県内に広がる「冬の味覚」カキの死滅。
手探りでも一歩を踏み出そうとする生産者の思いに「ツイセキ」します。

早朝、呉市音戸町のかき筏です。

【五十川記者】
「ここから見ても水揚げされた瞬間からパカンと口が開いたようなものがいくつもあるのが確認できます。身が入っていない…」

先月20日に今シーズンの出荷が始まってから、呉市音戸町の生産者は全体の9割ほどのカキの死滅に悩まされています。

【音戸海産・栗原単さん】
「深刻ですね。今までのカキの中で一番だと思います」

県によると、呉市から東広島市安芸津町にかけて深刻な状況が起きているということです。

【約60年間携わる 音戸海産・栗原富士雄さん】
「生きた心地がしません。残念です。海の中へ入れないとカキにならないので、その海がいつ回復するか、いつ力を再生できるかが分からないので、二重三重の不安が押し寄せますよね」

調べたところ、県の水産海洋技術センターは、夏以降続いた海の高水温と高塩分でカキが弱ったとみられるとの見方を示しています。

【県水産海洋技術センター水産研究部・永井崇裕部長】
「(過去に)ここまでのへい死はないのでびっくりしているような状況ですね。2つのストレスが長期間続いたことで生き物として生理的に不調が生じた」

そもそも広島県で養殖されている「マガキ」は、海の筏ではなく比較的塩分濃度が低い川の近くの干潟で育っていたルーツも関係したのではないかと指摘します。

【県水産海洋技術センター水産研究部・永井崇裕部長】
「県西部の海域は太田川があって水量が多くて(塩分が)薄まりやすい。中部海域は比較的大きな川が少なく8月雨量も多くなかった。(気温も)海の生物は陸上の生物より影響を強くうける。陸上1℃上昇が海でいくと4倍」

今までにない事態に、生産者の栗原さんも動き出しました。

【音戸海産・栗原単さん】
「自分で海の環境をちゃんと見ないとカキはできないので、海の環境、ちゃんと原因が分からないということで僕も微力ながらやっています」

死滅が目立つようになった先月上旬から継続的に海水のサンプルをとるようになりました。海の異変に今まで以上に目を光らせます。

【音戸海産・栗原単さん】
「これは海が赤くなっていたので、11月11日真っ赤な海だったんですよ」
Q:これは海からとったんですか?
「そうなんですよなんでやろうかねと思って」

直接の因果関係は今のところ不明ですが、サンプルを増やし専門家に分析してもらいたいと考えています。
多くが死滅してしまった一方、生き残ったカキは冷え込みが増すと共にだんだん身を太らせてきました。

【音戸海産・栗原単さん】
「今はこんな感じです。味は全然変わっていなくて例年より味が濃いくなりそうな雰囲気はあります」

すぐさま現状を打開する一手は見つかりませんが、一刻も早く海が元の状態に近づくことを願うしかありません。

【音戸海産・栗原単さん】
「なくなってしまうともう戻ってこれないと思うんです。音戸のみんなと仕事を助け合ってやってきたんで、できるだけみんなで守っていきたいという気持ちが僕はすごく強いです」

【スタジオ】
高水温と高塩分以外に原因がまだはっきりしていませんが、呉市の生産者の皆さんは今日、資金繰りの補助などを求めた要望書を市に提出したということです。
カキの生産者は、年末年始にかけて資材の支払いなどを控え、今回のこの大量死によって支払いができないなどの声も上がり、事業の継続への不安が広がっています。

そして、気になる食卓への影響ですが、県内のある水産加工会社によりますと、生産者からの仕入れ価格が例年と比べると2割から3割ほど上がっている。
また、入荷量自体も半分ほどだということで、需要が高まってくる年末になると販売価格も上がる可能性があるということです。

待ったなしの課題です。
今後どうなっていくのか注視していく必要があります。

テレビ新広島
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