特集は蒸留酒「ジン」です。アルコール離れが進む中、好調なのがジンの生産。小規模生産の「クラフトジン」がブームとなる中、長野県内でも生産が盛んになり、個性豊かな商品が誕生しています。その背景を取材しました。

■信州で盛り上がる「クラフトジン」

長野市のカフェ「I’m Waiting」。常時80種類のジンをそろえ、このうち20種類ほどは、信州のものです。

I’m Waiting・鈴木大介オーナー:
「(信州のジンは)非常にクリーンなジンも多い。森の中で深呼吸をしているような、ハーバルなジンも多い」


ジンは、杜松の実・ジュニパーベリーや「ボタニカル」と呼ばれる植物の皮や根を香りづけに使った蒸留酒の一種。近年、需要が高まっていて国内出荷量は2015年から伸び、2023年には5倍近くに。個性豊かな「クラフトジン」が世界的にブームになっている他、糖質がほぼゼロで、健康志向の高まりも人気の要因に挙げられています。こうした状況もあって県内でも生産が盛んに行われています。

鈴木大介オーナー:
「(長野県は)他の県に比べると、非常に精力的にジンを造っているなというイメージ。新しいジンがどんどん出ている中で、長野県産のジンはすごく期待していますね」

信州で盛り上がる「クラフトジン」造り。背景を探ってみました。

■「天下第一の桜」使ったジン

伊那市高遠の酒造会社「仙醸」。「黒松仙醸」の銘柄で知られる江戸時代から続く酒蔵です。

仙醸 営業部・シャープ仁妙さん:
「これが減圧蒸留機になります。なるべく低い温度でありながら香りを抽出することができる機械」

仙醸は2019年、ジンなどの蒸留酒を製造する免許を取得しました。

仙醸 営業部・シャープ仁妙さん:
「イギリスなんかでも若い世代をはじめとしてジンが好まれていますので、ひょっとしたら日本ならではの特徴を生きかしながら新しいジンが提供できるかなと」


米焼酎の技術をベースにクラフトジンに挑戦。目をつけたのが「天下第一」と呼ばれる高遠のシンボル「タカトオコヒガンザクラ」です。その葉を香りづけに使いました。

仙醸営業部シャープ仁妙さん:
「高遠町と言えばタカトオコヒガンザクラがシンボルだったり、生活してる方々のアイデンティティー」

試行錯誤の末、出来上がった「SENJOクラフトジン SAKURA」。桜の花の塩漬けを浮かべロックで飲むのがおすすめです。

(記者リポート)
「すっきりとした口当たりに、桜の優しい甘さと香りが感じられて、非常においしいです」

オンラインショップの他、上伊那地域のスーパーで購入でき、これまでに4000本近くを欧米に輸出しています。


仙醸 営業部・シャープ仁妙さん:
「ジンを飲みながら、あの桜の風景を思い出していただけたら。その土地を思っていただけるような一本になればいい」


■信州は酒造りが盛ん 

信州でクラフトジン造りが盛んになっている要因の一つには、こうした酒蔵の参入が挙げられます。

酒蔵の数は78カ所で新潟県に次いで全国2位。少なくとも4つの蔵がクラフトジン造りに取り組んでいます。

元々、酒造りが盛んな上、ジンは作り手の個性が出しやすく参入しやすいことも手伝っているといわれています。

■「水」決め手に始めた蒸留所も

そして、もう一つ要因として挙げられるのが酒造りにも通じる、「きれいな水」が豊富にあること。水に着目した蒸留所が野沢温泉村にあります。

客・オーストラリアから:
「全部違う味でとてもおいしい」

2022年12月にオープンした「野沢温泉蒸留所」。クラフトジンを味わえるバーもあり、外国人客に人気です。


経営者はオーストラリア人のリチャーズ・フィリップさん(52)。

都内の銀行で働いていましたが、5年ほど前、スキーなどでよく訪れていた野沢温泉にほれこみ移住。以前から興味のあった蒸留所を立ち上げました。

こんこんと湧き出るのは、近くにある「六軒清水」という湧き水。実はこの水が蒸留所を立ち上げる決め手になりました。

野沢温泉蒸留所・リチャーズ・フィリップ社長:
「山の上に雪として降ってブナ林の葉っぱのじゅうたんにまず、ろ過されて50年間くらい山の中を通ってきれいな水が出てくる野沢温泉の水が、とてもおいしくてまろやかな軟水、水が一番大事」


■蒸留所の中は

蒸留所の中を案内してもらいました。

蒸留責任者・ヨネダ・イサムさん:
「これはジュニパーベリーです。ヒノキ科の木から出てくる実、すごくスパイシーでアーシー(土の香り豊か)」

これに風味や香りを決めるボタニカルをさらに加えます。こちらで使っているのは…

蒸留責任者・ヨネダ・イサムさん:
「なるべく野沢温泉村のものを使ってる、例えば『IWAI GIN』で近くのスモモを使ってる」

他にも安曇野市産のワサビや広島産のレモンピールなどおよそ35種類。

蒸留責任者・ヨネダ・イサムさん:
「200種類くらいを実験しました。森の中歩いて、いろんなもの拾って味見できるものは味見して、それを実験蒸留でどんな香りが出たかを見て、それで判断しています」


ボタニカルは、一晩アルコールに漬け込み、蒸留釜へ。

蒸留責任者・ヨネダ・イサムさん:
「アルコールが大体78℃で蒸発します。水が蒸発しない温度なのでアルコールだけが飛びます」

アルコール分を冷却塔で冷やし、抽出します。

蒸留責任者・ヨネダ・イサムさん:
「蒸留機から出ているジンの度数は82%あります。すごく高い、飲める状況じゃない、このあと加水します」

これに、先ほど紹介した湧き水を加えてアルコール度数を45%もしくは48%に下げます。

瓶詰めしてラベリングしたら完成です。

■ジンの品評会で1位に

「NOZAWA GIN」はスギやクロモジの皮や葉を使っていて爽やかさと苦みが特徴。2024年の「ワールド・ジン・アワード2024」(ロンドン・ドライ・ジン部門)で金賞に輝き国別1位にもなりました。

「CLASSIC DRY GIN」はレモンや山椒を使用しパンチのある味わい。こちらも金賞となりました。


■地元の祭りにちなんだ商品も

蒸留責任者・ヨネダ・イサムさん:
「うん、いい香りする」

この日、蒸留したていたのは、有名な道祖神祭りにちなんだジンです。

蒸留責任者・ヨネダ・イサムさん:
「大きいブナの木でつくられた社殿を造る火祭りなので、それを結局、燃やす。次の日に残ってるブナをいただいて、それを今年の『DOSO GIN』で使用します」

燃え残った社殿のブナをボタニカルとして使った「DOSO GIN」は季節限定での販売です。


客・オーストラリアから:
「チアーズ」

バーでは「NOZAWA GIN」など4種類をテイスティングできます。

客・オーストラリア人から:
「素晴らしい!全部すごくユニークな味。みんなで話したら、クラシックドライが一番おいしい」
「シソを使ったジンが一番、とても華やか。飲みながら花やハーブの味を舌で楽しめる」


野沢温泉蒸留所・リチャーズ・フィリップ社長:
「(クラフトジンは)造ってるところのボタニカルを使って地元を表現できるのが一番魅力的。ジンを飲んで野沢温泉や楽しい経験を思い出して、また来てもらうことが大事」

きれいな水、豊かな自然を生かしたクラフトジン。信州の魅力を発信する産物として今後も注目されそうです。

長野放送
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