特集は、お年寄りに好評の施設です。2024年、長野県上田市に開業したデイサービスセンターは、利用者の意欲や元気を引き出そうと、施設内だけで使える独自通貨を導入しています。仕組みと効果を取材しました。
■デイサービスで「独自通貨」導入
パチンコに、カラオケ、麻雀も。お年寄りたちが様々な娯楽を楽しんでいます。
2024年11月に開業したデイサービスセンター「オリオリゾート上田」です。
利用者(90):
「大当たり、ほら。(何回くらい当たりました?)もう3回大当たり。面白いんだよ、普通の介護施設では、なかなかこういうことない」
利用者(85):
「(マージャン牌を)組んでいくのが、楽しいですね。手の運動にもなるし、脳トレにもなるし、いいことね」
これらを楽しむのに必要となるのが見慣れぬ紙幣。単位は「マナ」。施設内だけで使える「独自通貨」です。導入は、施設のコンセプトと深く関係しています。
オリオリゾート上田・金剛平 施設長:
「基本的に自分たちで、一日どのように過ごすか考えて行動していただいている。『やらされるではなく、自らやる』なので、意欲的に取り組んでいただいている」
オリオリゾートは、パチンコ店などを経営する松本市の企業が2022年、安曇野市で始めた施設で、上田市で2カ所目。
「オリオリ」は、ハワイの言葉で「楽しみ、喜び、幸せ」という意味で、職員はアロハシャツを着ています。
オリオリゾート上田・金剛平 施設長:
「生涯楽しめるをコンセプトにしていて、毎日を楽しく過ごしていただきたいと考えている」
■「主体性」持つためのツールに
施設での時間を楽しむには利用者が「主体的」になることが重要。その日、何をするかは、利用者自身が決めボードに張り出しています。
そして「主体性」を持ってもらうためのツールが施設内通貨の「マナ」です。
昼食の時間。
利用者(90):
「いいですね。大勢で食べるから、余計おいしいです」
施設長:
「ありがとうございます。はい、どうぞ」
食べ終わって食器を返却した利用者に「マナ」が手渡されました。
利用者(83):
「すごいお金持ちになっちゃって、どうしましょう」
「マナ」の集め方は様々。
利用者(83):
「これでね、お小遣いをくださるんですよ」
洗濯物をたたんだり、配膳したりと施設で作業をすると「100マナ」が渡されます。
歯磨きや入浴、施設内の散歩など、健康維持に取り組むと「100マナ」。
■「マナ」でパチンコやカラオケ
利用者は集めた「マナ」を使って飲食や娯楽を楽しむのです。
利用者(86):
「コーヒー3つお願いします」
職員:
「ありがとうございます、お待ちください」
ドリンク1杯「500マナ」。
パチンコは2時間「500マナ」から。麻雀は2時間で「300マナ」。カラオケは1曲「100マナ」です。ほとんどの娯楽にマナが必要ですが賞金を得るチャンスも。
職員:
「96点はね、すごいんですよ」
利用者:
「そうだろ」
職員:
「はい、200マナ」
カラオケで96点以上を出すと「200マナ」。
■パチンコの大当たりなどで賞金も
パチンコの大当たりや麻雀での勝利、スポーツの「モルック」で良い成績を出しても賞金がもらえます。
職員:
「おめでとうございます!」
オリオリゾート上田・金剛平 施設長:
「疑似経済活動をすることで、社会に参画している意識を持ってもらおうと思っている。貯めるということに、すごく意欲的になるので、いろいろなアクティビティーをされるときも一生懸命されるという、いい循環をしていると思っている」
利用者はー
利用者(90):
「(施設へ来ると)エネルギーが湧くよね。もうね、一人暮らしだからさ」
利用者(83):
「自分が動いて、ご褒美をいただけるのはすごいシステムだと思って、そこが楽しいかな」
■「マナ」貯めて娘をランチに招待
夫婦で利用している佐々木一彦さん(90)と妻の美晴さん(85)。2人は、あることのためにマナを貯めてきました。
佐々木美晴さん:
「今月の22日かな、もう予約済みで2人来るの」
2月22日ー。
長女・千春さん(62)・次女・千尋さん(60):
「お世話になります、お願いします」
夫婦で「6万マナ」を貯めてきたのは娘2人をランチに招待するためでした。残念ながら夫の和彦さんは体調不良のため来られず、3人で楽しむことに。
この日は「おばんざいづくし」と銘打って、「ひじきの煮物」など30種類ほどの総菜が選び放題でした。
長女・千春さん:
「野菜たっぷりでいいね」
「とてもおいしいです。父と母がうらやましいです」
次女・千尋さん:
「薄味なんだけど、素材の味がとてもおいしいです」
娘2人は施設を利用してから両親が変わったと感じています。
長女・千春さん:
「生き生きしてきたというか、前より意欲が出たような気がします」
次女・千尋さん:
「スタッフさん、利用者さんと仲良く会話もしているようなので、刺激になり、言葉数が増えたと思う」
高校生を筆頭に7人のひ孫がいる美晴さん。玄孫を見るまで長生きするのが目標です。
佐々木美晴さん(85):
「玄孫を見るまで死んでも死に切れません。家ででボーっとしてたらぼけちゃうし、体も弱るから、こういうところが一番長生きの秘訣」
■「独自通貨」全国で拡大中
お年寄りの意欲を引き出す「施設内通貨」。数年前から全国で広がっており県内でもさらに導入が進みそうです。
オリオリゾート上田・金剛平 施設長:
「まず元気になっていただきたいし、笑顔で帰ることで、ご家族も安心して生活が送れますし、皆さん元気で長生きして通っていただければいいなと思います」