28人から4組のカップルが成立
「ご趣味は何ですか?」とは、お見合いや婚活パーティーにおける定番の質問だが、初対面の相手に緊張して、または好感を持ってもらいたいと意識するあまり答えがまとまらなかった、という経験はないだろうか。
そんな会話に苦手意識を持っている人注目の婚活パーティーが、2月9日に開催された。
「ロボットが会話を代行する婚活パーティー in竹芝」という名の通り、参加者の代わりにロボットが会話を進めて相互への理解を深め、婚活の成功をサポートするというのだ。
この「ロボット婚活」を主催した一般社団法人CiP協議会が、実施結果を12日に報告。
本人同士が会話をしなくてカップルは成立するのかと思ったが、男女合わせて28人が参加し、4組のカップルが誕生したというのだ。
同協議会は、東京の竹芝地区を「デジタル×コンテンツの産業集積地」とすることを目指してテクノロジーを活用したイベントを展開しており、今回の婚活パーティーはその活動の一環だという。
高橋竜之介事務局長は、日本の生涯未婚率が上昇していることに触れ、「多くの日本人が自身のコミュニケーションに苦手意識を持っているが、ロボットを介することで、その問題を解決できるのではないか」と開催の背景を語った。
親が子どもに代わって結婚相手を探す「親の代理婚活」という婚活もあるが、ロボット婚活とは一体どのようなものなのか。
ロボット同士の婚活はこんな感じ
ロボット婚活パーティーに参加したのは、25~39歳の未婚の男女。
第1部「ロボットが会話を代行して参加者が会話をしない」と第2部「ロボットが会話を代行した後に参加者同士で会話する」の2つのプログラムがあり、ロボットは参加者の代わりに趣味や仕事の話題など、一般的な婚活パーティーで行われる会話コミュニケーションを行う。
使用されたのはシャープのモバイル型ロボット「RoBoHoN(ロボホン)」。男女が隣り合うテーブルの上にそれぞれの分身として置かれ、3分間の会話がスタートする。
報告会でのデモンストレーションで聞いた会話は、次のような内容だった。

【ロボット同士による会話の一例】
A:私は、マリです。山口県出身で、年齢は23歳です。
B:よろしくお願いします。マリさんの趣味は何ですか?
A:私の趣味は映画を見ることです。
B:僕も映画を見るのが好きなんです。
A:そうなんですね、偶然ですね。
B:僕は、映画のほかにテニスをやります。
A:へぇ~いつ頃からやっているんですか?
B:幼稚園の頃からやっていて、高校の頃に全国大会に出場しました。
A:全国大会ですか、すごいですね!
B:ありがとうございます。
A:私は、高校の頃、吹奏楽部に入っていました。
B:どんな楽器を演奏していたんですか?
A:私はクラリネットを演奏していました。
B:そうなんですね。今は、何か楽器をやっていますか?
A:最近はピアノを習い始めました。
B:ほぅ、音楽が好きなんですね。
A:はい、音楽が大好きです!
B:そろそろ終了の時間ですね。
A:本当だ、ありがとうございました。
B:こちらこそ、ありがとうございました。
この間、人間同士の会話はない。
相手がすぐ近くにいるのに言葉を交わすことなく、ロボットたちが話しているのを聞いている様子は不思議な光景でもあったが、ロボットの先にいる相手と目が合ったりクスクスと笑い合っている姿は楽し気だった。
「婚活パーティーでは、相手との会話を盛り上げることがカップル成立のポイントです。ロボット同士の会話を聞いていると、相手と直接話したくなる感覚もあります」と主催が説明するように、参加者からも好評を得たようだ。
「ロボットの会話のみ」の第1部には男性8人、女性8人が参加して2組のカップルが成立し、「ロボットの会話の後に本人同士で会話」する第2部は男性5人、女性7人が参加して、こちらも2組のカップルが成立した。(男性3人、女性1人が病気等の理由で欠席)
婚活パーティー終了後のアンケートでは1部2部ともに満足度は約80%で、「同じことを何度も話さずに済んで楽だった」「ロボットのおかげで、あまり緊張しなくてよかった」「ロボット会話が基本情報となり、5分間の実際の会話で質問がしやすかった」などの感想が寄せられた。

