人間はよく夢を見る。と言っても、今回は「睡眠中に見る“夢”」の話題だ。
“見たい夢”は人によってそれぞれだが、“見たくない夢”は大抵、何者かに追われたり、窮地に追い込まれたりするなどの苦しい内容。体が思うように動かず、目が覚めると汗でびっしょり。誰もが「夢でよかった...」という経験をしたことがあるのではないだろうか。
このような夢は「悪夢」と呼ばれ、あまり好まれるものではない。
だが今回、そんな常識を覆す商品「悪夢枕」が開発された。
心霊現象が発生した際の音も内蔵予定

「悪夢枕」は名前の通り、枕にして眠るだけで悪夢を見ることができるという代物。
共同開発しているのは、世の中にない物やサービスを企画・発案する「株式会社ソリッドアライアンス」、お化け屋敷のプロデュース事業などを展開する「株式会社ゾウンテッド」。
商品自体はまだ開発途中で、現段階ではスピーカーを内蔵した枕から、悪夢を引き起こす音が流れるものを想定しているという。
注目すべきはその音源で、「ガラスをひっかく音」や「何かが迫る音」などの不快な人工音に加え、実際に心霊現象が発生した際の音も収録される予定という。
それにしても、なぜわざわざ悪夢を見せる商品の開発を進めているのだろうか?また悪夢を見せる仕組みはどうなっているのだろうか?
株式会社ソリッドアライアンスの河原邦博代表取締役、株式会社ゾウンテッドのマイケルティー・ヤマグチCEOに話を聞いてみた。
開発者「恐怖体験が恐怖・不安の克服につながる」

――なぜ「悪夢枕」の開発を進めている?
河原代表取締役:
眠りながら恐怖を体験できるエンターテイメント性に加え、人々の役にも立つ商品にもなると思い、開発を進めています。
ヤマグチCEO:
ゾウンテッド社では、恐怖心の伝染を利用したホラーマーケティングやお化け屋敷の心理的施策に脳科学を応用しています。お化け屋敷をクリアした後には、経験値が上がったような精神的高揚や恐怖の克服による快感、生存本能や動物的本能を呼び醒まさせる作用があります。
「人はなぜ怖がるのか?」という疑問と恐怖を追求してきた経験を、ストレス解消や生きる気力の創造につなげ、「ホラー」と真逆なイメージがある社会貢献に役立てようと考えました。
――エンターテイメント性は分かるが、人々の役にも立つ商品とは?
河原代表取締役:
米国・ピッツバーグ大学の研究では、お化け屋敷などでの「恐怖体験」には、「マインドフルネス瞑想」などと同様の効果があることが分かりました。マインドフルネス瞑想とは、海外で普及している瞑想方法で、自分の体や心の状態を認識することで、恐怖や不安の克服、集中力の向上が期待できるとされています。
恐怖体験を身近に感じられるアイテムを開発すれば、面白いだけではなく、恐怖や不安の克服にも役立つと考えました。
――枕を選んだ理由は?
河原代表取締役:
この研究で重要なポイントが、受動的ではなく自主的に恐怖を体験することです。自分の意志で恐怖を乗り越えることで、脳の高揚や達成感が得られ、恐怖や不安の克服に役立つとされています。
ですが、お化け屋敷のような体験施設に行く機会はなかなかありません。何か方法はないかと考えていた際、もし枕で恐怖体験ができれば、これまでなかったようなコンテンツが生まれるのではないかと考えました。
2019年内にウェブ上で販売へ

――製品は開発途中とのことだが、内部の仕組みはどうなっている?
河原代表取締役:
まだ試作段階ですが、現段階では枕にスピーカーを内蔵して、使用すると静かに音声が流れるものを想定しています。今後は振動機能のほか、寝返りや発汗状態に応じて再生される音源が変わったり、スマートフォンやクラウドと連携して睡眠時のデータを取得できる機能なども搭載する予定です。
将来的にはIoTガジェットとして、幅広い分野で活用できるのではと考えています。
――悪夢を見ているかは、どうやって判別する?
河原代表取締役:
悪夢を見ているかどうかについては、複数の試作品を使った実験を行い、被験者への影響をまとめるつもりです。結果の確認方法は被験者との面談がメインとなります。現時点では未定ですが、睡眠中に脳波測定器を装着して「悪夢を見ている」「悪夢を見ていない」状態の脳波データを収集する可能性もあります。
――悪夢をどのように演出する?
ヤマグチCEO:
当社では、世界初となるベッド拘束型のお化け屋敷「ネグルシ」も展開しています。寝た状態で恐怖を体験するという視点では「ネグルシ」も「悪夢枕」も同じなので、こちらで得た臨床データも活用する予定です。今後は脳科学、悪夢、睡眠障害などの関連データも収集して演出に役立てます。

――今後の展開は?
河原代表取締役:
心霊に関連する音源を聞きながら眠り「悪い夢を見た」という関係者はいますが、製品としての実用性や形はまだ未完成です。
今後は悪夢をしっかり見られるように改良を重ね、2019年内にウェブ上での販売を目指します。価格は未定ですが、1万円台になるかもしれません。
失礼ながら、話題性を狙った企画ものかと思いきや、「恐怖体験」を活用して恐怖や不安を乗り越えてほしいという思いで商品開発をしていた。
確かに、ことわざには「目には目を」「毒を食らわば皿まで」といった言葉もある。
公式ツイッター「@96MA9RA」では、開発情報の発信や商品化に関する意見なども受け付けている。
2019年内の販売を目指すということだが、どんな枕が出来上がるのか今から楽しみだ。