「やってみてすごく楽しくて、なんか明日腕が痛くなりそう」。福島県喜多方市塩川町の公民館で開かれたeスポーツイベントに参加した72歳の五十嵐ミイ子さんは、笑顔でそう語った。初めてのeスポーツ体験が高齢者たちに生み出したのは、単なる娯楽以上の価値だった。
■「幸せホルモン」がもたらす健康効果
「オキシトシン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。脳内で分泌されるこのホルモンは「幸せホルモン」や「絆ホルモン」とも呼ばれている。人とのポジティブな関わりで生まれる幸福感や心の健康に欠かせない存在だ。そしてeスポーツが、この「幸せホルモン」を生み出す効果があるという。
筑波大学の松井崇准教授は、高齢者が抱えやすい問題について警鐘を鳴らす。「孤独というのが、特に高齢者の間で不健康のリスクとして非常に大きなものがある。これは運動不足とか過度な飲酒や喫煙よりも、非常に大きなものがあるというのが研究でわかってきています」
松井准教授によれば、孤独感を解消するために必要なのが「社会参加」だ。人と直接的な関わりを持つことで「オキシトシン」が分泌される。通常、身近な社会参加として「スポーツ」も効果的だが、ケガや持病、体力に自信がない高齢者にとって、体を動かすことはハードルが高い。
「そこでeスポーツというのが非常に役立つ。年代も性別も超えて、障害の有無もできれば超えて、絆をはぐくむことができる。それが個人のメンタルヘルスや認知機能を高めるということ、そのメカニズムとしては絆ホルモン、オキシトシンが分泌、eスポーツならではの反応がある」と松井准教授は説明する。
■地域交流のきっかけに
喜多方市のeスポーツイベントを企画したのは、地域おこし協力隊の栗林拓哉さん。高齢者同士はもちろん、若い世代との交流を深めるきっかけとしてeスポーツに着目した。
「交流を通じてにぎやかさを地域に取り戻そうと思ってイベントを進めた。人を誘ってeスポーツをやってくれていて、eスポーツのハードルの低さがわかった」と手応えを語る。
参加した80歳の斎藤文子さんも「頭の回転がよくなるんじゃないですか?指先動かすってことはいいので、あとは考えながらできるので良いかなと思います」と前向きな感想を述べた。
■全国に広がる高齢者eスポーツの輪
こうした取り組みは全国各地で広がりを見せている。秋田県には平均60歳以上の「マタギスナイパーズ」というeスポーツチームが活動。大阪関西万博では最高齢94歳が参加した「Geeスポーツ大会」も開催された。世代を超えた交流の場としてeスポーツの可能性が広がっている。
■依存症には注意が必要
しかし、留意すべき点もある。松井准教授によると、ゲームは「体を動かさず、脳だけを活発に動かすので疲れを感じにくい」という特性がある。そのため熱中しすぎて依存しやすくなるリスクがあり、適度に楽しむことが大切だ。
この問題に対処するため、脳疲労を把握する技術開発も進んでいる。松井准教授は「目の動きや、サーモグラフィーで顔や手の温度をはかっていくと、自分では気づきにくい、いわゆる”隠れ脳疲労”を精度よく検知できる技術も開発している」と説明する。
「私たちの疲労の検知や、体の状態を検知する技術の進化もあわせていくことで、eスポーツは本当の意味でウェルビーイングを促進してくれるようなコンテンツになっていくのではないかと思っています」
様々な人が、様々な角度からeスポーツを盛り上げようとしている。あなたもeスポーツで世代を超えた交流をしてみませんか?