カキ生産量全国トップの広島県で、漁業者らが“劣等感”を抱いてきた課題がある。
海面に散乱する白い破片。その正体は、養殖用いかだを支える「フロート」だ。劣化や破損によるごみの発生を防ぐため、環境に配慮した“次世代フロート”の実証事業が始まっている。
海に浮かぶ「白いごみ」の正体は…
「白いおがくずのようなものが海に浮いていますが、すべてフロートの破片なんです」
そう話すのは、広島市南区宇品の桟橋を取材したテレビ新広島・辰已麗キャスター。細かい破片だけでなく、フロートの原型を残す大きなごみも漂着していた。

「フロート」とは、カキ養殖用いかだを海に浮かせるための“浮き”のこと。円柱型の大きな発泡スチロールが広島県内に30万個以上設置されている。紫外線や波の影響で劣化し破損して流出すると、瀬戸内海における海洋ごみの一因になっていた。
耐用年数2倍!劣化しにくいフロートへ
この問題に対応するため、日本財団は広島県漁業協同組合連合会と連携し、耐久性と管理性能を高めた新型フロートを開発。7月15日、広島市の似島沖で実証事業の第一歩として、新型フロートの取り替え作業が行われた。

従来のフロートは約3年で劣化するが、新型は約7年半の使用が可能。漁業者が約15~18カ月かけて行うカキの養殖工程を約5巡できる計算になる。これにより、広島県のカキ養殖業者全体で年間約5000万円のコスト削減も見込まれている。

新型フロートは「高密度発泡スチロール製」。密度を高めることで、長期間の使用に耐えられるよう設計されている。また、外側のカバーには温度変化に強く、劣化しにくい新素材を採用。フロートのダメージを軽減し、破片の散乱を防ぐつくりとなっている。
ICタグで個体管理 「流出」防ぐ
今回の実証事業の目玉は、ICタグを活用した管理システムの導入だ。

フロートにICタグを埋め込むことで、フロートの使用数や経過期間を漁業者が把握しやすくなり、適切な交換時期の見極めが可能に。また、端末で簡単に管理できるため、流れ出たフロートが放置されることも防げる。

フロートによる海洋ごみに“心を痛めていた”という広島県漁業協同組合連合会・米田輝隆会長。
「浜へ行けば必ずゴミがある。それをどう回収するか、いつも劣等感に覆われていました。今回の導入で、我々も変わらなければいけない」
2025年度は県内30組合のカキ養殖業者と協同し、30基のいかだにあわせて約1000個の新型フロートを取り付け予定。機能性や耐久性をモニタリングし、効果を検証していく。
日本財団・海野光行常務理事は「漁業者の皆さんが自発的に変わろうとしている気持ちが伝わってきました。フロートの交換作業をできるだけスムーズに、流出しないような形でサポートしていきたい」と意気込む。
新型フロートの導入は“海を守る養殖”への新たな一歩。全国に先駆けたモデルづくりが、瀬戸内から動き出した。
(テレビ新広島)