東京五輪で急増も!? 意外と怖い「はしか」の症状

2020年東京オリンピックまでちょうど1年前となる7月24日。

今週、東京五輪に向けた社会実験が行われるなど準備が進められているが、開催時には訪日外国人観光客も輪をかけて増える中で、知っておいてほしいことの1つが、海外から流入した病原菌で感染症が広がる可能性だ。

中でも最近、私たちもよく知る「はしか(麻しん)」が、世界で猛威となっているのをご存じだろうか。厚生労働省によると、はしかは「麻しんウイルス」による急性の全身感染症。高熱と発疹の発症が特徴で、肺炎や中耳炎、脳炎などを引き起こす可能性もあるという。

日本では「子どもがかかる病気」というイメージもあるが、大人の感染者も多い。WHO(世界保健機関)の統計では、全世界の感染者数は増加傾向にあり、2017年の約17万人に対し、2018年は約33万人に増加。2019年も7月時点で約27万人の感染が確認されている。

日本は「排除状態」になったけど...

日本では2001年、推計感染者数が約20万人以上といわれる大流行が発生。2007年~2008年にも若者らに流行するなど、かつては感染者が多い国の一つだった。

しかし、厚生労働省が予防接種の拡充や把握体制の整備などを推進したことで、近年は感染者数が減少傾向に。国立感染症研究所の統計によると、2015年は35件、2016年は165件、2017年は186件、2018年は282件と落ち着いていた。感染源も海外から持ち込まれた病原菌によるもので、2015年にはWHOから「排除状態」とも認定されている。

はしかの感染者数の推移(提供:国立感染症研究所)

それでは、日本はもう安全と思いたくなるがそうではない。2019年になって、はしかの感染者が急増しているのだ。国立感染症研究所の統計では、7月10日現在で654件の感染が確認されていて、2018年間の282件を早くも上回っている。

2019年にはしかが流行した、ウクライナやマダガスカルなどでは、感染が数百・数千件単位から数万件に急増したケースもある。
こうしたことから東京五輪で感染が広がってしまう可能性も想定しておかなければいけない。

感染を防ぐため、私たちができることはあるのだろうか。発症したら、どう行動すればよいのだろう。はしかの感染防止に向けた提言も行う、東京都医師会に話を伺った。

感染症の中でも感染力“最強”

――はしか(麻しん)にかかるとどんな症状が出る?

最初は「カタル症状」と呼ばれる、一般的な風邪と似た症状が出ます。その後に38℃以上の高熱が出て、1~2日で一度37℃前後まで下がりますが、この時期、口内(頬の内側)の粘膜に「コプリック斑」と呼ばれる粘膜疹が出現します。

それから半日程度経つと、再び高熱が出ると同時に、全身に発疹が出現します。この発疹は1~2日で全身に広がり、自然消退しますが色素沈着を残します。症状の全経過は1週間程度ですが、特記したいのは感染力が極めて強いこと。感染症の中でも最強です。

感染力の強さは「基本再生産数」(集団において、感染者1人による二次感染者数の平均値)で測れます。高いほど感染力が強いのですが、インフルエンザが1.5のところ、麻しんは16~21もあります。風しん(7~9)や水痘(8~10)と比べても高いです。


――海外に比べると、日本は感染者数が少ないように感じる。この違いはなぜ?

日本では、約40年前から「麻しんワクチン」の定期接種が勧められてきました。
2007~8年には大学生を中心に感染が流行しましたが、その後は5年間をかけて、中学生・高校生に相当する年齢の若者へ、公費による追加接種も行われました。これらの取り組みが感染者数の少なさにつながっていると考えられます。

――そんな日本も、2019年は感染者が増えているが?

