かつて大水害に遭ったさ小さな集落

長崎市大田尾町の、山川河内(さんぜんごうち)地区。
この山間の集落に、30世帯が暮らしている。
あちこちに祀られている水神様やお地蔵様、観音様などにちなんだ地域の年中行事は、年間10回にも及ぶ。

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この日は、今年1月に願立てをした御願成就の日。数人1組で11ヵ所を手分けしておまいりをした。
観音様やお地蔵様にはごはんやお団子、神様にはお神酒と御餅、それに魚も欠かせない。
それぞれにお供え物にも決まりがあり、半年間無事に過ごせましたという感謝の気持ちを込めて線香を手向ける。

自治会長 山口辰秋さん:
皆さんが集まって参加していただけるというのが、山川河内の力だと思っています。

石積みの小さな祠に、馬頭観音が祀られている。
お寺の過去帳によると、地元で「逃底川」と呼ばれるこの沢筋では、江戸時代に33人が亡くなる土砂災害が起きた。
観音様は、人間だけでなく水害の犠牲となった牛や馬をも供養するために安置されている。
昭和57年(1982年)7月23日の長崎大水害でも、山川河内は土石流に見舞われ、家屋2棟が流されたが、人的被害は全くなかった。

高橋和雄 長崎大学名誉教授:
農家の人で地形を良く知っていたから対応できたのではないか。
防災と言う意識はなかったが、危ないというのは知っていたのと、信心深くて観音様を大事にしてきたことで守ってくれたというのが象徴的で、今で言えば防災の取り組みが身に染み込んでいたんでしょうね。

今年は、江戸時代 万延元年の災害から160年目にあたる。
地域にはお寺はないため、茂木のお寺から住職を招いて、御願成就のこの日、地域をあげて法要が執り行なわれた。

法要後の住職:
いつ何時 何があるかわかんというのは、この災害に遭った人達もきっと明日があると思っていたと思う。このお方たちの犠牲者の不幸をしっかり心に受け止めていただければと思います

毎月配られ続けてきたまんじゅうに「守られ」…

集落の女性:(2005年の映像)
念仏饅頭です。

山川河内では、江戸時代の水害の犠牲者を供養し、災害を忘れないようにと、14日を月命日として、各家庭が持ち回りで集落の全戸に饅頭を配る「念仏講饅頭」を去年まで欠かさず行ってきた。

しかし、花の里として昔から花の栽培が盛んだったこの地域も、時代の流れの中で会社務めの人が増え、毎月14日の饅頭配りは
負担が大きいという声が出始め、今年から ついに、年1回の自治会行事となった。

自治会長 山口辰秋さん:
これはやはり先祖から私たちは受け継いで、今までは毎月行っていたんですけど、いろいろ事情がありまして今年から年1回に。
(ある意味では新しい形でのきょうが再スタートの日ですね?)
そう思ってもらえれば幸いと思っています。子どもや孫にどう伝えていくか、それが自分たちの使命だと思っています。

高橋和雄 長崎大学名誉教授:
月1回配るというのは、僕も今は無理だと思っています。一人暮らしが増えたし勤め人が多い中で、長続きするためには、その地域で話し合って、一番いい方法を考えて適応していくというのがいいんじゃないかと。それが長続きするコツだと思います。

その念仏講まんじゅう。今年は地域の公民館で、江戸時代の災害の法要が行われた後にみんなに配布された。

集落の女性:
長崎水害の時はひどかったですもんね、あの時は。ここに夜いて水かさが増して、玄関先まで水が来た。うちに前の畑ばーってやられた。そこに水がいった。
橋が崩れたけど、うちは庭先だけで済んだ。
どこでも災害があるけど、ここは饅頭のせいかな、助けられとるとよ、って皆さんと話してる。

これからは毎年7月中旬に、自治会の行事として各家庭にまんじゅうを配り、防災対策を呼びかけていくことになる。
160回忌の法要を営んだこの日が、地域全体の安全・安心のための、山川河内地区の新たなスタートの日となった。

(テレビ長崎)

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