今、社会問題となっている、薬の過剰摂取=「オーバードーズ(OD)」。死に至る事案も相次いでいます。
「西成の“闇露店”で買いました」
newsランナーの独自取材にこう語ったのは、女子高校生のオーバードーズを制止せず死亡させ、実刑判決を言い渡された被告の男。
当時、2人に何が起きていたのか。
そして、男が記者に明かした薬の入手元となった“闇露店”を追跡すると見えてきたのは、「生活保護」の受給者が様々な薬を売っているという実態でした。
■若者の間で広がるオーバードーズ(OD)
【裁判官の判決言い渡しより】「主文被告人を懲役2年4カ月に処する。幼稚で浅はかな考えによる犯行である」
14日、裁判官にこう厳しい言葉で指摘されたのは小坂光被告、27歳。
去年9月、女子高校生Aさんの(当時16歳)ある危険な行為を制止せず死亡させた罪などに問われています。
女子高校生はなぜ、亡くなったのか…。それは「オーバードーズ(OD)」です。
高揚感などを得るために薬を過剰に摂取するオーバードーズ。若者の間で急速な広がりをみせています。
厚生労働省が全国の中学生およそ3万8000人を対象にした調査では、「オーバードーズ」を1年以内に経験したことがある中学生は、推定1.8%にのぼることが明らかになり、国も対策を急いでいます。
濫用を防ぐため、指定された成分が入る市販薬については、販売個数の制限や年齢確認などを必要とする規制を設けています。
しかし、濫用による死亡事案が後を絶たないのが実情です。
先月には東京の歌舞伎町でオーバードーズをしていたとみられる女子中学生(14)が雑居ビルから転落して死亡。
規制が進む中、なぜ事件は無くならないのかー。
取材班は、大阪の事件を引き起こした被告の男に独自で接触。
メディアに初めて明かしたのは若者が多用する“薬の闇ルート”の存在でした。
■オーバードーズの常習者だった小坂被告 処方薬にも手を出していた
小坂光被告は、万引きした市販薬で、女子高校生Aさんがオーバードーズしていたにも関わらずそれを制止せず、死亡させた罪などに問われています。
そんな、小坂被告自身も、オーバードーズの常習者でした。
【小坂光被告】「あれは2023年の冬です。当時付き合っていたAさんとは別の女性がODをしていたので僕も始めました。後に別れたんですけど、それが辛くて薬を飲む量が増えました」
そんな時に出会ったのが、大阪・ミナミのグリ下へ頻繁に出入りしていたAさんでした。
【小坂光被告】「Aさんとはグリ下で一緒に酒を飲んだり、オーバードーズをしたりしました。Aさんは一回あたり10~15錠ほど飲んでいました」
市販薬を買い求めて、複数の薬局を転々とし、ときには万引きもしていたと話す小坂被告。
さらに、より強い効果を求め、市販薬から“あるもの”にも手を出したと言います。
【小坂光被告】「処方薬も飲んでいました。睡眠薬や鎮痛薬ですね。簡単に手に入るので」
処方薬は、市販薬よりも副作用のリスクが高いため、医師の処方箋が必要。簡単には入手できないはずですが…
【小坂光被告】「西成の“闇露店”で買っていました。大体、朝の4時から7時くらいですかね。Aさんもそこで買っていましたよ」
■“西成の闇露店”には“何か”を取引きをする人物が
2人が処方薬を入手していた、“西成の闇露店”とは何なのかー。
午前2時ごろ、大阪市西成区に向かった取材班。
到着後すぐに目撃したのは、暗がりで何かを取引きをする人物の姿でした。
【記者】「いま男性が近づいてきましたね、何か買おうとしているのでしょうか…なんか袋から取り出したな」
【カメラマン】「いや~暗すぎて無理やな」
【記者】「わかります?何やろうな」
その後も、次々と通行人がひとりの男性の元へー。
そして、午前4時半すぎ、ついにカメラはその瞬間を捉えました。
【記者】「男性がカバンからものを出そうとしています、ぼろぼろと出てきましたね。薬、薬ですかね…。何か売っていますね…いきましょう、いきましょう!」
■闇取引の実態…先発薬とジェネリック、両方の取り揃えも
男性の元へ駆け寄り、何を取引きしていたのか、話を聞きます。
【記者】「どんなんか見せてもらっていいですか?」
【露天商】「先発(薬)とジェネリックとがあるねん。ちょっと待ってな…」
露天商の男性が取り出したのはやはり“薬”、それも処方薬です。
【露天商】「まさか警察とちゃうやろうね」
【記者】「警察に見えます?」
【露天商】「見える!見えるわな~」
怪しまれた記者が、その場を一旦離れ、再び戻ると…まさに、闇取引がそこで行われていました。
【記者】「何枚買ったんですか」
【露天商】「(薬のシート)3枚」
【記者】「何を買った?」
【露天商】「睡眠薬。先発の」
【客】「そんなこと言っていいんか?」
■露天商の男性は生活保護を受給し、無料で処方された薬を販売し、利益を得ていた
どうしたらそんな薬を手に入れることができるのでしょうか。
【露天商】「生活保護を受けたらいいねん」
【記者】「薬は生活保護で無料でもらっている?」
【露天商】「生活保護でもらっている。生活保護(受給者)は無料でもらえる」
【記者】「では一枚1000円だったら利益は1000円?」
【露天商】「そうやな。こうやって生活保護を受けて薬もらって、売れたら1000円利益やもんな」
なんと露天商の男性は、生活保護を受けて無料で処方された薬を販売し、金を得ていたのです。
手に入りづらい薬が入手できることから、若者の間では知られているというこの場所。小坂被告もここへ何度も通い、オーバードーズに手を染めていたのです。
14日の裁判で、懲役2年4カ月の実刑判決を言い渡された小坂被告。
取材の最後、記者にこう言い放ちました。
【小坂光被告】「どんな判決でも受け入れ、控訴しません。刑期を全うしたら、オーバードーズを止める側になりたい」
■「とんでもない詐欺」京大・藤井教授 マイナンバーでの情報管理が有効か
この問題をどう解決すればいいのでしょうか。
犯罪心理学などが専門の筑波大学の原田隆之教授によると、「医薬品の乱用対策として、マイナンバーでの情報管理が有効ではないか」ということです。
【京都大学大学院 藤井聡教授】「今回出てきてる方、それぞれ悪いわけですけど、僕はこの中で最も社会的責任を問われるべきは、(生活保護受給者の)バイヤーにタダで薬を大量に配っている(処方している)医師だと思いますね。何の責任でそれを配ってるんだと。
この人にこれだけの薬がいると本当に思って配ってるわけではなくて、それをタダで配って、タダで配ったら、その配った分のお金(医療費)の10割が皆さんの税金による政府からその医者に払われてるわけですよ。これはとんでもない詐欺だと思うんです」
必要のない薬を処方しないことが大切です。また、若者の孤独・孤立・ストレスが、オーバードーズを引き起こす原因になっている側面もあるので、しっかりと対策を講じる必要があります。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年11月14日放送)