アメリカは金融引き締め路線に両足ブレーキ

事実上、世界の中央銀行と言えるアメリカ連邦準備制度理事会(FRB=FED)は30日、公開市場委員会(FOMC)で当面は利上げを見送ることを決めた。加えてパウエル議長は会見で、FRBの保有資産を縮小する“量的引き締め”も早期に停止すると明言した。いずれもいわゆるFEDウォッチャーたちの予想の範囲内の決定だが、利上げと量的引き締めは、リーマンショックに端を発した金融政策の非常事態を正常化するための車の両輪として順調に機能してきた。それが、両輪ブレーキ!となったのだから、えっ!?アメリカ経済はそんなに危ういの?と警戒せずにはいられない。

30日のFRBの声明によれば、アメリカの労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は堅調に拡大しているという。にもかかわらず両輪ブレーキをかける理由は何かといえば、中国と欧州の先行き懸念だ。さらに、米政府機関の一部閉鎖が(期間限定で解除されたが)今後、解決へ向かうのか逆に対決を深めていくのかも読めないからだ。最悪の事態になった際に、あの時、深く考えずに結果的に取り返しのつかない決定をしてしまった・・と悔やまずに済むように、今は身をかがめて下手に動かないことにした。パウエル議長の会見内容からは「忍」の一字が浮かび上がってくる。

貿易問題をめぐる閣僚級協議に出席するUlster= アメリカ通商代表部の ライトハイザー代表

確かに昨秋の中間選挙以降、トランプ・リスクで株式市場はボラティリティーを増している。米中貿易戦争が3月1日までに妥結に至らなければその先は? 議会下院は野党民主党に握られトランプ大統領との対立は先鋭化。来年11月の大統領選を意識すれば政治的妥協は望み薄だ。そこに“合意なきEU離脱”の現実味が増してきた。

中国はリーマン対策級の景気対策

中国経済の減速ぶりも想定以上で、アップルやキャタピラーなど中国で稼ぐアメリカ企業の業績にも響く。こんなに先行き不透明なことが盛り沢山で、単発でも爆発威力が大きそうなものが連鎖爆発を起こす危惧もあるのだから、FRBが慎重になり、既定方針を180度転換したのもうなずける。

閣僚級協議 中国側代表の劉副首相

同じ現況への危機意識を中国も共有しているように見える。

昨秋以降、減税とインフラ投資で40兆円規模の景気テコ入れ策を進めており、必要に迫られれば、リーマンショックに対する「4兆元対策」(当時のレートで約56兆円)の水準もあり得るという。中国は大盤振る舞いしたリーマン対策の後遺症に長く悩まされた苦い経験があるが、そうは言っていられない事態に直面している。成長率が6%を下回ったり、米中貿易戦争で明らかな敗戦を喫したりすれば、習近平氏の終身トップの地位が揺らぎかねない。共産党の一党独裁体制への批判が高まることも避けられない。

貿易戦争で中国がアメリカに勝つことは難しい。であれば負けなければいい。持久戦に入って頑として負けを認めないことだ。そのためには借金がかさもうと後々苦しくなることが分かっていても景気対策最優先だ。輸出依存の中国にとっては、トランプ・リスクのアメリカもブレグジットで無傷では済まないEUも懸念要因だが、最悪でも中国単独で危機を乗り切る。そんな戦略的決定が「リーマン対策級」の背景にあると思われる。

日本は消費増税一直線で大丈夫なのか

翻って日本はどうか。

今のところ3度目の正直で、10月の消費税10%に向かってアクセルを踏み続けている。そりゃそうだろう。2020年オリンピック・パラリンピックの前年という追い風が吹く中で消費増税のチャンスを逃したら、オリンピック後の反動景気低迷で消費税率をいじる機会はいつ来るとも知れない。ここでやるしかないんだ!と財務省は一歩も退かない覚悟だろう。

だが、アメリカと中国がともに、「リーマン級」の激震を想定して身構えている現況と、2016年伊勢志摩サミットの際に安倍総理が「リーマンショック前と似ている」と指摘して消費増税を見送った頃の経済状況を並べてみるとどうだろう。米中それぞれのお家の事情を割り引いても、今の方がよほど危ないと言わざるを得ないだろう。

しかも、日銀には万が一の場合に景気テコ入れの金融政策を発動できる余地はほぼゼロ。政府の財政政策も消費増税分にたっぷりお釣りを出した分は“万が一対策”の一部に算入されるだろうが、それだけで済むはずもない。財政の悪化が続く中で、消費増税対策+“万が一対策”のダブル財政発動となると、額もさることながら効果・効率を突き詰めた対策が必要不可欠だ。いざとなったら補正を組めばいい。中身は前例踏襲で積み上げる‥といった役人的発想を廃し、最悪に備えておくべきだ。米中の身構えぶりを見ていると、そう思わずにはいられない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋】

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