能登半島地震で甚大な被害を受けた奥能登の畜産業にも、9月の豪雨は大きな影響を与えている。市内を流れる河川の氾濫による浸水や、土砂災害で大きな被害を受けた珠洲市内にある、松田牧場の被害の実態を取材した。

能登半島地震からの復旧へ…歩み始めた矢先

道路が大きく崩落し、道路わきもがけ崩れが発生している。
道路が大きく崩落し、道路わきもがけ崩れが発生している。
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記者:
珠洲市唐笠町です。重機の先、左側の道路が崩れています。

道路が大きく崩落し、がけ崩れが発生した道を通り抜け、取材班が向かったのは珠洲市の松田牧場だ。松田牧場では約120頭の牛を飼育している。

2024年2月松田牧場の視察に訪れる馳知事
2024年2月松田牧場の視察に訪れる馳知事

松田牧場には能登半島地震の発生から1カ月後の2024年2月、馳知事が視察に訪れていた。

松田牧場 松田徹郎さん:
借金したりしてやった所で、そんな余力がある人はいない…全額補助、とまではいかなかったとしても、それに近いぐらいは支援をして頂かないと再建は難しいのかなと

馳知事にそう語る2月時点の松田さん。元日の地震からまもなく9カ月。松田牧場では地震前とほぼ同じくらいまで生乳の出荷ができるようになっていた。しかし今回の大雨で、大きな打撃を受けることに…

豪雨で奥能登の畜産業に深刻な影響

記者:
能登の記録的な大雨から6日目。こちらの牧場は断水が続いていて牛舎の近くに水の入ったタンクを置いて何とか牛に水を供給しています。

松田さん:
豪雨で被災し、牧場が孤立状態になりました。停電は9月24日に解消しまして、断水は継続中。4牛舎中の1牛舎は孤立状態。牧草地を重機で通って何とか行ける状況です。

豪雨による浸水で水浸しになる牛舎
豪雨による浸水で水浸しになる牛舎

豪雨で牛舎は水浸しになり、牧場につながる道路も土砂崩れなどで寸断されてしまった。大雨から3日経ち、ようやく発電機が届き搾乳が可能になったが、断水の影響もあり、生乳は再び出荷できなくなってしまっている。

松田さん:
牛の体力的にも限界かなと…

浸水被害と断水の影響で、牛たちも過酷な環境に置かれていた。

再びの断水…生乳の出荷停止!牛たちも危機に

牧場を移動するのも、通常通りにはいかない中、取材班が見せてもらったのは、山から湧き出す水をタンクに汲む様子。湧き水が出るホースのそばには、大きな貯水用のタンクがいくつも並べられていた。牛の飼育には大量の水が必要なことが見て取れる。この環境について松田さんに尋ねると…

松田さん:
湧き水を汲んで震災後に水を工面するために用意した環境です。タンクなども、もう使わないだろうと正直思ってましたけれど、今回また断水になったので引っ張り出してきました。

この日、松田さんは黒毛和牛などが約20頭いる牛舎の前で、水の入ったタンクを重機で運び、牛舎の中の牛たちに水を供給するために作業時間の大半を割いていた。牛たちは作業する松田さんの方をしきりに見て、大きな鳴き声を上げる。何かを訴えるようなその声が気になり、普段からこんなに鳴いているのかを松田さんに尋ねると…

松田さんの方を見つめ頻りに鳴く牛たち
松田さんの方を見つめ頻りに鳴く牛たち

松田さん:
牛たちに水を十分にやれてなくて…喉が乾いて鳴いているんです。ここの牛は、2日間水を飲めていなくて…急いでいる感じ

少しずつ秋の訪れを感じるが、日中はまだ暑さを感じる季節。そんな中、2日間も水を飲めないのは牛たちにとって、つらい状況である。松田さんも、牛たちのために急いで水をタンクからくみ上げようとするが、ポンプが故障していたのか上手くいかず…焦りが募っていく。

松田牧場の従業員は、松田さん含め4人。人手が足りないため、この日松田さんは、ほぼ1人で牛舎での給水の準備を行っていた。作業を続けること約5時間。ついに給水ができるようになった。

松田さんが牛の給水皿の弁を開けて、皿水が出るようにしていく。牛たちにとって2日ぶりの水だ。牛たちが争いあいながら水を飲み始める様子を見て、松田さんは安堵の表情を浮かべた。

待ちわびた2日ぶりの水を争いながら飲む牛たち
待ちわびた2日ぶりの水を争いながら飲む牛たち

松田さん:
やらなきゃいけないこといっぱいあるんですけれど、水に時間取られて今。人手増やしたいんですが、1日2日のボランティアというよりも従業員を雇用したいんですが、珠洲市全域で居住する場所がない。地震で壊れたり大雨で浸水したり。

松田さんはもどかしい状況を吐露する。松田牧場で働きたいと申し出てくれる人もいるが、今は従業員を雇おうにも地震と水害により甚大な被害を受けた珠洲市内には、暮らせる場所が無い。そのため、応募があっても断らざるを得ない状況となっていた。

厳しさ増す経営…それでも、使命が!

豪雨災害のさなか生まれた牛
豪雨災害のさなか生まれた牛

こうした中、希望の光となる命の誕生もあった。9月22日、まさに豪雨災害の最中に産まれた子牛だ。困難な環境に置かれながらも、哺乳瓶からミルクを元気に飲んでいる。

松田さん:
命に待ったなしですからね。なんとか頑張って乗り切るしかないかなと思っています。珠洲の酪農が無くなりかけている。酪農を維持していかなければならないという使命がある。安心・安全な牛乳を出荷できるようになったら、ぜひ牛乳を飲んでいただきたい。

震災に続く豪雨災害。人手も不足し暮らしの再建も困難な中、生き物の命と珠洲市での酪農の未来に向き合いながら奮闘する姿が、そこにはあった。奥能登地域の暮らしと産業を立て直すためにも、一刻も早いライフラインの再建と、産業復興へ向けた支援が必要とされている。

(石川テレビ)

石川テレビ
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