麻しんの免疫は、麻しんワクチンを1回接種すると93~95%以上、2回接種すると97~99%の確率で獲得できます。1回の接種では、十分な免疫が得られない人がいること、接種後に数年経つと抗体価(ウイルス対する抗体の強さ)が弱くなり、感染を阻止できない可能性も出ることから、現在は2回の定期接種が行われています。

ですが2019年現在、30歳以上の世代(1990年4月2日以降の出生)は、麻しんワクチンを接種する機会が1回以下しかありませんでした。これが2019年の感染者増に関わっていると考えられます。統計データでも、過去に流行した2007年に比べ、2019年は感染者の年齢層が高くなっています。

はしかの症状(画像はイメージ)

30歳以下の世代は、麻しんワクチンを2回接種する機会があり、また高齢世代では、過去の自然感染で免疫を持っている可能性が高い。しかしその狭間にある世代では、自然感染をせず、麻しんワクチンの接種も1回以下であることから、ウイルスに対抗できるだけの免疫がない可能性もあるという。それでは、もしも感染したらどう行動すればよいのだろう。

0歳児と30歳以上の“狭間世代”は注意

――東京五輪で感染拡大の可能性はある?対処法は?

東京オリンピック・パラリンピックで感染が広がる可能性はあります。空港や競技場、場外の応援施設など、多数の人間が集まる場では特に注意が必要です。日本人で感染する可能性があるのは、0歳児または30歳以上の世代で、麻しんワクチンを接種していないか接種が1回のみの場合です。

対処法ですが、成人は麻しんワクチンの接種が最大の予防策となりますが、0歳児の場合、6カ月未満の赤ちゃんは接種を受けられません。また、6カ月~1歳の誕生日前の乳児は、予防接種は受けられますが自費となります。幼児は五輪期間中、混雑する場所に連れ出すのを控えるのも予防となるでしょう。


――もしも感染したら、どうすれば良い?

麻しんに特効薬はありません。高熱なら解熱剤、咳が出たら鎮咳・去痰剤というように、対症的に治療するしかありません。感染が疑われるときには、慌てずに医療機関に電話を入れ、指定された時間に受診してください。これは、他の患者に麻しんをうつさないため極めて重要です。インフルエンザのような、迅速検査(5~10分で感染が分かる検査)はないため、「一刻も早く受診」とは考えなくても大丈夫です。


混雑する場所に連れ出さないのも大切という(画像はイメージ)

早めのワクチン接種が大切

――はしか対策における、課題・問題点はある?

患者も医療機関も、麻しんが流行する可能性を意識しておくことが必要でしょう。
現状、麻しんに対するワクチンは「麻しん・風しん混合ワクチン」しかなく、これは小児の定期接種に使われています。接種も乳幼児が優先されるため、希望する成人全てが接種できる分の数量は用意されていません。したがって、抗体検査を受け、免疫がないと判定された人だけに接種することが勧められています。

そして、抗体検査の結果が出るまでには、3日から1週間程度かかり、麻しんワクチンを接種しても抗体価が十分上昇するまでには、約2週間かかります。抗体検査やワクチン効果が現れるまでの日数を考慮すると、予防対策は今から始めるべきでしょう。東京五輪の直前に慌てて医療機関を受診しても、大会期間に十分な効果は得られません。


――はしか以外にも、感染拡大が懸念される病気や感染症はある?

海外から感染症が持ち込まれる可能性はありますし、逆に、日本国内で夏に流行する疾患(ヘルパンギーナや手足口病など)を訪日客が発症する可能性もあります。

日本人の抗体保有率が諸外国より低い感染症には、「髄膜炎菌感染」が挙げられます。この疾患は「髄膜炎菌」という細菌による全身感染症です。高熱で発症し、髄膜炎だけではなく、重症例では四肢の壊疽など、生命に関わる重篤な合併症も起こします。重症例では、発症から24時間以内に死に至ることもあるので注意が必要です。この予防ワクチンも日本国内で接種できるので、覚えておくと良いでしょう。


抗体検査を受け、必要ならワクチンの接種を(画像はイメージ)

世界中から多くの人が集まる東京五輪期間中は想定外のことが起こることも考えられる。
すでに観戦チケットが当たっている人も、観戦するつもりが感染しないように、事前に医療機関で抗体検査を受け、必要と判定されたらワクチンを接種するようにしてほしい。

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