全編フランスで撮影された映画「真実」の舞台裏

国民的大女優の自伝本「真実」の出版祝いに集まった家族。しかし、その本に綴られていたのは・・・

「真実」
「真実」
この記事の画像(9枚)

母はなぜ“嘘”を綴ったのか。
あらわになった母と娘の軋轢が家族との時間の中で次第に形を変えていく小さな家族の7日間の物語。
全編フランスで撮影された映画「真実」の舞台裏について是枝裕和監督に三田友梨佳キャスター が聞いた。

三田友梨佳キャスター :
拝見しました。是枝監督の作り出す独特の雰囲気の中にも、どこか心がほっこりとするようなぬくもりというのも感じたんですけれども、完成してご自身ではいかがでしょうか。

是枝裕和監督:
カトリーヌ・ドヌーヴさんが持っているある種の軽やかさみたいなものが、普段僕の作品を見終わったときにもう少しどよーんとする重いものがあったと思うんですけれども、彼女のおかげもあって、とても軽やかな秋の空のような爽やかな、そんな作品になったんじゃないかなと自分では思っています。

撮影現場の是枝裕和監督
撮影現場の是枝裕和監督

監督が感じた“日仏の違い”

出演者はもちろん、スタッフの大半もフランス人という中で、 いくつか感じたという“日仏の違い”。

是枝裕和監督:
僕が最初、里帰りをした娘家族はベッドで3人で川の字で寝ると書いていたらフランスだと6歳の子はもう絶対自室で寝るから、「親と一緒には寝ないからそこは変えた方がいい」と言われて、なるほど、じゃあ、川の字が幸せの象徴ではないんだっていう、そこは最初ちょっと驚きましたよね。

フランスの日常的な目線での家族描写にこだわった監督。
それは、母と娘の確執を描く場面でも・・・

娘「ねぇ、何よこれ?デタラメじゃない。どこに“真実”があるのよ」
母「残念ね、サラの娘じゃなくて」
娘「私はママを絶対許さない」
夫「リュミール・・・」
娘「あなたには関係ないから」
母「何様のつもり?サラでもないのに。確かに私はひどい母親で、ひどい友達よ。でも、いい母親で下手な役者よりずっとマシ」

是枝裕和監督:
日本だと、ああいう母と娘、というかあの家族自体がそんなに直接ぶつからずに、うまく回避する方へ黙っちゃったり寝たふりしたりするものを、今回は意識的にちょっとぶつけてるんですよ。で全然ケンカ別れするわけじゃないからね。これで大丈夫なんだっていうのは結構カルチャーショックだった。

撮影時間は「1日最大8時間、週休2日」

そして、監督が感じた“日仏の違い”のもう1つが、映画製作の労働環境。

三田キャスター :
日本では働き方改革が進んでいますが、映画界の現状についてはいかがですか?

是枝裕和監督:
改革・・・日本の映画の環境も何歩か手前だと思いますけど多分・・・テレビはだいぶ改革されたんですか?

三田キャスター :
少しずつですけど。

是枝裕和監督:
映画はまだそこに至っていないのだけど、フランスはもう徹底してるんです、そこは。最大でも8時間なので。

三田キャスター :
最大で8時間ですか?

是枝裕和監督:
8時間ですね、8時間を超えない。なので、とても楽だった。そういう意味で、体調は。

フランスでは法律で“1日8時間まで”と決められている撮影時間。
映画製作に携わって働く人たちの生活を日常的に守る環境がととえられているのだ。

日本の映画作りも変えていく時期

是枝裕和監督:
スタッフの中にシングルマザーが何人かいるんですけど、それでも全然現場がこなせるような労働環境。日本だとやっぱり本当に申し訳ないけど、子育てしながら現場を夜中の12時まで撮影って難しい。それを変えていけば、もっと女性が映画の現場で働けるように変わっていくんじゃないかな。
いろんな人の日常生活を犠牲にした上で成り立っている楽しさだとすると、やっぱりちょっと変えていかなきゃいけない時期にきているだろうって、このままは続かないと思います。日本の映画作りも。

三田キャスター :
是枝監督は一言一言言葉を選んで真剣に向き合ってくださる実直なお人柄が印象的でした。
監督に伺うと、外国の作品をオールフランスロケで完成できたことは大きな自信になったそうです。次の作品については、少しインターバルを挟んで来年の春以降考えたいとのことでしたが、日本語でない言語の映画もまた是非作りたいと今後への希望も語ってくださいました。

(「Live News α」10月10日放送分)

是枝監督×三田キャスターの動画はこちら