初代キャプテン・ヨーロッパの苦悩
日本では、マスコットと言えば地方や観光PRに貢献するキャラクターがすぐに思い浮かぶ。熊本県であれば「くまモン」であり、彦根市は「ひこにゃん」が代表的なキャラクターだ。
一方、フランスやヨーロッパの場合はどうだろう。ミシュランの「ミシュランマン」など企業のキャラクターや、日本でもよく見るスポーツ界のマスコットだろう。イギリスでは特に数が多く、ファンを喜ばせている。今回は、一度は引退したキャラクターがヨーロッパを救うため復活する話だ。その名も・・・「キャプテン・ヨーロッパ」(Captain Europe)!?

彼は、EU=欧州連合のマスコットとして復活したのだ。遡ること2009年に活動を開始したヒーローは、ベルギーのブリュッセルにあるEU代表部で公務員をしていた男性だった。全身青タイツの恰好に黄色いパンツを身にまとい、EUの旗をマント代わりにしてブリュッセルを走り回っていた。
登場した当時、キャプテン・ヨーロッパはその役割について、「ヨーロッパについて説明して理解してもらうこと。そしてみんなの声を聞くこと」と話し、「私はヨーロッパのために戦い、コスチューム以上のものが必要。アイデアや勇気が必要だ」と強く主張していた。彼の敵は急進派や、公共機関に反抗的態度をとる人々、そしてヨーロッパ統合に反対する人々だ。
しかし、その奇抜な見た目から世間の目も冷たく、2016年には正式に引退を表明した。理由について「40代のおじさんが走り回る姿を見たくないと批判を受けていた。それに、私も40歳には引退をすると決めていた。しかし欧州連合内で業務改革の際に公務員業が3年伸びたことにより、43歳になってこのマントを脱ぐことができた。特にこの全身タイツを」というように、寂しさよりもホッとした様子のコメントをしていた。
考えてみると、日本でも公的機関にマスコットは存在する。例えば警視庁のピーポくん。ヨーロッパのキャラクターと異なり、ピーポくんはイメージキャラクターであり、日本を救うヒーローではない。
ヨーロッパの住民に言わせてみれば、経済危機の真っただ中で急進派が増える中、ヨーロッパを危機から救うのが、「キャプテン・ヨーロッパ」だとは、誰も思わない。それに加え、知名度はベルギーのブリュッセルに限られていた。本業は公務員であるため、日中は基本的に仕事をし、時間を見つけてはヒーローのマントを羽織っていた、という形だ。
その、言わば「初代キャプテン・ヨーロッパ」については、批判や笑いが多かったにも関わらず、人々の記憶には残っていないのが現状だ。
新たにヨーロッパの「英雄」が復活、「特殊能力は…EU」?!
そんな失敗をしたはずのEUが2月26日、突如として、見覚えのあるあの「ブルーの存在」を公式ツイッター上に掲載した。「キャプテン・ヨーロッパ2代目の登場??」ということでSNS上ではざわめきが起きた。

実は、EUの公式ツイッターに登場する前から、2代目は存在していた。初代の引退以降、個人のツイッターアカウントで“勝手に”活動してきた人物がいるのである。しかし、初代のヒーローとは違ってEUの職員ではなく、一般市民が行っていることから、その正体は謎に包まれている。ツイート内容には、EUに対する批判もあれば、歓迎する内容も数多かった。

EUの公式ツイッターに登場したことから、正式に「2代目」として認定されたも同様なのか? だとすると、「2代目」に扮する、この謎に包まれた人物は何を思うのか。
ツイッター上で接触を図ると・・・「2016年初代のキャプテン・ヨーロッパを引き継いだのは、イギリスのブレグジットを問う国民投票があるなどヨーロッパが混乱している時期だし、(世界情勢では)トランプ大統領が登場したからだ」と話し、「普段、EUのお固いステートメント=声明が、人には受けないから、より遊び心のあるやり方を選んだ。コスチュームは、初代からバージョンアップ。全身青タイツと黄色パンツは変わらないが、帽子と目隠しがリニューアルされた。2019年の欧州議会選挙には新たなバージョンアップを考えている」と明かしてくれた。
彼のツイッターアカウントでの自己紹介を見てみよう。他のさまざまなヒーローと同じように、特殊能力を持っているらしく、Super Power(特殊能力)=「EU」と紹介されている。しかし、彼いわく実はこの言葉には、「特殊能力」以外にも、「超大国」の意味を含めて使用したそうだ。EUは国際社会における「Super Power(超大国)」。そんな意味も込めた自己紹介に、EUに対する並々ならぬ愛着を感じるのである。
EUから切り離されても、批判を受けても活動を続けるヒーロー
再び脚光を浴びることになった理由は、5月26日に行われるヨーロッパ議会選挙にある。投票率が、国内選挙を下回るところを見ると、議会選挙は、各国の国民から軽視されている。2014年の投票率は、42%とEUが誕生してから最も低い数字となった。
より多くの国民に興味を持ってもらうために生まれ変わった2代目のミッションは、「若者への投票を呼びかける」ことなのだが、今回はヨーロッパ市民に受け入れられ、ミッションを達成することができるのだろうか?!

SNS上ではさっそく、「アカウントハッキングされた?!」とか、「賭けに負けてそんな恰好をした君へ、がんばれ」などのコメントが集まり、話題を呼んでいる。
2代目キャプテン・ヨーロッパ自身は、「批判はされているが、話題を呼べた」などと、満足しているようだ。
盛り上げる気満々の2代目だが、公式認定した?はずのEUに問い合わせてみると・・・。
「あ、2月26日の公式ツイッターでは、彼のツイッターをリツイートしただけです。彼を公式に認めたわけではありません。あくまでも個人としてやっていることです」。
さらに、今後彼を使うかとの質問に対しては、「使いません」。
どうやら、2代目は完全に片思いの個人業のようだ。
いずれにしても、5月26日のヨーロッパ議会選挙で、その宣伝効果が試される。投票率への影響はいかに!?
【執筆:FNNパリ支局 カメラマン 小林善】