東京オリンピック・パラリンピック期間には、インバウンドを含めた観光客が急増する。そのため、首都圏の公共交通機関がさらに混雑し、交通渋滞が多く発生することが懸念されている。

そんな状況でこそ活用できるのではないかと、注目を集めているのがシェアサイクル。街中に置かれた自転車を、リーズナブルな価格で借りられるサービスだ。レンタカーより借りやすく、渋滞に左右されないため、観光客需要は高いと見られている。

その一方で、シェアサイクル利用でのマナー違反や事故もすでに散見されている。

では、東京五輪期間中に活用するには、どのような対策が必要とされるのか、自転車活用推進研究会理事長の小林成基さんに聞いた。

image
image
この記事の画像(6枚)

「シェアサイクル」はヨーロッパ生まれのサービス

――外国人観光客の自転車マナーが不安視されていますが、海外のシェアサイクル事情はどうでしょうか?

海外は日本より進んでいます。シェアサイクルの歴史を振り返ると、その起源は1960年代のオランダです。日本でも1970年代から各自治体が乗り出しましたが、ことごとく失敗してきました。

初めて長続きしたサービスは、1998年頃にドイツで誕生した「コール・ア・バイク」。世界で初めて携帯電話と暗証番号を用いたシステムを導入し、2001年頃にはIC化され、自転車の個体管理と利用者の個人認証が容易になったのです。

――シェアサイクルは、ヨーロッパ発信のサービスだったんですね。

その後、日本では、2009年に環境省が4つの都市でシェアサイクルの実験を行いました。唯一の成功例が、現在も続いている札幌の「ポロクル」。他の3都市は続きませんでした。

そして、2012年にNTTドコモがシェアサイクル事業をスタートさせ、自治体と連携してサービスを進めました。近年は、ソフトバンクなども参入してきています。

――ここ数年、都内でシェアサイクルを見かける機会が増えたのは、サービス自体が増えているからなんですね?

そもそも日本でシェアサイクルの普及に時間がかかった理由の1つは、損害賠償責任保険の加入者が少なかったからです。現在は、ほとんどのシェアサイクルで、乗っている間だけ保険に加入できるサービスを用意しています。

東京オリンピックでは、世界中に日本のシェアサイクルを見せたいでしょうから、ますます活発化すると思いますよ。

「シェアサイクルの普及は海外の方が進んでいますが、電動アシスト自転車の導入は東京が一番早かったんです。その理由は、世界の大都市の中でも、東京は特に細かな山坂が多いから。現在は、海外でも電動アシスト自転車が取り入れられていますよ」(小林成基さん)
「シェアサイクルの普及は海外の方が進んでいますが、電動アシスト自転車の導入は東京が一番早かったんです。その理由は、世界の大都市の中でも、東京は特に細かな山坂が多いから。現在は、海外でも電動アシスト自転車が取り入れられていますよ」(小林成基さん)

日本人こそ知るべき「歩道通行」のマナー

――シェアサイクルが増えると、比例して自転車での事故も増えてしまいそうですが…?

実は、外国人観光客が自転車で事故を起こすケースはほとんどありません。そもそも観光客は時間に追われていないので、危険な運転をすることが少ないですね。世界的に見ても、交通事故のほとんどは自宅の500m以内で発生している、という統計が出ています。

むしろ危険なのは、自転車を利用した配達サービスです。配達時間に間に合わせるため、すごい勢いで車や人の間を走っていくので、接触事故が起こりやすいんです。


――外国人観光客の事故が多いという印象は、ニュースに取り上げられやすいからでしょうか?

それもあるでしょうね。日本人からすると、外国人観光客はマナーが悪いという印象が強いかもしれませんが、むしろ日本が世界のスタンダードとズレていると言えます。

自転車に関するルールのほとんどは世界共通ですが、日本では1970年に道路交通法が改正され、歩道の通行が認められました。そんな背景があり、現在でも「普通自転車歩道通行可」の標識がある歩道での通行は認められていますが、徐行(ただちに停止できる速度)しなくてはいけません。しかし、実際に今でも、歩道を走る自転車を多く見かけますよね。

一方、海外のほとんどの国では歩道での通行を禁止していて、ヨーロッパではほとんどの道で自転車専用レーンを設けています。しかし、外国人観光客が日本でシェアサイクルを利用する際は、標識などを認識せず、日本人の振る舞いを見て「歩道を走っていい」と誤解してしまうこともあります。

日本の道路交通法では、「自転車で歩道を通る時は徐行しなさい」と定めていることを、まずは日本人が知って、実践しないといけないでしょうね。

自転車のマナーを周知するため、都内では自転車ナビマークやナビラインが増えています。自転車が通行する部分や方向を示すもので、2019年度が終わる時点で、都道の約1500km分は表示されるようです。

道路に目印があれば、言葉が通じなくてもひと目で理解できるので、外国人観光客に対しても親切ですよね。

自転車に乗ったシルエットの自転車ナビマークや、青い矢印で通行場所を示す自転車ナビラインが都内の車道に導入され始めている
自転車に乗ったシルエットの自転車ナビマークや、青い矢印で通行場所を示す自転車ナビラインが都内の車道に導入され始めている

インバウンド増加に伴いシェアサイクル利用者も増加

――シェアサイクルが増えて、自転車ナビマークがつけば、東京五輪の時にはかなり活用されそうですね?

シェアサイクルが普及しているイギリスでも、ロンドン五輪の時には、車や自転車が会場付近には入れなかったんです。会場に行ける乗り物は電車や地下鉄、バスだけと制限がかかったので、東京五輪でも同じように規制されるでしょうね。

とはいえ、首都圏、特に都心部の交通量は激増して不便になるので、観戦以外の観光にはシェアサイクルが重宝されると思います。ロンドン五輪の時も、観光地に行く際にシェアサイクルが活用されていましたから。


――活用してもらうためにも、都内の道路の整備を整えて、気持ちよくシェアサイクルが使える都市になるといいですよね?

そうですね。シェアサイクルは世界的に当たり前のものになっているので、使えるなら使おうと考える外国人観光客は多いと思います。都市部に住む人は、今のうちから街中にシェアサイクルが走ることに免疫をつけておいた方がいいかもしれないですね。


小林さんも、「国内での認知はますます広がっていくでしょう」と話すシェアサイクル。気軽に使えるからこそマナー違反も目立つが、外国人観光客だけでなく、まず日本人にも周知することで、東京五輪期間中の貴重な交通手段となることだろう。

小林成基
NPO自転車活用推進研究会理事長。広告会社勤務、衆議院議員政策秘書、社会経済生産性本部主任研究員などを経て、自転車活用推進研究会を設立。国交省、警察庁、自治体の自転車関係会議委員を務める。
https://www.cyclists.jp/

取材・文=有竹亮介(verb)

「ミッション東京2020」特集をすべて見る!
プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。