女子日本代表が東京五輪で銀メダルを獲得し、男子日本代表がパリ五輪で強豪国フランスをあと一歩の所まで追い詰めた日本のバスケットボール。
そのバスケ界で、次の時代を担う世代の変革が進んでいることをご存じだろうか。
未来の日本代表選手育成、そして五輪やW杯など、世界の頂での戦いを視野に行われている改革を紹介する。
トーナメント全盛時代にリーグ戦という一石
高校スポーツといえば“一発勝負”のトーナメント。
“負けたら終わり”青春を燃やす姿に私たちもひきつけられてきた。もちろんそれは、高校バスケも同じ。刻まれた勝利の裏で数々の涙が全国大会を彩ってきた。
しかし、高校生を中心としたU18世代の育成と強化のため、バスケ界が新たに取り入れたのは“負けても次がある戦い”。2021年に始まった「U18日清食品リーグ」だ。
この記事の画像(19枚)日本全国の強豪チームが集結し、U18世代では珍しい『リーグ戦形式の日本一決定戦』が今年も開催されている。トーナメント全盛の時代に、一体“なぜリーグ戦”なのか。日本バスケットボール協会・三屋裕子会長に聞いた。
三屋会長:
トーナメント文化はある意味ノックアウトといって、一発で終わりになってしまいますが、負けたことを次にいかすためのモチベーションみたいなものって必要だったと思います。
結果に対して次に何をやったらいいか。考える力みたいなものは、高校生のうちから根付かせたい。そういった思いでリーグ戦を作りました。
バスケ日本代表の中核を担う現役選手もこう語る。
髙田真希:
W杯、五輪というのは必ずトーナメントの前にリーグ戦があって、たとえ負けたとしてもトーナメントに進むためにはそのリーグ戦を突破しなきゃいけない。自分たちのどこが悪くて負けてしまったのか、どこが良くて勝てたのかっていう部分をはっきりさせて次のゲームにのぞむ。
髙田真希:
そういったことを習慣づけるには、学生時代からつけておくっていうのが世界と戦う上で重要だと思いますし、いい経験ができるものだと思っています。
そしてパリ五輪でも活躍し、わずか5年前には高校生だった河村勇輝選手はリーグ戦の持つ意味をこう語る。
河村勇輝:
リーグ戦なので戦う相手が前からわかっているというのは、チームとしてもそうですし個人がマッチアップする選手をしっかり分析して、準備してきたことをどれだけ試合で発揮できるか。
河村勇輝:
トーナメントとは違った部分だと思うので、高校生からそういった経験ができるのは大学、プロになってからすごくいきるかなと思います。
現在は、選ばれしU18世代全国トップレベルのチームが参戦するトップリーグと、全国9つの地域で行われるブロックリーグの2つのカテゴリーで試合が行われているU18日清食品リーグ。
最高峰の舞台、トップリーグには選考基準を満たした男女各8チームが参加。8月末から11月半ばまで、全国各地のアリーナで、世代最強をかけ全7試合の総当たり戦を繰り広げている。
また“負けても次がある”リーグ戦では一定数の試合が確保されているため、多くの選手に出場機会があり、チーム力の底上げにもつながっているという。
このバスケ界の底上げを図るための新たなリーグ戦の創設をサポートするは、安藤スポーツ・食文化振興財団。事務局長の清藤勝彦氏に聞いた。
清藤事務局長:
U18世代の最高峰のリーグという位置付けですから、それぞれのチームが自分達の持ち味を活かして切磋琢磨する、熱い試合を繰り広げていただきたいと思っています。
部活・クラブの垣根を越えた大会
そしてこの大会では、今まで高校バスケではありえなかったことも…
三屋会長:
Bリーグのユースと学校の部活、そこが融合することによって、何が起こってくるかわからないですが、色んな人たちの色んな刺激を高校生同士が与えあって、感じ合って、そして高め合ってくれればいいなと思っています。
今までバスケ界では実現していなかった、高校の部活とクラブユースの公式戦を実現したのが「U18日清食品ブロックリーグ」。
今年から九州ブロックと北海道ブロックが新たに誕生し、全国9つの地域でリーグ戦を戦っている。
その中のひとつ、北海道ブロックにはBリーグのユース大会で3連覇中のレバンガ北海道U18が参加。インターハイ出場チームなどと公式戦を戦っている。
レバンガ北海道でU18世代を率いる 齋藤拓也HCはこう語る。
齋藤HC:
Bユースの選手たちとこういう部活動の選手たちが対戦することで、レバンガ北海道U18としてはやっぱりウインターカップとかインターハイに出場する選手たちと戦って成長していくものだと感じています。そういった意味で本当に今回戦わせてもらうのは、選手たちにとってものすごくいい成長につながると感じています。
高校の部活とクラブユースの融合、新たな取り組みが日本バスケの未来を明るく照らす。
高校生主体の運営で高校生が主役に
さらにこの大会にはもう一つの取り組みが。
三屋会長:
高校生らしく高校生が、高校生のために作り上げる大会といったものを最終的にできればいいと思っています。
この大会の特色は高校生主体の試合運営だ。
試合中のタイマー操作やスコアなどを記録するテーブルオフィシャルズ。
さらにはコートスイーパーと呼ばれる、試合中のコートを清掃するモップ担当も高校生が自ら行なっている。
さらに高校生の大会では珍しく、ハーフタイムには高校生によるダンスショーも行われている。選手以外にも様々な場所に活躍の場があるのがこのリーグの特徴だ。
さらにU18日清食品トップリーグでは高校生の大会とは思えない会場演出も。
試合前には鮮やかなライティングが場内を盛り上げ、試合中にはBGMや会場MCによるアナウンスも。プロさながらの演出に、選手たちはテンションをアップさせて試合にのぞんでいる。
こうした多角的な取り組を支援する安藤スポーツ・食文化振興財団、事務局長の清藤勝彦氏はこう語る。
清藤事務局長:
心沸き立つような演出で選手が気持ちが高揚していって、それを見た子供たちが憧れるそんな大会になって欲しいと思います。
4年後のロス五輪へふくらむ期待
三屋会長:
どんどん今の高校生は日本代表を脅かして欲しいですし、リーグ戦でいっぱい経験してロス五輪には今の高校生から半分くらい出るくらいの気持ちでやってもらいたいです。
河村勇輝:
もちろん勝ち負けは大事ですけど、それ以上に自分たちを試してみるとか、プレーを試してみるとか、チャレンジしてみるというところにフォーカスしてみながら、成長を第一に考えて試合に取り組んでほしいですね。
高田真希:
いろんなカテゴリーから注目されたり、見られる環境は昔にはなかったことなので、とにかく楽しんでやって欲しいと思いますし、自分の実力を発揮して欲しいと思います。学生生活の3年間の中でしか味わえない経験だと思うので、そこの舞台で日々準備しながら大会を楽しんで欲しいと思います。
リーグ戦文化の定着、そして経験の積み重ね。いつしかこの取り組みが実を結び、まずは4年後のロス五輪、そしてその先へ。日本バスケの未来へと繋がることが期待されている。