人間には視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の「五感」があり、そのほかに「第六感」という無意識の潜在的な能力がある…などとよく聞くが、実はあなたも持っているかもしれない。
3月19日、東京大学と米カリフォルニア工科大学などの共同研究チームは、多くの人に地球の「磁気」を感じる能力があることを発見したと発表した。

地球は方位磁針のN極が北を指すことからも分かるように磁石と同じように磁気を帯びている。
この地球の磁気=「地磁気」は、渡り鳥やミツバチなどがナビゲーションに使っていることは分かっていたが、これまで人間には磁気を感じる力はないとされていた。

from C. Bickel, courtesy AAAS.
from C. Bickel, courtesy AAAS.
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研究チームは、2m四方の電磁波を遮断する部屋の中に、地球と同じぐらいの磁気を発生し、その方向をコントロールできる装置を設置。
装置の中に、様々な国籍の18歳から68歳まで、男性24人・女性12人の被験者に入ってもらい、頭部表面の64箇所の脳波を計測した。
その結果、地磁気の方向を変えると脳波が変化することを発見し、人間も地磁気を感じることができると結論付けた。

これで方角が分かるようになれば、方向音痴の人はいなくなりそうだが、実はこの感覚は自分で認識することはできないという。
一体どういうことなのか?その感覚は何に役立つのか?
研究チームに加わった、東京大学大学院の真渓歩准教授に聞いてみた。

何か感じた気になりますが全然分かりません

――磁気を自分で感じることはないの?

まったく感じられないですね。
暗闇の中で目を閉じてずっと座っているので、いろいろ妄想したり、なにか感じたような気になるんですけれど全然分からないです。


――どんな実験だった?

電磁波シールドがある部屋に入ると、音は全く聞こえず、真っ暗になります
一つの実験はおそらく数分ですが、それをいろいろ条件を変えて何回もやるので、数十分間は中に入ったままになります。
しかも、ふかふかの椅子に座って目を閉じるので、激しく眠たくなる実験ですね。(笑)
おそらく寝ていた人もいっぱいいると思います。


――特別な脳波を見つけたの?

これは大変面倒な話でして、例えば確実に知覚がある「視覚」「聴覚」では光が付いたり音が鳴ったりすると、それに対応する脳の部位が活動した脳波がちゃんと出るんですね。
しかし「磁場」に対してどういう脳波が出るのかは、まったく分かっていません

さらに、高校の物理で教わることなんですけど、人間を磁場で刺激すると、電磁誘導によって頭の中に電流が流れ、脳波として観測されてしまいます。
極端なことを言えば、死体を磁場刺激しても脳波が測れるんですよ。
だから、磁場刺激を与えて出た脳波のような「何か」を見ても、それが何なのか分かりません。

これとは別に、何もしていないときにずっと出ているアルファ波という脳波は、1秒間に10回ぐらい振動しているんですが、光や音などの刺激を受けると波の振動が小さくなるんです。
つまりアルファ波の振幅が小さくなる現象を捕まえると、人間が何かの刺激に反応したということが間接的に言えます。
そこで時計回りや反時計回りにスイングする磁場を作ると、それに対応する反応が現れたとういうことです。

実験で得られた「脳波の波形」では、時間を表す横軸が0秒の時点で磁場刺激を与えると、0.25~0.3秒後から振幅が小さくなっているのがわかる。

出典:プレスリリース
出典:プレスリリース

――地磁気が分かるということは「方角」が分かるの?

磁気の方向ではなくて、地磁気が変化したことに脳波が対応したということです。


方向音痴とは関係ありません

――人間は磁気をどこで感じている?

これは、よくわかっていません。
まず、人間の頭の中の至る所にはマグネタイトって言われている鉄の酸化物が存在しています。
また、目の網膜にはクリプトクロムというタンパク質が存在します。
このどちらが磁気センサーになっているのか、大論争が続いています。わたしは、どっちでもいいという立場でやっています。


――人によって鋭い鈍いはある?

この実験のデーターでは、強く出る、出ない人はもちろんあります。
だからと言ってその人が方向音痴かというのは関係ありません。(笑)


――やっぱり「強い磁気」だと感じやすいのでは?

「人間の祖先は地磁気感受性を持っていたけど今はずいぶん弱っている」と考えて、普通の地磁気よりも強い磁場をかける実験は、今までたくさんの人がやっているんですが、ほとんど失敗に終わっています。

ちなみに、渡り鳥の実験でも失敗しています。
渡り鳥は強い磁場をかけると、これは嘘の信号だと思うのか磁気をあてにしなくなるんです。
そこで人間も渡り鳥と同じように、地磁気で実験したところ、今回の結果が出たわけです。

――人が磁気を感じるか調べたきっかけは?

カリフォルニア工科大医学にいる、ジョー・カーシュビンク先生という方は、人間だけではなくあらゆる生体が持つ磁気センサーについて非常に長い間追いかけていまして、5年ぐらい前に人についても調べようと声をかけてもらった一人が私だったんです。


――この感覚の呼び名は?

別の取材のときに「調べてみたら“磁覚”というのがあるので“磁覚”にしますね」って言われましたが、僕は「磁気覚」と言っていました。
英語では“Magnetoreception”ですが、ぴったりする日本語はないかもしれません。


――この感覚は何か生活に役立つ?

それは一生懸命考えているんですけど、直接これというのはなかなかなくて…。

ただ人間の、意識と無意識の状態を比べると、エネルギーの80%ぐらいは無意識の方で使っていると言われています。
ですから磁場は、きっと無意識の状態で行われる判断などに影響を与えているのだろうと思います。
例えば方向音痴な人が、理由もないのに自信を持って歩きだすのも、もしかしたら関係あるかもしれません。



真渓歩准教授によると、この研究で使われた「アルファ波の振幅が小さくなる変化によって間接的に反応があったとする」方法は、第六感や意識の研究者にとってひとつの指針になるという。得体のしれない未知の感覚を調べる時には、新たな脳波などを見つけるのではなく、なにかが減ったり無くなるのを見つけることが、間接的に新たな発見に繋がるかもしれないとしている。

今回発見された、人が磁気を感じる能力が何に役立つかは微妙だが、「第六感」が存在することは証明されたようだ。他にも人間の潜在的な能力にはどんなものがあるのか、もっと知りたいものである。


プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。