「豆腐買ってきて」と言われたら、あなたはどんな豆腐を選ぶだろう?
最近では様々な種類が売られていて、「本格」「濃厚」「天然」「手作り風」…などおいしさをアピールする言葉はたくさんあるが、あなたが惹かれる宣伝文句がこれから使えなくなるかもしれない。

実は今、日本豆腐協会や全国豆腐連合など豆腐製造の業界団体が、パッケージなどの表示に関する新たなルールをまとめている。
現行の食品表示法等では、豆腐の表示には明確なルールが無いため、メーカーが自由に製品の謳い文句を使用していたが、厳格な表示の基準を定め、一部で使えなくなるNGワードも出てくるというのだ。
以下がそのルール案だ。

<NGワードの例>
・「本格とうふ」、「本とうふ」など
・「○○風」(京風、手作り風)
など
何をもって「本格」なのか、「○○風」なのか根拠がはっきりしないため禁止。

・「合成保存料不使用」「合成着色料不使用」など
普通は豆腐に使用しない添加物や、安全性の高い添加物の不使用をことさらに強調するのは原則禁止。

・「天然」、「自然」、「ナチュラル」など
・「純」、「純粋」、「純正」、「ピュア」など
・「新鮮」、「フレッシュ」、「作りたて」など

これらは、客観性や科学的根拠に乏しい表現だとして禁止。

・「最高級」、「最上級」など
客観性や科学的根拠に乏しく、不当な競争優位表示だとして禁止。

そして、表示の基準が明確化される言葉もある。

・「濃厚」、「特濃」、「濃い」…濃度を強調する場合は大豆固形分が11.5%以上とする。
・「手づくり」…手づくりを強調表示する場合は、冷却豆乳や凝固剤の副材は使用せず、凝固剤は手技で混合する。
・「新穀」、「新大豆」…収穫されてから概ね4ヶ月以内の大豆を使う。
・「国産」、「○○産」、「特定銘柄」、「特定品種」、「契約栽培」…強調する場合は当該原材料を100%使用する。
・「生とうふ」…強調する場合は、成型したあとや、容器包装に密閉された後に加熱処理を行わない。

さらにパッケージには、凝固剤消泡剤の物質名や固さの目安も明記し、公正取引協議会という業界団体に加盟した証の「公正マーク」の表示も検討しているという。

出典:日本豆腐協会
出典:日本豆腐協会
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「調製 充てん絹ごしとうふ」ってなに?

さらに原料などによって、大豆固形分10%以上のものは「とうふ」、8%以上は「調製とうふ」、6%以上が「加工とうふ」と分類し、製法などによって「木綿」「ソフト木綿」「絹ごし」「充てん絹ごし」「寄せ・おぼろ」「冷凍」の6種に分類。
すると下のように、なんと13種類の表示が使われることになるという。

1.木綿とうふ 2.調製木綿とうふ 3.ソフト木綿とうふ 4.調製ソフト木綿とうふ
5.絹ごしとうふ 6.調製絹ごしとうふ 7.充てん絹ごしとうふ 8.調製充てん絹ごしとうふ
9.寄せとうふ・おぼろとうふ 10.調製寄せとうふ・調製おぼろとうふ
11.調製冷凍とうふ 12.加工冷凍とうふ 13.加工とうふ

例えば「調製 充てん絹ごしとうふ」は、大豆固形分が8%以上で豆乳などを直接容器に入れて密封したのち固めた豆腐…という意味になる。

なかなか複雑な気もするが、なぜ今豆腐の表示を改める必要があるのか?
豆腐公正競争規約設定委員会の村尾誠委員長に聞いてみた。

手作りにこだわっていたメーカーには恩恵がある

――なぜ今、表示の新ルールを作るのか?

昔は、お豆腐屋さんが全国に5万軒ぐらいあって、職人さんがその地域の独自の作り方をしていて、対面販売でいろいろ話しながら買うことができました。
ところが今は、6000軒ぐらいに減って、スーパーで売っている豆腐はパッケージの上からでは、どういうものか分からなくなっています。

たとえば、炒め物するときに買った豆腐を入れたら柔らかすぎたという話は実際にあります。
それから、いろんな食品で「濃い」ものが流行っていますが、どのぐらい濃いのか豆腐では基準がないんですね。
それを、消費者の方に分かりやすい表示にすることで、目的に応じて豆腐を使い分けていただこうというのが一番の理由です。


――ちょっと分類が多すぎでは?

逆に消費者に分かりにくくなるかもしれないという意見もあります。
それについては今後も業界の中でしっかり議論をしていくつもりです。


――業界の中で新ルールに反対する意見はないの?

実際にまだあります。
新ルールによって自分が作っている豆腐が「豆腐じゃないと仕分けされるのではないか」と考えておられる事業者が多いと聞いています。
ただ我々が調査したところ、世間一般に出回っている豆腐は新ルールにもしっかり入っていますので、それほど心配はないとは思っています。
誤解みたいなものがあって、まだ事業者の足並みはそろったとは言いがたいので、これから1年間ぐらい議論を続けます。


――逆に新ルールで恩恵を受けるのは?

「手作り」などの言葉が、ちゃんと根拠のあるところだけが表示できるようになるので、これまで苦労をして手作りをやられてた事業者はメリットがあるでしょう。

豆腐売り場がアイスのようになる?

――ちなみに新ルールを破るとどうなる?

まず、これはあくまで業界の自主基準(ルール)なので、それを遵守すると意思表明するために公正取引協議会という業界が作る組織に入っていただきます。
こうして公正マークが付けられるようになります。
公正マークがついている事業者が違反をすると、当然、公正取引協議会の中の罰則規定による罰金や改善指導などを受けることになります。
この自主基準は、消費者庁と公正取引委員会(国の行政機関)が認定していますので、当然、報告が上がると独占禁止法や景品表示法に従って、国から指導なり勧告なり排除命令なりを受けることになると思います。


――新ルールの表示が世に出るのはいつ?

まずは今回の案をたたき台にして準備協議会を作り、大手メーカーや豆腐組合にお集まりいただいて1年ぐらい議論して、来年3月ぐらいに消費者庁に認定申請しようと考えています。
それが認められるのは、早ければ半年ぐらいでしょうか。ですので来年の秋ぐらいに新表示が出る可能性はありますね。
それから業界全体の表示を統一する猶予期間として2年ぐらいを設定しようと考えています。


――どんな変化が起きる?

我々は、これで「事業者のすみ分け」ができるかもしれないと考えています。
ご存知の通り、豆腐というのは低価格で、大豆をしっかり使った豆腐も、薄い豆乳で作った豆腐も、同じ土俵で売られているわけです。
かたや200円を超える豆腐もあれば、19円の豆腐もある、この違いは今の表示では説明がつかないんです。
それを、大豆固形分や凝固剤などを手がかりにして、豆腐の違いを消費者の方に分かっていただきたい。

アイスクリームと比較するとわかりやすいと思います。
いわゆるアイス類は成分によって、アイスクリーム、ラクトアイス、アイスミルクと分けられ、価格も違えば商品のラインナップも違います。
だからアイスクリーム売り場はバラエティに富んでいるんです。
豆腐についても、いずれそうなってゆくことを期待しています。

早ければ来年秋の導入を目指しているというが、現在、日本豆腐協会の公式サイトでは、とうふ類の表示に関する公正競争規約について、消費者と事業者からアンケートを受け付けている。
新ルール案は少し複雑な気もするが、謳い文句だけの粗悪品が淘汰されることは、消費者にとっていいことなので、意見を寄せてみてはいかがだろうか?

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。