鳥取県米子市の鳥大附属病院救命救急センター。山陰の救命救急の要として、日夜患者を受け入れています。ここに異色の経歴を持つ女性医師がいます。
4年前に「見習い救急医」として奮闘する様子をお伝えしましたが、2024年の秋に救命救急医の資格を取得。独り立ちを果たし、命をつなぐ最前線で奔走する姿を取材しました。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師(58)。4年前、救命救急のエキスパートを目指し、救命救急センターに配属。異色の経歴を持つ新人救急医として奮闘し、念願の救命救急医の資格を取得。
現在は…。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
一生修行です。
独り立ちを果たし、奮闘する医師の姿を追いました。
午前7時前。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
おはようございます。きょうはヘリのプレホスの制服です。着替えてきます。
松尾さんは、異色の経歴を持つ新人救急医です。子どもと触れ合う2児の母の松尾さんは、鳥大医学部を卒業後、医師として働いてきましたが、結婚を機に一度医療の現場を離れました。しかし、より地域医療に貢献できる医師になりたいと一念発起。救命救急のエキスパートを目指し、見習い救急医として4年前、鳥大病院に着任しました。
「救急科専門医」の資格取得を目標に、年下の先輩救急医から教わりながら臨床経験を積んできました。そして2024年秋に資格を取得。鳥大病院でも数少ないフライトドクター、「空飛ぶ救急医」として独り立ちしました。
この日、松尾さんがまず向かったのはICU・集中治療室。フライトドクターとして呼び出しがない時間は、重症患者の治療にあたります。空いている時間には、ドクターヘリの準備。いつ飛んでもいいように、機器チェックも欠かせません。
すると…。
運航管理室:
ドクターヘリホットラインです。今準備中なんですが概要を教えていただけますか。
突然の出動要請に取材班も緊急退避します。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
ドクターヘリ鳥取1です。基本情報お願いします。
運航管理室:
概要、82歳男性CPA。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
82歳男性、CPA了解。
要請から3分以内の離陸が鉄則。態勢を整え、すぐに出発します。今回は別の病院が受け入れを決めたため、搬送までを支援しました。
Qいつも患者さんと一緒じゃない?
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
重症度によって選定してお願いする形です。
そしてすぐさまICUへ移動。見習い医師だった4年前と違い、後輩に指導する姿も。すると、治療に専念する間もなく…。
看護師:
松尾先生、「コードブルー」なってます。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
ちょっとここは走らないと。
看護師:
境、80代女性、気道熱傷の疑い。
事前に看護師と処置内容をすり合わせます。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
ちょっと聞いてない時もあるんですけど、聞けたら、やることがなんとなくイメージが。ただ近いので慌ただしいなって…。
症状を確認しながら、顔と喉にやけどをした女性の治療にあたります。
午前中、慌ただしく過ごした松尾さん。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
(お昼ご飯は)きょうは絶対無理だと思うので、インチキしてこれで血糖値上げてね、シュワシュワーっとしたので…。
昼食の時間もないまま午後の勤務です。すると…。
この日3度目の出動要請。次の患者は、心肺停止の女性です。
松尾医師は、病院に着くまでの間、ヘリ内でも心肺蘇生を試みます。
しかし危険な状態が続いていました。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
医学的に蘇生する確率だとか、脳へのダメージだとか、そういうことを考えるとちょっと難しいという状況なので、それをお伝えしてご理解いただくということになるかと思います。ちょっと家族を探してきます。
しかしそんなやり取りをしている間にも次の出動要請がかかりました。
鳥取大学医学部附属病院・本間正人医師:
もう現場要請だって、行ってくれる?間に合わないから!
感傷に浸る時間はありません。救命救急医として、ひたすら命を救うために走り続けます。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
(救急は)正確で確実な判断を迅速にすることが大事と思うので、そういう人になりたいなと思ってますが、穴だらけです。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
一生修業です。勉強させてもらってます。
これで退勤かと思いきや…。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
連れて帰ってきた人が入院になるので、その入院の作業をこれからします。
2人の子どもを育てる松尾さん、思うように子どもたちとの時間が取れない時もあると言いますが…。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
生きててくれたら、それが幸せです。人って突然死ぬんだなという風にここにきてより強く思うようになったので。
松尾さんが目指す医師の姿とは…。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
なかなか『大きい病院にじゃあどうぞ行きましょう』と言っても行ける方はいないので、隙間を埋めて行きたかったというのは本当の思いです。資格を取ったからといって全部できるようになってるわけではないので、やはり勉強は勉強で続けていかなきゃいけないなと思ってます。
資格を取得し、ようやく「スタートライン」。
鳥取大学医学部附属病院・松尾紀子医師:
救えない命は当然ありますが、常に誠意を持って対応したいと思います。
「空飛ぶ救急医」として、これからも患者の命と向き合います。