モノの販売ではない「モノなしマルチ商法」
モノの販売ではなく、もうけ話や投資などを持ちかける「モノなしマルチ商法」の相談が急増している。
国民生活センターが7月25日に発表したデータによると、昨年度、全国の消費生活センターに寄せられた「マルチ商法」に関する相談は1万526件で、このうち半数以上の5490件が「モノなしマルチ商法」だった。
「モノなしマルチ商法」に関する相談は、29歳以下の若者から寄せられるケースが増えていて、昨年度は2481件と、2014年の859件に比べて3倍近くになっていて、国民生活センターは若者に注意を呼びかけている。
とくに若者が狙われている「モノなしマルチ商法」とは、どのような手口で誘い出し、契約まで持ち込むのだろうか?
また、自分が当事者になった場合、どのように対処すればよいのだろうか?
“巧妙な手口”と“対処法”を国民生活センターの担当者に聞いた。
“若者の交友関係”がターゲットになっている
――「モノなしマルチ商法」という言葉は国民生活センターがつくった?
はい。
今回の公表に合わせて、つくった言葉です。
――とくに若者から「モノなしマルチ商法」に関する相談が増えている理由として考えられることは?
“若者の交友関係”がターゲットになっていると思われます。
若者は社会経験が乏しい面があり、たとえば、勧誘に対して、上手く断れないとか、勧誘されたときの注意点が分からず、そこにつけ込むかたちで狙われていると考えられます。
友人・知人から勧誘されるため、断りにくい状況に陥る
――どんな手口で誘って、契約まで持ち込む?
たとえば、20代の男性からの相談です。
この男性は、中学時代の友人から「いい話があるから会わないか」という電話があり、レストランで会ったところ、別の勧誘者も同席していて、「海外の不動産に投資をすれば仮想通貨で配当があるので、消費者金融で借金をしても埋め合わせができる。投資者を紹介すれば紹介料を受け取ることができるので、借金の返済は簡単だ」と説明を受けました。
さらに、学生だと借金できないので結婚式の費用として借りるように指示され、消費者金融4社から総額約130万円を借金して、代金を友人に手渡しました。
契約書の書面や領収書は受け取っておらず、後日、友人に解約の連絡をしたところ、半額しか返金できないと言われた、といった相談が寄せられています。
――最も多く報告されている手口は?
契約のきっかけとして最も多いのは、「友人や知人からの誘い」から始まるケースです。
学校や職場の同級生、同僚や先輩、SNS やマッチングアプリなどで知り合った人など、友人や知人から飲食に誘われ、レストランや喫茶店などで会うと、「投資」や「ビジネス」などのもうけ話を持ちかけられるケースが多くみられます。
このとき、友人・知人のほかに別の勧誘者が同席することもあり、投資家や経営者としての サクセスストーリーや、投資やビジネスで得た報酬や経験で人生が豊かになったといった話をし、「将来に不安はないのか」「一緒に投資やビジネスをすることで生活を変えられる」「今やらないと駄目だ」などと興味を持たせようとします。
また、友人・知人から勧誘されると、「今後も仲良くしたい」「断ることで関係を悪くしたくない」といった心情から契約を断りにくい状況に陥り、契約してしまうケースも多くみられます。
国民生活センターの発表によると、「マッチングアプリで知り合った男性に勧誘され、株の勉強会に入ったが、儲からない」や「カフェで知り合った人に仮想通貨のウォレットのアフィリエイトを勧誘された」などの相談事例があった。
では、もしそういう状況に陥ってしまった場合どうすればいいのか?
実態やしくみが分からないものは契約しないこと
――実際に勧誘されたとき、注意すべきことは?
注意すべきことは2つあります。
1つは「実態やしくみが分からないものは契約しないこと」、もう1つは「友人・知人だったとしても、契約をしたくなければ、きっぱり断ること」です。
――契約してしまった場合はどう対処すればよい?
特定商取引法の「訪問販売」「電話勧誘販売」「連鎖販売取引」などに該当する場合、クーリングオフが可能な場合がありますので、消費者ホットライン「188(いやや)」に電話を掛け、相談してみてください。
――お金を払ってしまった場合はどうすればよい?
こちらもクーリングオフが可能な場合がありますので、消費者ホットライン「188」に電話を掛け、相談してみてください。
国民生活センターがトラブルの増加を受けて、今回作った言葉だという「モノなしマルチ商法」。
「友人や知人から勧誘されると、断りにくい」という心情を利用した巧妙な手口が特徴だが、注意すべきは「実態やしくみが分からないものは契約しないこと」、「友人・知人だったとしても、契約をしたくなければ、きっぱり断ること」の2点で、契約してしまった場合は消費者ホットライン「188」に相談するのが正しい対処法のようだ。