今年のGWは10連休

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今年は、新天皇が即位する5月1日と即位礼正殿の儀が行われる10月22日が休日になる。これらの休日は国民の祝日扱いになり、4月30日と5月2日も休日となることから、今年のGWは10連休となる企業もある。

一般的に、連休が増加すれば、娯楽、レジャー、外食等へ費やす時間が増え、これらの関連支出が増加することが予想される。ただし、製造現場で工場の稼働日数が減れば、生産量の抑制を通じて日本経済への押し下げ要因となる。

そこで以下では、今年のGWが10連休になることが日本経済に及ぼす影響、すなわち改元がもたらす日本経済への影響を検討してみたい。

旅行総消費額は4000億円以上増加

まずは、旅行動向に対して及ぼす影響を検証してみよう。ここでは、JTB総合研究所が昨年12月20日に公表した「2019年の旅行動向見通し」を参考にした。資料1はJTB総合研究所が推計した旅行総消費額の推移である。これによれば、今年は旅行総消費額が前年比+2.8%の15.3兆円と見通されていることがわかる。

JTB総研が推計した日本人の旅行総消費額の推移
JTB総研が推計した日本人の旅行総消費額の推移

今年のトピックスを見た場合、ゴールデンウィークなど2019年限りの祝日がある一方で、大型スポーツイベントの「ラグビーワールドカップ2019日本大会」が開催される。なお、前年からの増加額が4,156億円程度であることからすれば、約0.1%のGDP押し上げ効果に相当し、総旅行延べ人数が3.1億人であることからすれば、一回当たり約4.9万円程度の平均消費額となる。

人手不足に対する警戒

こうした10連休により、車による帰省ラッシュや国内旅行が増加すれば、車の給油の増加や、洗車や車両メンテナンスの需要も伸びるだろう。実際、最新の2011年産業連関表によれば、「宿泊業」の需要が1万円増加すると、「その他の運輸付帯サービス」分野の需要が489円増加する関係がある。

しかし、企業活動への影響を見た場合には、注意が必要であろう。というのも、例年4月下旬には上場企業の3月決算発表が本格化する。特に例年、5月上旬をピークに多い日には一日数百社が決算を発表する。従って、ここで10連休により営業日数が減少し、GW前後の限られた日程に決算発表が集中することになれば、発表会場の不足や、決算内容を読み解く投資家への影響も無視できないだろう。

一方で、人手不足が続く業界にも警戒が必要だろう。というのも、10連休で長期不在となる世帯が増えることになれば、連休前にネット通販の駆け込み需要が発生する可能性があり、配送面でトラブルが多発することにもなりかねない。

また、GW中はイベントや小売・外食等の販促、引越しなど大量の短期バイト募集が発生することが予想され、採用する企業側からすれば、より時給を上げないと人手が確保できなくなる可能性もありそうだ。

社会生活への悪影響

更に、保育園や病院、銀行、役所等が長期閉鎖することによる国民生活への影響も無視できないだろう。

まずは、子供の預け先が確保できなければ、仕事を休まざるを得ない労働者も出て来る可能性がある。このように勤務日数が減る非正規労働者の所得が減ることも考慮すれば、10連休が日本経済に及ぼす影響そのものはプラスもマイナスも両面あることがわかる。

こうした社会生活への影響として最も懸念されるのは、やはり医療機関が休日になることであろう。患者の中には、人工透析を受けている人や、複数の医療機関を別の日に受診する高齢者に加え、病状が急変する可能性もあるため、こうした対応が課題といえよう。

また、新しい生活にようやく慣れた児童や生徒、新入社員等への心理的な影響を懸念する向きもある。このほか、銀行業務の10日間停止するとなれば、資金繰りへの影響も懸念されよう。

金融市場では連休前の株価暴落リスク

東京株式市場
東京株式市場

意外な分野では、株価など金融市場への影響にも警戒が必要だろう。実際、10日間も連休が続けば、連休前後の株価の触れ幅が大きくなる可能性がある。

というのも、日本の株式市場は休場となっても世界の市場は動いているため、海外で大きな材料が発生しても株式を売買できない恐れがあるためである。特に、為替市場は世界中のいずれかの市場で24時間取引されており、当然のことながら日本の10連休中も市場は開いている。しかし、この間に円の取引量が減れば、通常よりも少ない規模の売買で円レートの値動きが大きくなり、それが株式市場にも反映される可能性がある。

こうした中で、日本の市場が止まると海外で悪材料が出ても、日本の投資家が損失を回避するための売りが出せなくなることになれば、10連休中に株式を保有するリスクを避けるために連休前に株式市場に売り圧力が高まり、株価の下落をもたらす影響も懸念される。

お祝いムードから一気に景気後退モードへ

以上のように、GWの10連休を中心に、改元がもたらす日本経済への影響は様々な側面から様々な分野に波及することになろう。

しかしこの他にも、昭和天皇の崩御による平成の代替わりでは国民の間に自粛ムードが漂ったのに対して、退位日を含めて10連休となればお祝いムードが盛り上がるといったプラスの側面もある。逆に、製造業では工場の稼働日数が減ることで生産量が抑制され、その挽回生産が連休前後で補えなければ、10連休によって想定ほど景気が押し上げられない可能性もあるだろう。

尚、GW明けの5月20日に控える1-3月期のGDPでは大幅マイナス成長になると予想されることや、10連休でお金を使いすぎた消費者が一気に節約モードにシフトする可能性があること等から、改元に伴うお祝いムードが一気に景気後退モードの様変わりする可能性がある点については十分な注意が必要であろう。

【執筆:第一生命経済研究所  経済調査部 首席エコノミスト 永濱利廣】

永濱 利廣
永濱 利廣

1971年群馬県生。早稲田大学理工学部工業経営学科卒業、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。第一生命保険相互会社入社後、千葉南支社、日本経済研究センター出向を経て、現在、第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。跡見学園女子大学マネジメント学部非常勤講師、あしぎん総合研究所客員研究員を兼務。内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、他。