビーチ」では、ある変化が生まれてきた。
飲酒運転ゼロの、楽しくにぎやかなビーチを取り戻すための取り組みを取材した。

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「海の家」組合元理事が、毎朝続ける作業

ドリームビーチ共同組合元理事長 筒井弘子さん:
なんとかして歩道を歩いていただきたくて。

海水浴帰りの若い女性4人が、飲酒運転の車にひき逃げされた現場。
当時「海の家」の組合理事長だった筒井弘子さんは、現場近くの歩道に海岸の砂をまく作業を続けていた。
事件をきっかけにガードレールと歩道ができたにもかかわらず、雑草と砂利を避けて車道を歩く人が多いからだ。

ドリームビーチ共同組合元理事長 筒井弘子さん:
市道は550mあるから大変だよ。だから砂まきは1か月かかった。

事件から5年たったいまも毎朝、市道に花を植え続けている。

ドリームビーチ共同組合元理事長 筒井弘子さん:
まだまだ私の力不足だなと思いますけどね。当然飲酒運転をしないで、“健全な海水浴場“っていう意識で楽しんでいただければ。

田中うた乃記者:
「ドリームビーチ」は、バーベキューや海水浴の人でにぎわっています。

取材当日、最高気温は27℃まで上がり、夏の訪れを感じさせた。
小樽市銭函の「ドリームビーチ」でも、久しぶりのにぎわいを見せていた。
「みんな最後まで楽しみましょう、カンパーイ!」
家族連れ、会社の仲間、友人同士…思い思いに楽しむ輪の中には、酒を飲む人も目立つ。

利用客A:
普通にビール。いつも通り。

利用客B;
最高です、今日は!

利用客C;
飲んでいるのはソフトドリンクですね。今日は飲まないですね。車で来ているので。

突如起こった悲劇

2014年7月13日。小樽市銭函の市道で、海水浴帰りの原野沙耶佳さん(当時29)、石崎里枝さん(当時29)、瓦裕子さん(当時30)が飲酒運転の車にはねられて死亡、1人が大けがを負った。
運転していた男は、海の家で酒を飲み続けていた。男の呼気からは、基準値の3倍ものアルコールが検出された。
「事故を起こさなければ、大丈夫だと思った」男はその後、危険運転致死傷の罪に問われ、最高裁で懲役22年の刑が確定した。

根絶目指すも...後絶たぬ飲酒事故

この悲惨な事件を忘れないようにと、北海道は7月13日を「飲酒運転根絶の日」と定め、取り締まりや啓発活動を続けている。
しかしその努力もむなしく、今も酒を飲んでハンドルを握る悪質ドライバーが後を絶たない。
6月末には、札幌市北区で50代の女が飲酒運転で工事現場に突っ込み作業員ら4人が重軽傷を負った。
2018年に、北海道内で起きた飲酒運転による事故は131件。死傷者は187人と、2017年と比べて20人も増えている。

「眠れないからウイスキーを…」飲酒運転で人生狂わせた男性が語る“その日“

なぜ飲酒運転はなくならないのか。飲酒運転で人生が狂ってしまったという男性が「その日」のことを語ってくれた。

飲酒運転を起こした男性:
眠れないから、ウイスキー飲んだんだよね。

男性は4年前、飲酒運転で車を電信柱にぶつける事故を起こした。ウィスキーを飲んで運転し、近くのコンビニまで行く途中のことだった。

飲酒運転を起こした男性:
非常に反省すべき点だよね。やっていた仕事全部、その日でバーンとなくなるわけだから。

事故後、男性は逮捕され、職を失った。

飲酒運転を起こした男性:
酒気帯びで物損でも警察は必ず逮捕する。やったことはちゃんと受け入れて、もう飲酒運転はしないと。

男性は反省し、今では酒を一切絶っているという。

飲酒運転を起こした男性:
大きく人生変わるからね、ほんの一瞬だからね、。

「死ぬまで忘れない」癒えることない遺族の悲しみ

運命が変わってしまうのはドライバーだけではない。
飲酒運転による事故で大切な家族を失った遺族の悲しみは、決して癒えることはない。
小樽市の飲酒ひき逃げ事件で娘を失った母親が、今の心境を答えてくれた。

母親:
今の時期になると、あの日のことを思い出します。事件のことを忘れてしまいたいけれど、娘には申し訳ないですし、死ぬまで忘れられません。
事件から5年がたち、寂しさがますます強くなりました。
毎日のように流れる飲酒運転のニュースをみて、この事件の悲しさが世の中に伝わっていないのかなと感じ、残念に思います。

利用客に芽生えた飲酒運転“させない“意識

あれから5年…「ドリームビーチ」の風景にある変化が生まれている。

利用客D:
友達と遊びにきて、BBQでもしようかと。運転は僕ともう一人。飲酒運転はもちろんしないです、ジュースしか飲まないです。
みんなで意識を持って、ノリでもしない。

利用客E;
車できています。飲酒はしないで、別々で。飲む人と飲まない人、ハンドルキーパーですね。

飲酒運転をしない、させないという強い意識が海水浴客たちの間に芽生えていた。
海の家の経営に携わっていおり、2018年から組合理事長もつとめる深井静枝さんは、「ドリームビーチ」の変化についてこう語る。

ドリームビーチ共同組合 深井静枝理事長:
5年前の事故についてずっと受け止めてはいます。組合員全員もそうですし、お客様も認識は高まったんじゃないかなと感じています。

利用客の飲酒運転をなくすため、普段から取り組んでいるのは楽しい会話の中でのちょっとした注意喚起だ。

ドリームビーチ共同組合 深井静枝理事長:
会話の中からお客様に『今日なにできたの?』とか『運転手ちゃんといる?』とか。
『ダメだよ!』っていうのではなくて、会話の中で忠告はしてます。
ルールを守っていただいて、マナーよくまたここにきていただくっていうのが、私の仕事だと思っているので。

老若男女が来場 ビーチに再び活気が

一時は客足が遠のいていた「ドリームビーチ」だが、最近は若者だけでなく、ファミリー層も浜に戻ってきた。

ドリームビーチ共同組合 深井静枝理事長:
40年以上ぶりにきたお客さんがいて、孫を連れて来ていた。『すごくきれいなビーチになってるから、また来たい』という話を聞いたんですよ。そのときはすごく嬉しかったです。

今後は、全盛期の3分の1にまで減った「海の家」のにぎわいを取り戻したいという。

ドリームビーチ共同組合 深井静枝理事長:
海の家ももっと増えて、にぎやかになれば協力者も増えるし、それだけお客さんのことも見れると思うんですよ。
私はその方が理想的だなと思っています。

一人ひとりがルールを守りながら、安心して楽しめるにぎやかなビーチへ。多くの人の思いを受けて、「ドリームビーチ」の挑戦は続く。

(北海道文化放送)

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