自民党関係者の“予言”と「絶妙な結果」のワケ

「ほどほどの勝利」「謙虚な姿勢の記者会見」
参議院選挙を控えた7月上旬、自民党中枢にいる関係者は安倍首相の選挙後を見通し、こんな言葉を述べていた。今、その言葉は果たして、的を射ていたと言えるだろう。

投開票日翌日の朝刊各紙には、「与党改選過半数」と「改憲勢力3分の2届かず」という、自民党にとっての勝利と苦杯が交錯する見出しが躍った。

そして記者会見に臨んだ、最高指揮官たる安倍首相に笑顔はなかった。冒頭、西日本の大雨被害に触れた後は、有権者への「感謝」と信任を得たことに対する「御礼」、国づくりを進める「決意」を強調した。

 
 
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一方で、「3年前を1つ上回る絶妙の議席数」(党選対筋)は、安倍首相、そして自民党にとってはまずまずの結果と言えるのかもしれない。前述の関係者が「次の衆院選を考えれば大勝は良くない。必ず揺り戻しが来てしまうからだ」と指摘していたように、大勝が必ずしも、次の決戦にプラスとは限らないからだ。

問われる安倍首相の求心力

今回の選挙結果を受けて政権運営を続ける安倍首相にとって、最も重要なのは、政権の求心力維持と、そのために残りの任期2年の間に衆院解散カードをどう使うかだ。

今回の選挙で改憲勢力は3分の2を割り込んだ。そして衆議院の任期だけでなく、同じく残り2年余りの党総裁としての任期も着々と終わりに近づいている。「残りの任期で安倍首相は何をやりたいのか」という声すら聞こえる中、自らのレイムダック化を防ぐ最大の武器は、やはり解散カードしかないだろう。

 
 

安倍首相は今回、参院選に衆院選を重ねるダブル選挙も検討したが、最終的に見送った。解散カードを「温存」したと言える一方で、今回は「カードを切らなかった」だが、今後同様のことを繰り返せば、「切らないのでなく切れないだろう」と見透かされる恐れも秘めている。

22日の記者会見で安倍首相が述べた「今後あらゆる選択肢を排除することはない」との言葉には、その最大の武器を効果的に使いたいという本音がにじみ出ていたのかもしれない。

 
 

最大の懸案・幹事長人事

自身の求心力維持のため、安倍首相がもうひとつ心を砕かなければいけないのが人事である。複数の関係者は「最大の焦点は幹事長人事だ」と断言する。自らの後継を育成することを考え新たな人材を据えるのか、党内のバランスを重視し二階幹事長を続投させるかだ。

幹事長の周辺は「首相はすでに人事構想を始めているはずだ。人事で失敗すれば政権が終わることを首相自身よくわかっている」と解説する。

禅譲を期待しているとされる岸田政調会長は、地元の広島選挙区において、自らの派閥幹部が、首相の意向で擁立された同じ自民党の候補に議席を奪われた。

良好な関係を保つ首相に足をすくわれるとは何とも皮肉な結果だが、選挙に弱いという印象が定着してしまえば、リーダーとしての評価にも疑問符が付くことになる。岸田氏にとって、この広島での敗北はかなり大きな痛手になったはずだ。

 
 

一方の二階幹事長は決して安倍首相と近いわけではないが、早くも首相の党総裁4選に言及するなど、人事を見据えた牽制に余念がない。「二階氏の権力は幹事長にいるからこそだ」(同党関係者)との見方はすでに永田町の常識として定着しつつある。二階氏が幹事長続投に向け、今後あらゆる「くせ球」を投げてくることは間違いないだろう。

 
 

記者会見で「人事は白紙」と述べた首相の本意は、考え尽くした後の迷いの裏返しか、敢えて思考を停止している無想の境地か、すでに大枠を固めた後の余裕か。いずれにしてもその答えは9月に出てくる。

勝利ではあるけれど・・

当初、安倍首相は参院選での勝敗ラインについて非改選も含め「与党で全体の過半数」と述べていた。つまり改選124議席中、自公で53議席という極めて低い目標だ。それを今回は、自民党だけで超えるどころか、3年前の議席をも上回る57議席を獲得した。普通に考えれば、勝利と言って問題ないだろう。

 
 

ただ、自身の任期は迫り、人事は困難を極め、解散カードの効力は未知数だ。一強状態を欲しいままにしてきた安倍首相だが、自身の「終わり」を見据えて決めるべき課題は山積している。参院選の勝利は、そうした数あるハードルのひとつをクリアしたに過ぎないのかもしれない。

(フジテレビ政治部デスク 山崎文博)

山崎文博
山崎文博

FNN北京支局長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より二度目の北京支局。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。