千葉県野田市で虐待された10歳の女児が死亡した事件で、女児を一時保護していた柏児童相談所の対応に批判の声が集まっている。

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柏児童相談所は2017年11月、父親から虐待されている疑いがあるとして女児を一時保護し、その期間中、女児の両親と面談。
その後、関係が改善したと判断し、12月末に保護を解除、女児は両親の元に戻されたのだが、その後、一度も自宅訪問を行っていなかったことなどが批判の的となっている。

こうした中、これまで数えきれないくらい児童相談所に関わってきたというTwitterユーザーのツイートが1万2,000以上リツイートされ、拡散している。

このTwitterユーザーは児童相談所について、「その忙しさは尋常ではなく、もはや人間のできる仕事の範囲を越えている」と書き込んでいる。

児童相談所の実態はなかなか伝わってこないが、我々の想像を絶する忙しさなのだろうか?
また、児童相談所に関わっていた当事者として、今回の事件を受け、児童相談所が批判されていることをどのように受け止めているのだろうか?

児童相談所に関わってきたというTwitterユーザーに、TwitterのID、アカウントを伏せることを条件に話を聞いた。

児童相談所の「一時保護」の保育士

――児童相談所には何年ぐらい関わってきた?

15年ほど関わってきました。


――児童相談所とはどのようなかたちで関わってきた?

児童相談所の「一時保護」の保育士です。


――児童相談所の「一時保護」の保育士はどのような仕事を担っている?

虐待を受けた子どもをひたすらケアします。


――たとえば?

お風呂に入れたり、一緒に遊んだり、話を聞いたり、外出ができずストレスが溜まるため体育館で一緒に遊んだり、様々なケアをしています。


――児童相談所に「関わってきた」ということは、今は関わっていない?

はい。3年ほど前から療養しています。


――療養は児童相談所の仕事が激務であることと関係している?

「子どもの福祉現場の激務」が理由です。
「バーンアウト(燃え尽き)」の状態になり、今は身体と心を休めている最中です。

1人の児童福祉司が100件を抱える異常な状況

――野田市の虐待事件に関して。柏児童相談所の対応に批判的な声があること、どう思う?

児童相談所はマイナスをゼロにする仕事です。

虐待などで命が脅かされている状態が“マイナス”で、子どもが命を脅かされない生活が“ゼロ”。
“マイナス”から“ゼロ”にもっていくのも大変なのですが、“ゼロ”にもっていき、その状態を維持していても評価されません。

それだけでなく、“マイナス”が、今回のようにさらに“マイナス”になったときには叩かれます。
こうした状況を私は変えたいと思っています。

――「児童相談所の忙しさは尋常ではなく、もはや人間のできる仕事の範囲を越えている」とツイートしている。それほどに忙しい?

私が住んでいる自治体には児童相談所が1カ所しかなく、1人の児童福祉司(ケースワーカー)が100件ほどの虐待案件を抱えているような、ひどい状況です。

虐待を受けている子どもを全員、助けたいのはやまやまなのですが、現実的には1人の児童福祉司が抱えられるのは、子ども数人から数十人が限界なのです。

そうなると、緊急度の高い重篤なケースしか対応できず、緊急度が低いと判断されたケースはどうしても後回しになってしまうのです。

大きな“うねり”を生み出してほしい

――そうした状況はどうすれば変わると思う?

日本では「家庭は温かいもの」というイメージが浸透していることから、虐待を自分事としては考えたくない人が多いため、「児童相談所にもっと予算を」という“うねり”にはなりづらいところがあります。

それでは今の状況はいつまでたっても変わらないので、多くの方が虐待を自分事として考え、「保育園落ちた、日本死ね」のときのような、大きな“うねり”を生み出してほしいと思っています。


――虐待を減らすのは容易ではないが、どうすれば減ると思う?

国の新たな機関として、「子ども省」を新設することです。

虐待案件には、徹底して“子どもの側”に立ち、子どもを守るプロフェッショナルが必要で、その機関として「子ども省」を新設することで、救える子どもは増えると思います。

2022年度までに児童福祉司を約2000人増員する政府プラン

――子どもの虐待に関して、この他に懸念していることは?

懸念しているのは「18歳問題」です。

「児童を18歳までとする」と、法律で決められてしまったので(厚労省審議会で20歳までを児童とするという案を、実践家や法律家・研究者のメンバーが強く推進していたのですが見送られてしまいました)、18歳を過ぎた子どもは法制度の隙間にどんどん落ちてしまいます。

法的根拠が無いために、社会資源や支援もありません。

家庭を生き延び、施設生活を生き延びても、18歳になった途端、何の支援も後ろ楯もなく、社会に放り出される実態があります。

施設側もアフターケアしたいところですが、今の施設だけで手一杯です。

そのため、その子どもたちが犯罪に走らざるを得なかったり、友人や彼氏の家や、ネットカフェを転々とする“見えないホームレス”になっていきます。
また、女の子だと住居付きの風俗に働いたりもします。そんな中で、若年妊娠や出産の問題も出てきます。

そこでまた、貧困や虐待の連鎖も生まれてしまうのです。
すべての問題は、このように繋がっているのです。

そういうわけで、私が考える「子ども省」は、対象を0歳~20歳までにできたらベストだと考えています。


厚生労働省によると、2017年度の児童福祉司の配置数が3235人なのに対し、児童相談所における虐待の相談件数は13万3778件。

児童福祉司1人当たりの児童虐待の相談対応件数は全国平均で40件程度。
地域差はあるものの、児童福祉司の数は足りていない。

こうした状況を受け、政府は去年7月、2022年度までに児童福祉司を約2000人増やすプランを決定。
1人当たりの件数を減らすために増員を図っている。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。