より長く、より楽にランニング
反り返った爪先。
前から見ると靴底が丸見えの、このシューズ。
兵庫・神戸市にある「アシックス スポーツ工学研究所」で、2年の歳月をかけて開発され、9月に世界各国で発売された、ランニングシューズ「GLIDERIDE」。
ここには、ランニングシューズ戦争を生き抜く、日本の匠の緻密な技が詰まっていた。
特徴は、何といっても、厚底と反り返った爪先。
従来のシューズと比べても、爪先が大きく反り返っているのがわかる。
ランニングシューズの常識を覆すような、爪先の曲線。
その訳は...。
エネルギーの消費を抑える
アシックス スポーツ工学研究所・阪口正律主席研究員:
ランニングをしている時に、かかとが地面に接地する、そこからつま先が地面から抜けていく時にかけて、大きなエネルギーが足のさまざまな関節で消費される。その動きをコントロールすることによって、エネルギーの消費を抑えて、より楽に長く走れる。
かかとが地面に着いてから爪先が抜けるまでの動きを、よりスムーズにすることで、走りの効率を高める。
厚底や薄底、軽量化や素材のこだわりなど、さまざまなシューズが開発される中、アシックスが徹底した研究の末、たどり着いたのが、この理想の曲線だという。
この反り返った爪先で、どれほど走りが効率的になるのか。
その実力を確かめるため、ランニング歴10年以上のスタッフが、実際に履いて検証してみたところ、足踏みしてる感覚だが、体が自然と前に倒れこみ、自然に前に進む感じだという。
その違いは、データにも表れていた。
どれだけ足首の関節の動きを抑えられるか
走っている時の体の動きが一目でわかる画面。
左が新型シューズ、右が従来のシューズ。
1つめのポイントは、走っているときに、どれだけ足首の関節の動きを抑えられるか。
従来のシューズは、足首の動く角度は39度。
一方、新型シューズは32度。
反り返ったシューズの方が、あまり足首を動かさず走れていることがわかる。
つまり、あまり足に負担をかけていない。
歩幅を広げ、より効率的に足を前に運ぶ
2つ目のポイントは、歩幅の長さ。
従来のシューズは70cm。
新型は74cm。
一歩あたりの歩幅が4cm広がっていて、より効率的に足を前に運べていることがわかる。
阪口主席研究員:
徹底的にコンピューターシミュレーションや実際の実験を通して検証して、その中から最適解を導いていく。より幅広い、さまざまなランナーの方々にこのシューズを体験していただいて、実際により長い距離を楽に走れるような体験をしていただきたい。
日本のシューズメーカーならではの緻密さから生まれた、こだわりのシューズ。
2020年に迫った東京オリンピック・パラリンピックへ向け、ランニングシューズ戦争も今後、さらに加熱していくとみられる。
新たなコンセプトと技術でナイキに対抗
三田友梨佳キャスター:
石倉さんは陸上経験もあるということですが、新しいシューズをどう思われますか?
(株)キャスター取締役COO・石倉秀明氏:
陸上競技のシューズと言えばアシックスというくらい皆が挙ってアシックスを選んでいたというイメージがあり、当時から技術力は非常に高くて差別化はできていたと思います。当時であれば世界的な有名なランナーだとか日本のトップランナーも大きな大会でもアシックスを選ぶというのが一般的にありました。
ただ昨今では、トップ選手の多くがナイキの厚底シューズを選ぶ傾向が少しずつ増えてきています。なので今回アシックスとしては、誰もが長く楽に走れるというコンセプトとつま先にこだわりの曲線を持たせた技術を掛け合わせて市場にアプローチをしに行く、新たにナイキに対抗していくというやり方をしていけばいいと思っています。
三田友梨佳キャスター:
やはりライバル社に技術で勝つと新たな成長を描ける物なのでしょうか?
石倉秀明氏:
そうですね。技術力は前提としてもちろん大事ですが、そこに加えてマーケティングだとかプロモーションの強化が大事だと思います。例えば来年東京オリンピックがありますけど、その中でどれだけ多くの選手がアシックスのシューズを履いて活躍できるか、メダルを取れるかというところで問われてくると思う。その結果如何によってはアシックスのブランドイメージが大きく変わってくると思います。
技術力の強化や追求はもちろん大事ですが、選手に対するマーケティング戦略もより戦略的に行っていけるかがアシックス社にとっては非常に大事なポイントになると思います。
三田友梨佳キャスター:
トップランナーの活躍によってシューズの勢力図は大きく変わるということですね。
オリンピックを前に競争は激化していきそうです。
(「Live News α」10月22日放送分)