「ロボットが話すと、長所が嫌味に聞こえにくい」
ロボットが参加者自身の情報を話す仕組みは、事前に回答した45項目の質問が基になっている。
システムを手掛けたサイバーエージェントは、参加者のプロフィールから会話内容を作成し、複数台のロボットの会話と動きを制御するプログラムによってロボットに発話命令を送る。
今回は、リアルタイムでの音声認識や会話生成は採用していないので、アドリブの会話はない。
ロボットが会話を代行するメリットについて、サイバーエージェント AI Lab 研究員の岩本拓也さんは、「限られた時間で自分をアピールする必要がある婚活パーティーにおいて、長所を伝えようとすると“自慢”と受け取られてしまうこともあるが、ロボットを介すことで嫌味に聞こえにくい効果がある」と話す。
事後のインタビューでは、「自分のプロフィール通りに話してくれているから信頼した」「自分が思った通りに相づちをしてくれた瞬間に信頼が大きくなった」という感想があった一方、「話された内容が少し古かったので、ロボットに対して信頼できなかった」とプロフィール記入時と参加時の考えが変わっていた場合には不満の声も上がったという。
また、マッチング希望者を選ぶ時、ロボットとの会話内容と本人の外見がどの程度影響したかを調査したところ、会話内容を重視したという回答が上回った。
「普段は好みの外見ではない相手の場合、話をあまり聞かないが、ロボットによる会話代行だったためしっかり内容を聞けた」という声があり、「話す」という動作をロボットに任せたことによって相手の話を集中して聞くことができ、親近感と理解が高まったということだ。

128パターンの会話内容を考えた
ロボホンを婚活に活用するにあたって、どのような苦労があったのか。岩本さんに詳しく話を聞くことができた。
ーー数あるロボットの中で「ロボホン」を採用したのはなぜ?
婚活パーティーではロボット同士の対話が重要な要素となるため、人型で対話をしていても不自然ではない容姿であることを重視しました。
また、小型で圧迫感がなく持ち運べるということも理由のひとつです。
参加者の方には「ロボットはあなた自身ですよ」と伝え、自分を持って移動するイメージで異性の参加者全員と会話をしていただきました。
ーー参加者が記入したプロフィール45項目の内容とは?
基本的な情報だと生年月日、出身地、趣味、好きな食べ物やスポーツ、仕事内容など。長所や特技、年収、将来の夢といった普段はあまり人に話さないようなことも聞いています。
さまざまな項目を設定して、相手との共通点を見つける質問とその人自身の特徴を表す質問で構成されています。そのプロフィールをもとに会話を生成し、その情報をロボットに組み込みました。
ーーロボットが代行する会話を作る上で苦労したことは?
ロボットとの信頼関係を醸成するには、会話内容が参加者の考えに沿っていることが重要です。128パターンの会話内容を開発チームのメンバーで考えたのですが、ロボホンが正しく発音するとは限らないんです。
例えば、「良いですね」という相づちを「いいですね」ではなく「よいですね」と漢字を読んでしまったり、発音が違っていたり、といったことをチェックしなければなりません。ロボット開発ではよくある問題なのですが、発音には手こずりました。

ーーロボット同士の会話の3分間、参加者はひと言も話さなかった?
席に着く時と会話終了時には会釈をしていましたが、終始無言でした。でも、1部も2部も「ははっ」とペア同士が笑いあう場面はありました。
趣味などの話題で共通点があったり、何か刺さるものがあったのだと思います。隣に知らない異性がいて、少なからず緊張している状態でも笑顔が見られました。
ーーカップル成立後はデートや親族への挨拶などが想定されるが、ロボットはどこまでサポート?
ロボット婚活では、ロボットが相手を名字ではなく下の名前で呼び合うという特徴があります。その効果か、成立したカップルの1組が、婚活パーティー終了後もお互いに下の名前で呼び合っていました。
一般的な婚活パーティーで出会った男女よりも気持ちが近いのではないかと思います。次のステップにはロボットはいませんが、そういった点においてサポートできたのではないかと思っています。
28人中4組のカップルが成立したロボット婚活。
岩本さんは、一般的な婚活パーティーでのカップル成立率の約3割と比較して、「若干少ないなと感じていますが、本人同士の会話なしにロボットの会話だけでマッチングしたことは、すごいことではないかと思います。」と分析する。
今回のロボット婚活パーティーは実験的な取り組みだったため、今後、同様のパーティーを開く予定はないということだが、サイバーエージェントは結果をロボットやチャットボットによる対話の自動化に活かし、増加する訪日観光客への対応なども視野に研究を進めていきたい考えだ。
ロボット同士が会話してくれることで、緊張感なく相手の情報を整理でき、そして相手と直接話したくなる感覚も生まれる。さらに、客観的に自分を見つめ直して新たなアピールポイントに気が付くメリットもある。
最初は半信半疑だった「ロボット婚活」だったが、ロボットの役割は、自らの分身であり、また相手と自分を繋ぐエージェントでもあった。

