海外放送局のニュースの最中に…

中国では、NHK国際放送をはじめ、CNN、BBCなどが視聴可能だが、中国共産党や当局にとって不都合な内容の放送が始まると、突然放送が遮断されることが知られている。

特に最近は、アメリカによる中国政府批判や香港民主派関連のニュースが多く報道されるため、かなりの頻度で遮断される。これまでは画面が突然真っ暗になり、中国在住の日本人は「ブラックアウト」などと呼んできた。しかし、2020年9月ごろから急にカラーバーが出てくるようになった。

カラーバーの上には英語で「NO SIGNAL PLEASE STAND BY (信号なし  しばらくお待ちください)」との表記と、中国語で「信号异常 马上回来(信号異常  すぐに戻ります)」の文字が表示される。

突然現れる「信号異常」の文字
突然現れる「信号異常」の文字
この記事の画像(9枚)

香港の民主派や台湾の蔡英文総統が画面に現れた瞬間など、あまりにもわかりやすいタイミングで画面が切り替わるため、技術的な信号異常などではなく、人為的に放送を遮断していることが見え見えなのだ。信号に異常が発生しているという意味ではウソではないが、当然当局による説明などは一切ない。

中国的「NGニュース」その内容

放送遮断は頻繁に起こるため、中国在住の外国人にとってはもはや日常の一部になっている。しかし、実際にどのように行われているのかは実はよくわかっていない。

中国では、NHKの放送は日本よりも30秒ほど遅れて放送されており、恐らく検閲担当者が絶えずモニターし、問題がありそうな内容であればその約30秒の間に遮断するかどうかの判断をしているようだ。この担当者の反応速度の違いによってなのか、中国当局にとって不都合なニュース項目が始まる前に遮断されることもあれば、“映してはならないもの”が数秒から数十秒に渡って放送されてしまうこともある。

中国にとってNGな内容とは、概ね以下のような内容だ。

・中国共産党や政府批判
・香港の民主派の主張やデモ活動
・台湾当局による中国批判
・ウイグル族、チベット族など少数民族問題、宗教問題
・中国当局を批判する人権派弁護士や活動家
・国内の権利保護運動
・アメリカなど外国政府による中国批判
・中国共産党内での政局、派閥争い

などである。

しかし、これらの問題に対する中国政府による反論は放送しなければならないので、遮断されていた放送が急に復活し、中国政府の主張だけが放送され、再び遮断されるということもしょっちゅうである。そうしたタイミングからは、検閲担当者が慌ててON、OFFを切り替えている様子が伝わってくる。

習近平国家主席が国内向けに成果をアピール(3月15日放送のNHKニュースより)
習近平国家主席が国内向けに成果をアピール(3月15日放送のNHKニュースより)
星条旗が現れ「一方でアメリカは中国に対する批判…」というコメントが流れた瞬間に…
星条旗が現れ「一方でアメリカは中国に対する批判…」というコメントが流れた瞬間に…
突然、画面が真っ黒に。中国が外国政府からの批判に晒されているという内容は放送NG
突然、画面が真っ黒に。中国が外国政府からの批判に晒されているという内容は放送NG

謎の“海外有識者”が次々と登場し中国を称賛

中国ではネットも、グーグル、フェイスブック、ツイッターなどへのアクセスが規制されていることは良く知られている。

ネット規制を逃れるVPN(仮想プライベートネットワーク)を許可なく使うことは違法だが、事実上黙認されている。しかし、VPNそのものが繋がりづらくされている上、速度が遅くなるため、外国サイトの閲覧には時間がかかる。

言語の壁もあるため、多くの中国人にとってはアクセスが容易で、かつ、WeChatなど中国アプリとの相性が良い中国仕様の国内サイトさえ見ていれば生活に支障はない。中国当局としては、外国情報の完全な遮断は難しいことはわかっており、情報へのアクセスを絞ることに力点を置いているように見える。一方で、国内サイトを通じて体制側の主張を大量に宣伝し、都合の悪い情報をかき消すのだ。

例えば、香港の国家安全維持法をめぐっては、民主派の声や海外からの中国批判には蓋をして報じない。にもかかわらず、国営の中国中央テレビでは「国家安全法は大多数の香港市民にとっては歓迎すべきことだ」「社会秩序が回復した」などといった香港の親中派による歓迎の声が、連日繰り返し放送されていた。

「国安法は香港の長期安定を保障する」と香港各界の“歓迎”ぶりを報じるニュース
「国安法は香港の長期安定を保障する」と香港各界の“歓迎”ぶりを報じるニュース
全人代の香港代表「私は国安法立法を完全に支持する」 このような親中派が何人も登場する
全人代の香港代表「私は国安法立法を完全に支持する」 このような親中派が何人も登場する

また、「海外の有識者も国家安全法を評価している」として、アフリカや中東などの中国政府寄りの学者や謎の肩書の“有識者”が次々と出演する。

謎の“有識者”たちは、「中国の行動は合法的であり、国際社会は支持すべきだ」とか、「外国政府は中国内政に干渉すべきではない」などと中国政府の主張に沿ったコメントをする。そして、それが連日のように放送されているのだ。

タンザニア公平競争委員会主席・ダルエスサラーム大学中国研究センター主任「(国安法は)香港の正常な運営のためのものだ」などとコメント
タンザニア公平競争委員会主席・ダルエスサラーム大学中国研究センター主任「(国安法は)香港の正常な運営のためのものだ」などとコメント

一般の中国人も政府の宣伝であることは理解しており、こういった内容の放送を100%信用しているわけではない。ただ、少なくとも民主派が具体的にどのような主張をしており、外国政府からどのような批判を受けているのかは、能動的に調べない限り正確に知る機会は非常に限られる。

ベネズエラ中国問題研究センター研究員「香港の暴力活動は外部勢力と結託している」など、中国政府の見解通りのコメントをする“海外有識者”が次々登場する
ベネズエラ中国問題研究センター研究員「香港の暴力活動は外部勢力と結託している」など、中国政府の見解通りのコメントをする“海外有識者”が次々登場する

香港デモは「封殺」アメリカデモは「積極報道」の二重基準

中国では、香港民主派のデモ映像は一切放送されない一方で、アメリカで起きている黒人への人種差別をめぐるデモや暴動、アメリカで新型コロナウイルス患者の増加に歯止めがかからないニュースなどは繰り返し報じられている。

香港の“暴乱”やコロナを抑え込み、中国社会が“安定”を実現したのに対し、アメリカ社会の“混乱ぶり”を比較し、「共産党による統治の方がより優れている」とのイメージを強調する狙いとみられる。

放送遮断やネット規制、当局による宣伝など、かなり露骨な言論統制ではあるが、政府にとって都合の悪い事柄から大部分の国民の関心をそらすという面では、一定の“成果”を上げているとも言える。しかし、14億人の人口がいるこの国では、それでも隙をついて外の情報にアクセスする中国人も多い。終わりのないイタチごっこが繰り広げられているのである。

【執筆:FNN北京支局長 高橋宏朋】

高橋宏朋
高橋宏朋

フジテレビ政治部デスク。大学卒業後、山一証券に入社。米国債ディーラーになるも入社1年目で経営破綻。フジテレビ入社後は、社会部記者、政治部記者、ニュースJAPANプログラムディレクター、FNN北京支局長などを経て現職。