「最後のスマホ工場」で大規模リストラ

中国広東省にある恵州サムスン電子は今月、公式サイトで従業員向けに他の中国メーカーなどの合同企業就職説明会を行うと発表した。さらに公式サイトには地元企業の紹介などが載せられており、業界では大規模リストラの予兆と捉えられている。

公式サイトに載った合同就職説明会の案内
公式サイトに載った合同就職説明会の案内
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「企業が社員のために新しい仕事を探すというのはあまりないことだ。すでにリストラ、工場閉鎖の計画を始めたということだろう」
ある部品サプライヤーの経営者は中国メディアに対して語った。このサプライヤーに対しては1年以上前から、サムスンからベトナムに移転するよう要請があったが断り、協力関係も途絶えたという。

さらに「サムスンは前からサプライヤーをベトナムやインドに移転させてきた。サムスン工場が閉鎖するのも必然のことだ」と語った。つまりサプライチェーンごと生産拠点を移転する計画を進めているというのだ。

その後も公式サイトには地元企業の採用情報がズラリ
その後も公式サイトには地元企業の採用情報がズラリ

中国メディアによると、恵州サムスン工場は1992年に設立され、1993年に正式に生産を開始した。2018年12月、サムスンは天津の工場を閉鎖し、恵州サムスン工場が中国で最後のスマートフォンの生産工場になっていた。その「最後の工場」も撤退間近との観測が出ているのだ。

シェア20%→0.8%に激減 中国スマホの台頭に大苦戦

撤退観測の背景には中国市場での苦戦ぶりがある。つい6年前の2013年、サムスンの携帯電話は中国市場でシェア20%を占め、堂々の1位だった。しかしその後、NOTE7の爆発事故による消費者離れや、ファーウェイ(華為)やシャオミ(小米)、VIVO、OPPOなど中国メーカーの技術力とブランド力が急上昇し、サムスンのシェアは急落。2018年には市場シェア0.8%まで落ちた。街中のサムスンショップも苦戦とともに徐々に姿を消していった。

NOTE7の爆発事故が相次いだ
NOTE7の爆発事故が相次いだ

また、中国国内での賃金上昇に伴い、製造コストが高くなったことも撤退の理由とみられる。
中国メディアによると、恵州での一人あたりの人件費は月に約72000円を下回ることはないが、ベトナムでは約24000円程度、インドでは32000円程度だという。「電子製品は同質化の傾向にあり、材料、設備などのコストはどこでもほぼ変わらない。企業にとっては人件費を抑えられれば、その分利益が増すことになる。企業にとっては必然的な選択だ」別のサプライヤーは語った。

最後の一押しはやはり…

米中貿易戦争の影響で、今、多くの企業が追加関税から逃れるために中国から東南アジア、南アジアへの生産移転を進めている。サムスンは今回の動きについて韓国メディアに対し、「米中間の貿易摩擦とは関係がない」とコメントしているが、中国の研究機関は米中貿易戦争の影響に伴い世界のサプライチェーンの再構築が加速していると分析した上で、サムスンや台湾の鴻海精密工業の例を挙げ、「移転の動きが顕在化している」と指摘している。サムスンの場合、製造環境の変化に対応した経営判断ともいえるが、巨大市場からほぼ駆逐されてしまったのは大きな痛手に違いない。

スマホ世界出荷台数2019年1~3月期シェア(米IDC調べ)ファーウェイが2位浮上 首位サムスンに迫る
スマホ世界出荷台数2019年1~3月期シェア(米IDC調べ)ファーウェイが2位浮上 首位サムスンに迫る

アメリカの調査会社IDCが発表した、2019年1~3月期のスマホ世界市場でのシェアによると、サムスンはトップの地位を維持しているが、市場そのものが縮小する中、上位メーカーで前年実績を上回ったのは2位に浮上したファーウェイのみで、サムスン、アップルともに出荷台数が落ち込んでいる。日本の輸出規制によって半導体製造で打撃を受ける中、スマホでも中国勢の猛追によって逆風にさらされている。

【執筆:FNN北京支局長 高橋宏朋】

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高橋宏朋
高橋宏朋

フジテレビ政治部デスク。大学卒業後、山一証券に入社。米国債ディーラーになるも入社1年目で経営破綻。フジテレビ入社後は、社会部記者、政治部記者、ニュースJAPANプログラムディレクター、FNN北京支局長などを経て現職。