駅の床などにある黄色い「点字ブロック」が、目の不自由な方のためにあるということは多くの人が知っているだろう。
しかし、点字ブロックだけでは行く先に何があるか分からない。
文字で書かれた「○○線」「○○出口」などの案内は至る所にあるが、視覚障害者はどうすればいのか…

そんな問題を解消する技術が実現への一歩を踏み出した。

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石川県金沢市と金沢工業大は、点字ブロックとAI技術を利用する視覚障がい者向け歩行サポートシステムの実証実験を1月12日から2日間にわたって行った。
点字ブロックに付けた黒い丸や三角形の印をカメラで読み取り、音声でその場に適した道案内をするというもので、金沢工業大ではGPSでは困難な細かい精度での案内情報の提供が可能だとしている。

点字ブロックは、正しくは「視覚障害者誘導用ブロック」といい、点状の突起が付いた警告ブロックと、線状の突起がある誘導ブロックの2種類がある。

今回の実験は、点状の突起に印を付けた警告ブロック状のシートを床に設置して実施した。
カメラは白杖かウエストバッグに取り付け、参加者はさらに音声を伝える骨伝導ヘッドホン、スティックコンピューター、モバイルバッテリーなどを身に着ける。

今回の実証実験は、当初12日のみを予定していたが希望者が増えたため急遽もう1日増やし、2日間で合計8人の視覚障がい者と、4人の外国人、5人の健常者が参加して行われた。

AI技術活用というが、どんなシステムなのか?そして実証実験の結果はどうだったのか?
金沢工業大学の松井くにお教授にうかがった。

1つの点字ブロックで3000万パターンの表現

――点字ブロックの印とは? それをどう使う?

いわゆる点字ブロックはJIS規格で定められていて、普通は5×5の25個の点(突起)があります。
その点を塗りつぶしていろんなパターンを作ると、2の25乗分なので3000万種類ぐらいできます。
要するに、1つの点字ブロックで、3000万のパターンを表現できるということです。
そのパターンごとに、あらかじめ用意した音声メッセージを流すという仕組みになっています。

――点字ブロックを読み取るカメラはどんなもの?

カメラは普通のWEBカメラで、白杖もしくはウェストポーチに着けます。
それが小さな「スティックコンピューター」につながっていて、床面を撮影しながら点字ブロックを認識します。


――AIはどこに使われている?

AIは2つの活用法があり、まず1つ目は点字ブロックの読み取りです。
点字ブロックは、例えば昼夜で明るさが違ったり、汚れが付いたり、いろいろな条件があるので、いわゆる画像認識で学習させて読み取りを行います。
もう1つは、まだ実現していないんですが、例えば災害が起きたときに音声メッセージを避難情報に代えるなど、状況によってメッセージ変えることに活用することを考えています。
将来的には災害時の誘導、もしくはポケモンGOみたいなこともできますね。


――道案内音声の特徴は?

カメラで撮影した点字ブロックが、例えば4番のパターンだったとすると、4番に関する音声メッセージが流れます。
また点字ブロックの中にある三角形を読み取ることで、方向性を考慮することができます。
例えば、JR金沢駅の方から来た場合は「左手に北陸鉄道の改札口があります」というメッセージを流し、逆に北陸鉄道側から来た場合は「右手側がJRです」と、4方向それぞれにメッセージを変えることができます。
音声メッセージは、今回の実証実験ではスティックコンピューターの中に保存してありますが、将来的にはサーバーから送信することを考えています。

現時点では、歩行中の点字ブロック認識は難しい

1つの点字ブロックで3000万パターン表現でき、その読み取りにAIを活用しているというが、実証実験では課題も見つかったという。

――道案内の音声メッセージはうまくいった?

点字ブロックは一旦歩行を停止して周囲の情報を確認するため、一箇所に複数個の点字ブロックを配置しました。
現時点では、歩行中のカメラ画像では印をつけた点字ブロックの認識が難しいため、素早く通り過ぎると認識できずに音声案内が出ない場合があります。


――参加者からは、どんな感想が出たの?

【利点について】
・自身の見えない場所などをアナウンスしてくれるシステムは非常に便利
・案内自体は非常に助かる
・寒い時でも手袋をはめながら使えるのは利点

【希望・要望】
・歩いているときに案内してほしい
・周囲の雑音から、音が聞こえづらい
・音声再生のスピードは切り替えができるようにしてほしい


――実験で気づいたことは?

トイレの男女別や休憩所の有無が分かったなどの感想を聞くことができ、視覚障がい者の立場に立った情報提供の必要性を改めて感じました。


――スマホのカメラと音声を使った視覚障がい者向け歩行サポートシステムもあるが、こちらの仕組みのメリットは?

コンセプトは近いと思います。
ただ、スマホと白杖だと両手を使うことと、方向性の認識の有無は異なる点だと思います。


――今後はどんな展開を考えている?

構想自体は社会的に意義があるものという確信を得ましたが、機器の実用性はまだまだ改良の余地が残っていまする。
障がい者のみのサービスではなく、健常者や外国人観光客なども、また平常時だけでなく災害時も、同じものを異なる用途で使えるようなサービスを作っていきたいと思っています。


この実験は、金沢市が2018年10月に策定した「金沢市新産業創出ビジョン」の一環で行われたという。
研究チームは、障がい者のみならず、外国人や観光客に対しても案内情報の提供を可能にするシステムの研究開発を目指すとしている。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。