カソウケン(科捜研)。

その名前は、テレビなどで聞いたことがあるのに、詳しい仕事内容はよく知らないという人も多いのではないだろうか。

正式名称は科学捜査研究所。警察で差し押さえた薬物が覚せい剤などの違法薬物かどうか分析したり、微細な繊維片を鑑定して犯行の裏付けを行ったり、科学捜査の第一線で活躍するチームだ。

フジテレビ系列で“科捜研の男”が主人公のドラマが放映されているため、その仕事内容や実態に興味を持つ人が増えている。

そこで、元科捜研の研究員で、ドラマ『トレース』の原作マンガ『トレース 科捜研法医研究員の追想』の著者でもある古賀慶さんに「科捜研の本当の姿」について話を聞いた。

科捜研に理系・文系の区別はない

――元科捜研の古賀さんですが、そもそも科捜研はどのような仕事をしているのですか?

科捜研は法医、心理、文書、物理、化学という5つの科に分かれ、事件解決のために鑑定を行う組織です。法医科で行うのは主にDNA型鑑定ですが、胃の内容物や体液の種類の確認なども行っています。


――
科捜研に入るためにはどのような進路を選べばいいのでしょうか。

科捜研は地方公務員なので、都道府県ごとに募集されます。募集は毎年行われるわけではないので、確認する必要があります。

法医科には生物系の学部出身者が多いです。また、業務内容に関しては科捜研に入ってから学ぶことがほとんどなので、法医学の知識が必須ということではありません。


――
どのようなきっかけで科捜研に入ったんですか?

大学生のころ、科学警察研究所(科警研)に勤めていた方の「毒性学」の講義を聞き、そこから興味を持ちました。それから、科警研について調べていくと、研究員は国家公務員であることがわかりました。

同時に科捜研について調べてみると、各都道府県の警察にあることや、研究員が地方公務員であることを知り、こちらを目指してみようと思いました。

科捜研で求められるのは“冷静な鑑定”

ドラマでは“鑑定結果こそが真実”という信念を持つ主人公の真野(錦戸亮)が、現場に残された真実のカケラを見つけ出すため、時には新人研究員・ノンナ(新木優子)とともに現場へと繰り出すシーンが描かれている。

実際の科捜研ではどうなのだろうか。

――真野は「臨場」として現場へ行く以外にも、自ら進んで現場を調べることがあると思いますが、実際はどうですか?

まず、臨場は必ず要請されて行くので、科捜研の研究員が勝手に現場へ行くことはありません。臨場の際は、ドラマで真野やノンナが着ている濃紺の制服に着替えます。鑑識と同じ制服で、腕章だけ「科捜研」と書かれているため、一般の方には鑑識と混同されやすいかもしれません。

昔は臨場が多かったと聞いていますが、私が在籍していた頃にはほとんどありませんでした。現場で採取されたものを鑑定することが基本の業務です。

また、ドラマの中では“紫色”の手袋が主に使われていますが、実際はいろいろな色があり、私は水色の手袋の使い心地が好きだったので、それを使っていました。マスクもドラマでは紫色ですが、現場では白色を多く使っています。


――
ドラマでは、各デスクの上にそれぞれの研究員のDNA型が置いてあるそうですが、実際の科捜研でもそうなんですか?

鑑定中に万が一、自分の唾液などが混ざってしまうと大変なので、すぐにチェックできるように、自分のDNA型は手元に置いていました。

ですが、鑑定中はしっかりとマスクを着用しているので、実際に鑑定しているものと混ざったことはありません。自分のDNA型は練習の時に調べます。数字が並んでいるだけなので、結果を見ても特に感動することはありませんでした(笑)。

真野のデスク
真野のデスクにある「真野のDNA型」

――毎日、多くの事件が発生していると思いますが、1人がどれくらいの事件を担当するのでしょうか。

都道府県によって違いますが、法医科には多いところで、20~30人の研究員が在籍しています。

私が1日に受け取る事件は多い時で10件程度でした。毎日新しい事件がどんどん来るので、優先順位や緊急性はその都度、判断しました。

――ご自身で担当された事件などが、マンガのエピソードの一つになっていたりするんですか?

そうですね。そのような部分もないわけではありませんが、実際は科捜研の研究員は事件の詳細を知らない場合も多いんです。時々、事件の結末をニュースで知ることはありますが、ドラマのように刑事さんが研究員に事件の結末を話してくれることは、あまりありません。

また、研究員は事件の現場状況などを聞いた上で、刑事さんが持ってきた資料について、どの部分にどのような鑑定を行うべきか助言をすることもあります。しかし、科捜研に求められるのは、感情に左右されず、冷静に鑑定することなので、深い話をすることはほとんどありません。


――
忙しそうなイメージですが、どのような業務をして1日を過ごしていたんですか?

DNA型鑑定と鑑定書作成が主な業務です。緊急の鑑定などがあれば、残業をする場合もあります。

DNA型鑑定は、DNAの抽出、増幅、泳動(DNAを分離させる手法)、解析という一連の流れで行われます。また、鑑定にかかる時間は、例えば新鮮な血液の場合と古い歯の場合とでは全く違うため、一概にどれくらいとは言えません。

真野の像は“科捜研のあるべき姿”

科捜研は「科学的な立場で冷静に事件を鑑定する孤高の存在」だと話す古賀さん。

そんな古賀さんはなぜ、科捜研を辞めてマンガ家になったのか。

ーー漫画家になると決断したきっかけは?


子どもの頃からマンガ家になりたいという気持ちがありました。そういう気持ちが続いていたのか、科捜研にいるときも、趣味としてマンガを描いていました。

大きなきっかけは東日本大震災です。その時に、「いつ何が起こるかわからないから、やりたいことをやろう」と決意して、科捜研を辞めてマンガ家になろうと思いました。

科捜研に5年ほど勤務していた中で、辞めたいと思ったことはありません。科捜研の業務は自分に合っていたのでしょう。

――そこからマンガ家になり『トレース』が生まれたと思いますが、元科捜研として真野の人物像はどう作り上げたんですか。

科捜研は警察組織ですが、警察組織のために仕事をしているわけではありません。ただ、事実が何かを客観的に冷静に示す組織なので、真野の像は“科捜研のあるべき姿”で、何も特別な存在ではありません。真実だけにこだわる、信念を持ったキャラクターを作ろうと考えました。

私は科捜研で鑑定をしているとき、「悪を裁いてやる」という正義感を持っていました。正義の心を持ちつつ、客観的でいることに努めました。


――
科捜研時代に心に残っている事件や刑事さんはいますか?

ある強盗殺人事件の被疑者の着衣に血液が付いて、鑑定の結果、これが被害者の血液であると証明され、被疑者が逮捕されたということがありました。

担当の刑事さんが、朝から晩まで働き詰めでフラフラになりながら科捜研へ来ていたので、そういった姿を見て、事件解決のため、ともに頑張ろうと思いました。原作に登場する虎丸は、実際に科捜研にいらしていた刑事さんを、ほんの少しモデルとしています。

古賀さん自身も毎週楽しみにドラマを見ているという。これからクライマックスに向けて、どんどん面白くなっていくというが、ドラマの最終回に向けて古賀さんは「真野にはどんな真実であっても、そこから目を背けずに受け止めてほしいと思っています」と期待を込めた。

「トレース」(夜9:00-9:54)
https://www.fujitv.co.jp/trace_drama/
現在フジテレビ系で放送中の月9ドラマ。
科学捜査研究所(科捜研)を舞台に、凄惨な過去を持つ影のある科捜研法医研究員・真野礼二(錦戸亮)や、真野に振り回される新人法医研究員・沢口ノンナ(新木優子)、犯人を逮捕することに情熱を注ぐ警視庁捜査一課の刑事・虎丸良平(船越英一郎)らがそれぞれの視点で事件へと向き合い、解決へと導いていくサスペンス。

累計40万部突破の大人気コミック『トレース 科捜研法医研究員の追想』(ノース・スターズ・ピクチャーズ「月刊コミックゼノン」連載)が原作。

「トレース 科捜研法医研究員の追想」
1~6巻好評発売中
著者:古賀慶